cluster amaryllis
旦開野
1-1悪夢
cluster amaryllis……彼岸花。花言葉は「悲しき思い出・転生・再会・思うはあなた1人」別名『霊花(れいばな)』
「どうして……どうして……」
暗闇の中から聞こえる、おどろおどろしい声はだんだんと玲花に近づいてきた。
「どうして……僕を置いていくの……」
憎しみが溢れるようなその声は大きくなっていく。
「どうして僕を裏切ったんだ!!!」
その言葉と同時に、暗闇から男性の顔が浮き出たかと思うとそれは玲花に向かって襲いかかってきた。
「きゃあああああ!!」
目が覚めると、そこにはいつもの天井が広がっていた。窓を見ると外は暗闇に覆われている。玲花は枕元に置いてあったスマホに手を伸ばした。画面に表示された時刻は午前3時。彼女の額には大粒の汗が溜まっていた。
「ねぇ、大丈夫?何だかすごくうなされてたけど……」
部屋の椅子に座っていた少年が心配して声をかける。玲花と同い年の16歳くらいの、マッシュルームヘアの色白い少年だ。
「なんか嫌な夢を見た。誰かに何で裏切ったんだって問いただされて……そして襲われたの」
「そいつはどんなやつだったの?知ってる顔?」
彼は玲花のことをとても心配しているようだ。
「多分会ったことないと思う。あれ……さっきまで覚えていたのに。うまく思い出せないや」
玲花がうーんと唸っていると、廊下から早足で近づいてくる足音が聞こえた。
「ちょっと玲花。大丈夫? 」
扉を開けてやってきたのは玲花の叔母、由佳だった。今までぐっすり眠っていたようで、癖のある髪は四方八方に跳ねている。彼女は少年の方は見向きもせず、玲花に近づいた。
「なんか叫び声が聞こえたし、1人でぶつぶつ言ってるし……大丈夫? 」
由佳はベットにいる玲花の顔を覗き込む。少年同様、とても心配している。
「うん。大丈夫だよ。何だか悪い夢を見たみたい」
「だんだん暑くなってきたもんね。寝苦しいようだったら部屋のエアコン使ってね。今更遠慮なんてしなくていいんだから」
「ありがとう。由佳ちゃん。明日もお仕事なのに、起こしちゃってごめんね」
「そんなこと気にしなくていいのよ」
姪が何ともないことを確認して、由佳は再び自身の部屋へと戻っていった。やはり、少年の姿は彼女には映っていないようだ。玲花は耳を澄まして由佳が部屋へと戻ったことを確認すると少年の方へ向き直った。
「甲夜!家にいる時はあまり話しかけないでよって言ってるじゃん」
怒鳴ってはいるが、その声は随分と小さい。
「そんなぁ。せっかく心配してあげたのに」
文句を言いながら甲夜と呼ばれた少年は玲花が座っているベットの方へ近づく。彼の足元は透けていてよく見えない。
「あなたはは幽霊なの。姿も声も、由佳ちゃんには聞こえないんだから。幽霊と話しているなんて知られたら私がおかしい人だと思われちゃうでしょ」
「僕が見えてるだけで君は十分おかしいよ」
「えーひどい!そんなこと言うならこの家から追い出すよ」
「できるもんならやってみな。まぁ僕は君から離れることはできないんだけどね」
そう言う甲夜の顔は何故か得意げだ。玲花はあくびでそれに答えた。
「わかってるよそんなこと。あーなんだか眠たくなってきたな。もう一眠りしようかな」
「ねぇ、話逸らしたでしょ?」
「おやすみ」
「全く……」
眠りについた玲花を横目に、甲夜はまた椅子に座ると、彼もまた眠りについた。
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