第20話 兄上をさがせ!
さぁて、移動ついでにラスボスのスキルを確認しましょうか。
と言ってもなぁ。原作の設定なんて、あんま覚えてないんだよなぁ……。
うわー、思い出せー! 思い出さないと今後の展開の対処も危うい……唸れ、俺の大脳皮質ッ!!
おっ! ちょっとビビッときたぞ!
確か、基本的に禍々しい感じのスキルばっかしだったよね。えーっと詳細はーっと……
あーもう分んねぇ! どれをとっても、やったらきっと被害がえげつないことになるから試すことも出来ない。さっすがラスボス、技もえげつないでござる!
たしか、持ってるスキルが基本的に超火力の上、そのほとんどにデバフ効果がついてたはずだ。しかも、デバフか攻撃かどちらかに特化したスキルも、確か範囲攻撃だったはずだ。どれ一つとして試せるものがない。
だってのに、それに比べて一つも回復、浄化系のスキルがないんだかんな。自分の怪我なら、自己再生で勝手に治ってくんだけど……。
つまりだ。やらかしたら取り返しがつかないのである。
下手に試し打ちできないとなると……これからどうすりゃいいんだろうか。
というか、そもそも現在進行形の問題があった。
勢いのまま飛び出してきちゃったはいいけど、どうやって兄上探そ。
探し物と言えば、索敵系か。なんか有用なスキルとかなかったかしらん。
あ、なんか縁辿ってどこまでも追いかけて呪殺する、っていう話があったような……? それの呪殺前までのプロセスだけを使うこととかは出来るんだろうか。
いや、縁の感じ方とか知らんがな。
そもそも縁って何やねん。何の違和感も無く試してみようとか思っちゃってたけど、普通に分かるわけがなかった。
守り神様に聞いとけばよかった。その縁って奴、どうやって感じてるんですかって聞いたら、もしかしたら教えてくれたかもしれないし。
作中での縁の扱いも結構設定が緩かったと記憶している。ヒトとヒトが一度出会ったら、もう自動的に結ばれてるんだったか?
霊力とかこの世界におけるMP的な見えない力が関係していたはずだったけど……思い出せない。
でもまあ、その辺は追々努力するとして、とにかくやってみることにする。俺と兄上は腐っても兄弟だから、縁は絶対に結ばれてるはずなのだ。
考えてわかるほど俺の頭の出来は良くないんだ。いや、この体はハイスペックだから、頭の出来自体はいいんだろうけど。中身の方がポンコツなもんだから、イマイチ使いこなせていないというか……まぁいいや。
ウオ゛ーあにうえー! 兄上どこだァー!!
やり方なんてものは分かるわけもないのだから、とりあえず念じてみることにした。大体こういうのって精神論で解決できるもんだよ。たぶん。
兄上の顔と姿と腹立ち加減を思い浮かべてみれば、微妙に腹が立ってきた。
そういえば俺、あいつに殺されかけてたんだよな。しかも割と腹の立つ形で。
ま、俺死にませんでしたけど。その点はざまぁ申し上げたいところだが、親友殺ろうとしたことは許さん。絶対にだ。
あ、いかん、全自動環境破壊型呪いが発動してまう……はい落ち着け落ち着けヒッヒッフー。
と、何か角にビビっと何かを受信したように感じた。そちらに感覚を集中してみれば、糸が角に絡まってるような、妙な違和感がある。
アッこの腹立つ気配、絶対兄上のなにかしらだ! もしかして、この糸みたいな妙なものが縁ってやつなんだろうか。きっとそうに違いない! 角が受信機関にでもなってるんだろうな、多分。
あ、そういえば。
確か原作の方では、縁は死んだら殆どの場合はちぎれてなくなるけど、一部の強い縁は魂でつながってるから、死んでも縁辿って追いかけれる術があるってな話の回があった。主要キャラの感動回だったやつ。
ってことは、兄上がまだ生きてるって確定されたわけじゃないのか。まだまだ安心はできないかぁ。
まぁ、最悪魂だけになってても、持ってけるならもってくけど。
そこであることに思い至る。
およよ? もしも本当に縁の設定が反映されているんだったら、俺、もしかして前世の母さんとか、自称神の野郎との間に結ばれているはずの縁追っかければ、見つけられるのでわ??
これは衝撃の事実に気づいてしまった。
アッまってすっごくやりたい! くっそ、こうなりゃ一刻でも速く兄上見つけて、縁辿りやってやる!!
はい電波ビビビーン受信キャッチ! 方角は直進、モノノ森の方向でございます!
