第8話 疑惑

郁美と真戸さんと別れた私は帰り道の途中で三好さんに電話を掛けた。しかしコール音が鳴り続けるばかりで中々出てくれない。


(なんで出ないの)


やがて留守電メッセージが流れ出したのでそのまま切った。


(何…これ)


電話に出てくれないだけで途端に先程溜まった勇気が零れ落ちて行くようだった。


三好さんは休日に時々連絡が取れなくなる時があった。しかも私からデートに誘っても断られることが多々あった。そういう時は大抵『ごめん、その日は一日中忙しくて』と言われるのだけれど。


(一日中忙しいって何よ!)


休日に彼女に使えない時間以外で何がそんなに忙しいのか分からない。


(なんかもう…色々謎が多過ぎだよ)


心が折れかかったその時、突然電話が鳴った。慌てて画面を確認すると三好さんからだった。


「も、もしもし!」

『もしもし、美佳ちゃん?俺だけど先刻電話くれたでしょう?出られなくてごめん』

「三好さん、今何処にいるの?」

『…………え』


(ちょ、今の間は何?!)


ちょっとしたことでも気になってしまう私の精神状態はかなり極限だ。


「今、何処にいるの?逢いたいんだけど」

『…えーっと……今すぐは…ちょっと』

「どうして?あ、じゃあ私が三好さんの処に行くから場所教えて」

『いやいや、それは無理!』

「は?」


(なんでそこだけめっちゃ食い気味に拒否してるの?!)


『と、とりあえず…明日…の夜とかは?それなら都合、つくんだけど──』


そう三好さんが話しているところで急に電話の向こうから小さく『拓也くーん、まだぁ?』なんて呼び掛けるような声が聞こえた。


(は?何、今の声)


若い女の声だ。


『あ、ごめん、美佳ちゃん。ちょっと手が放せなくて…またこっちから電話掛けるから』

「ちょっと、今の──」


私の反論の言葉を最後まで言わせてくれないままあっけなく通話は切れてしまった。


「……」


私はその場で茫然と立ち竦むしかなかった──。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る