第31話 クックック。
「失礼するよ。おや、もう全員揃っているようだね」
白衣の女性は生徒会室へやってくると周りを見渡し、覇気のない声でそう言った。
髪はボサボサで、瞳の下には大きなクマがある。
「……秋月先生。このタイミングは狙っているんですか?」
「クックック。さぁ、どうだろうね。キミを弄るのは私の趣味のようなものだからね」
先輩がジトっと見つめると、女性はさも楽しそうに笑ってみせた。
その様子を見て、先輩は諦めたようにため息をつく。
「先輩、その人は……?」
「ああ、ごめんなさい。面識のない人もいるわよね。この方は————」
女性は先輩を止めるように手をかざすと、俺たちの方に一歩前へでる。
「自己紹介が遅れてすまない。私は
秋月先生が眠たそうな瞳で笑いかけると、最愛は興味なさそうに適当な相槌を返し、琥珀はぷいと顔を逸らした。
いや、オマエラさぁ……。
愛想がないにも程がある。
外では猫被り媚び売りのプロだというに。ここではその気が一切ないらしい。
あ、約一名にそれでいいと言ったのは俺だった。
ここは俺がしっかりしないと……!
「初めまして。俺は2年の天川スズメです」
「あ、わ、わたしも〜、姫咲萌香です〜」
「これからよろしくお願いします————」
頭を下げようとすると、先程の先輩と同じように手をかざして遮られる。
「顧問と言っても、私は若輩でね。生徒会が何をするのか、私が何をすればいいのか、さっぱり分からないんだ」
「は? それって……」
「まぁ心配する必要はない。ここにいる立花に任せておけば大抵のことはなんとかなる。……なんとかして欲しいなぁ」
期待を寄せるように立花先輩を見つめる。
「先生……」
先輩はそれをやはり、ジト目で受け止めた。
その呟きには、先輩の長年の苦労が滲み出ているように感じる。
わかったよ先輩!
この人はダメなオトナってやつですね!
「クックック。まぁそう睨むな。キミみたいな優等生にそんな目で見られると、教師としてはゾクゾクする。それに……」
くつくつと笑って、秋月先生は先輩の肩を叩く。
「キミだってたまにはミスをする。それくらいは分かっているよ」
「なっ……先生……! それは……!」
「ミス……?」
先輩が? はてと首を傾げる。
「おや、まだ話していないのかい?」
「これからするつもりだったんです」
「そうだったのか。それは悪いことをした。クックック」
忍笑いを隠さない秋月先生の手を振り払うように先輩は黒髪を揺らす。
「教師なら、たまには生徒の手助けもしてみては?」
「いやいや。キミのことは信頼している。私の手は必要ないさ。ここには私の信頼するキミが信頼する後輩たちもいるようだしね」
先輩を嗜めるように言うと、秋月先生は俺たちの方へ向き直る。
「立花を助けてあげてくれ。それから、この子は意外と寂しがり屋だからね。一緒にいてあげてくれると、私としても安心する」
「だから先生! そういうことを……!」
「これで私の仕事も終わりかな。色々な意味で。それじゃあ立花、あとはよろしく」
「ちょっと先生!」
生徒会室から出ようとする秋月先生を先輩は呼び止める。
すると秋月先生は意外にも素直に立ち止まったのだが……
「ぐぅ……むにゃむにゃ」
立ったまま寝ている。
「だから、寝るならそこの簡易ベッドでと……」
え、生徒会室ってそんな物まであるの? 最高かよ。
秋月先生が立ったまま寝てしまうのは授業中でもよくよくあることらしく、驚いていたのは俺と姫咲だけだったのだった。
なるほど。
この教師に対する反応としてなら、最愛と琥珀のアレは特に間違っていなかったのかもしれない。
・
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「それで先輩、さっきの続きですが……ミスとは?」
先生を寝かしつけ、ようやく話は本題へ。
もう放課後終わっちゃうでしょ! 早くしましょ! 俺も眠い! 帰宅部の活動時間はもうとっくに終わってるんですよ!
「そうね。まずは、これから1週間後に迫った行事についてお話します」
「行事〜? 何かあったっけ?」
姫咲が首を傾げる。
俺にも心当たりがなかった。
1週間後というと、ちょうどゴールデンウィークが始まる頃だ。
「あるわ」
先輩は背後のホワイトボードを叩いて、勢いよく裏返す。
「新入生歓迎会よ」
ホワイトボードに大きく銘打たれたそれが、俺たちお試し生徒会の最初のお仕事であるらしい。
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