原作のラスボス君はものすごーく兄上のことを恨んでたから、まず彼との縁を辿って呪殺して、兄上から繋がる派生縁を辿って一族全員呪殺した上に、溢れる怨念で一帯を呪いつくしたりしたのだろうか。
ウワ、コレ原理分かっちゃったってことは、俺にも出来ちゃうってことなんじゃなかろうか。
いや、使わないけどさ。というか、使えないよ倫理的に。
よく考えて見れば、俺が
スキルもほとんど宝の持ち腐れ状態になるってのはもったいない気もするけれど、封印しておいた方が、世界のためにも俺のためにもなるんだから。
だが、そこで妙な違和感を覚えた。
そうなのである。俺とラスボス君ってのは、違う存在なのである。
だというのに、俺は結局メタモルフォーゼする羽目になってしまった。
そこから導き出される答えは……まさか、原作の流れに持っていこうとする、歴史の修正力的なものが存在していたりして……?
イヤアアアア! フーインイヤダー! ドロドロ神生嫌でござる―!
ウッソ、マジかよ。死なないとは言え、敵意どころか殺意むき出しに追いかけられ続けて生きるのなんて、嫌に決まっている。
愛され! 愛されがいいよぉ! いや、乙女ゲーム的全方位からの愛なんて、それはそれである意味ドロドロのクソ重い展開は嫌だけどさ、嫌われよりはまし! 誰だって嫌われるよりは好かれたいに決まってるだろ??
やっぱヤダァー!! そっちのドロドロも嫌じゃー!! 俺は
そんな風に脳内で泣き喚いていた時のことである。兄上の気配の元を発見した。
先ほど、さんざん俺が瘴気をだだモレにして這いずりまくった結果、真っ黒にしてしまった大地のただ中に、ぽつりと兄上の気配が存在した。
しかし、そこで気づいた。よく見ると、兄上の気配のある辺りだけ、森がふいに途切れて空き地になっていたのだ。周りが炭化した木々の乱立する森だってのに、ここだけ何もないってのは不自然だ。
もしかしてこの空き地は、元々村だったりしたりしたのだろうか。
もっとよく目を凝らして見れば、真っ黒になった建物らしきものもちらほらと見つかった。
あ、コレやらかしましたかな?
気づきたくない事実に気づきそうになり、思わず天を仰いだ。
もしかして、この惨事って、何をとは言わないけど殺っちゃった後だったりしたりして? 徘徊してる間に、気づかぬ内にドロっと? Oh……どうやって証拠隠滅しよ……
だめだ、一体が焦土と化してる中で誤魔化しきれる気がしない。犯人一択だわ。俺しかいねぇ。
……よし! とりあえず兄上の反応探そ!
気を取り直して兄上を捜索すれば、村と思わしき空き地の中心の大きな建物からその気配を感じ取る。
けれど、不思議なことに、周りの建物が炭化している中、妙にその建物だけきれいなのであった。不思議なことがあったら、そりゃもう調べてくださいと言っているようなものである。
ちょっとお邪魔致しますよー! ぱかっとな。
片方の触手で屋根を持って、ドールハウスのごとく取り外してみれば、中に人の集団がみっちりと固まっていた。瞬間、ヒェーッと、人々のか細い悲鳴が上がる。
ごめんなさいね。ちょっと失礼しますよー。
あ、でもなんかちょっと面白いかもコレ。当事者たちには悪いけどさ。
しかし、良かった。何にせよ人は生きていたのである。俺は殺ってなかったよ、万歳!
多分、この村の呪術師の人が、なんやかんや守りの結界的なものを張ってくれたんだろう。全くありがたいことである。
『現王は何処に。現王差し出だせ』
テレパシーで”声”をお届け、さながら迷子放送だ。
ここにいるってことはわかるんだけど、団子になっちゃってるものだから、無理に取り出そうとすると他の人を潰しちゃうかもしれないんだよね。
迷子放送が終わるや否や、人々が一斉に同じ方向を向いた。
視線とか表情はあんまり判別できないのだけど、顔の向いてる方向くらいならギリギリいける。
人々の顔の向くその先で、ざっと人ごみが分かれてとある人を中心に空白ができた。
皆様ご協力ありがとうございまーす! さーて兄上、帰りますよー。
屋根で塞がっていない方の触手はあったが、触手というのはあんまり器用な動きが出来ないらしいので、親友君と同じように口で運ぶことにした。口ならば、二股に分かれた舌ベロ先でピンセットみたく摘まむことが出来るのである。
フン、残念だったな兄上よ。貴様を粘液まみれにすることに対して、罪悪感は全く湧かぬわ。
……でも兄上を舐めることになるってのはかなり嫌だな。親友君の場合は緊急事態だったから、ノーカンだけどさ。
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