二日酔いの彩音ちゃん

潰れたトマト

二日酔いの彩音ちゃん

あるアパートの一室。

 ベッドに突っ伏しているひとりの女性。


「………う、うう……頭痛い………。」


 ノースリーブとロングスカートを着たまま寝床でピクリとも動かずにいる。


 彼女は二日酔いだった。

 昨夜の大学サークルの打ち上げ飲み会で無理をしてしまったのである。

 頭はガンガンと疼き目覚めた時から体調が優れない。

 どうしようもなく具合が悪い。

 女子大生の彩音にとっては人生初の二日酔いだった。


「あん時に止めとけば………。」


 今さら後悔するが、それは時既に遅しというもの。

 もう二度と酒に飲まれたりはしまいと心に固く決意する彩音。


 始まりは昨日の学食中での会話だった。



 ※



「え、打ち上げ………?」


 パスタを口に運ぶ手が止まる彩音。

 周りには同じボランティアサークルのメンバーが集まっていた。


「そ!去年は部員少なかったからアレだったけど、今は面子揃ったしさ!やろうよ、大学生らしく!」


「俺らもう二十歳よ?成人よ?やるしかないっしょ飲み会!」


 大学生特有のノリを楽しみたい男子メンバーたち。

 しかし彩音は正直乗り気ではなかった。


 何故なら私は男性が苦手で、しかもこのボランティアサークルには女子がひとりもいなかったからだ。

 大学の友人が誘ってくれたサークルなのだが、どうやらサークルの男子たちに女子のメンバーが欲しいと頼まれて私を売ったらしい。

 友達選びの大切さを今になって痛感する。


「や~、うちはいいよ……お酒強くないし………。」


「え、彩音ちゃん酒ダメなの?マジか~。」


「じゃあ彩音ちゃん!せめて最初の一杯だけでも付き合ってよ!男だけじゃむさ苦しいよ~。」


「え。」


「そうだよ、俺ら彩音ちゃんと楽しく飲みたいだけだからさぁ。少し付き合ってくれるだけでいいから!お願いっ!」


 4人の男子メンバーに説得される彩音。

 押しに弱い彩音は仕方なく打ち上げに参加することに決めた。

 彩音の返事を聞いた男子たちが一瞬目を光らせたことに彩音は気付いていなかった。



 その夜の19時、とある居酒屋の個室で彩音を含むボランティアサークルのメンバーがテーブルを囲んでいた。

 テーブルには人数分のキンキンに冷えたビールが並ぶ。

 彩音の前には既にテンションMAXな男子たちがいた。


「おっし!みんなビールまわったな?では、我々ボランティアサークル初の打ち上げ飲み会を始めたいと思います!んじゃ早速………。」


「かんぱ~~~いッ!!!」


 グラスが掲げられガチャンと良い音を立てる。そしてそのまま一気に喉にビールを流し込む男子たち。

 その隣で縮こまってビールを一口舐める彩音。


(うっ……あかん。苦い。炭酸キツい……。)


 改めて自分が下戸だと気付く彩音。

 やはりお酒は不味い。

 そう思いそっとビールを遠ざける。


「あれ?彩音ちゃんそれ飲んだうちに入らなくない?」


「もう少しだけいってみようよ!ね?」


「そんなん言われても……うちビール苦手やねん………。苦いし、炭酸キツイし……やっぱ止めとくわ………。」


 なんとか意思を伝えようとする彩音。この場の雰囲気を壊したくはないが、無理なものは無理なのだ。


「マジか~………。あ!じゃあさ、カクテル飲めばいいんじゃね!?」


「カクテル?」


 カクテルというものを知らない彩音はきょとんとした顔で首を傾げる。


「あれ、もしかしてカクテル飲んだことない?美味いよ~♪甘いのばっかだし、炭酸ないのもあるし。」


「炭酸と苦いのダメならとりあえずカルーアミルクっしょ。」


「店員さん、カルーアミルクひとつ!」


「あっ、ちょっ、あかんて!飲めなかったら勿体ないやん!?」


「大丈夫だって彩音ちゃん!そん時は代わりに飲んであげるからさ!」


 トントン拍子で話が進み、しばらくしてカルーアミルクが運ばれてきた。

 初めてのカクテルに少し緊張する彩音。


「さっ、飲んでみなよ!女子ウケいいんだよ~?」


「何事も挑戦だよ、ほらっ!」


「……………。」


 何故ここに来てしまったのかと一時間前の自分を恨む。だがもう後には退けなかった。

 とりあえず香りを嗅いでみる。


「………!めっちゃ甘そうな匂い………。」


 これならいけるかも。

 彩音の中で好奇心が沸いた。

 覚悟を決めて一口飲んでみる。


「………ん!………美味い……これがカルーアミルク………?」


 予想外の甘さに驚く彩音。

 ジュースのようなミルクのような、よく分からない味だ。

 だけどこれなら飲める。

 私もみんなと一緒にお酒を楽しめる!


「おおっ!いけんじゃんカクテル!さっすが彩音ちゃん!」


「彩音ちゃんもこれで大人の仲間入りだねぇ♪」


「うん……いける!うち、これならいけるで!ありがとうみんなッ!」


 自分が楽しめるアルコールがあることに感動した彩音は、男子が苦手だったことも忘れて思う存分カルーアミルクを飲みまくった。



 ※



「………まだ酔い潰れないのか………?」


「おい……話が違うじゃないか……。アルコール弱いんじゃなかったのかよ……!」


「炭酸と苦味が苦手だっただけなのか………?」


「つか、もう何杯目だよ………。」


 男子たちがヒソヒソと話し合う。

 当初の予定では彼女を酔い潰してみんなで色々と致そうと計画していたのだ。

 しかし目の前には10杯以上は軽く飲んでいるのに、未だに飲み続けようとする彩音がいた。

 男子たちにとってこれは想定外だった。


「ひっく………美味いなあ……ほんま美味すぎるでこのジュース……何杯でもいけるわ………うひひ……ひっく……。」


 空きっ腹にアルコールを流し込んでいるせいか、普段の彩音からは想像もできない程に人が変わっていた。


「あ、彩音ちゃん?そろそろ店出ないかい?ちょっとお金足りるか心配になってきてさぁ……。」


「は?何言うてんの?みんなうちに飲め飲め言うてたやん。何で急にそんなこと言うん?」


 据わった目で言い放つ彩音。

 先程まで弱腰だった女の子が、今は自分よりも大柄な男性4人を圧倒していた。


「元はと言えばみんながうちにこんな美味いもん教えるからこうなったんやろぉ?ちゃうの?なぁ?なぁ?」


「……………。」


「……………それにな、みんなのお陰でうち、ほんまの自分を出せたんやで?」


「ホントの自分………?」


 素の彩音ちゃんはこんな感じなのかと男子たちが内心幻滅していると、突然男子たちの視界がぐにゃりと歪んだ。


「おっ……おい!何だよこれ………!?」


「身体が……縮んでいく………?」


「酔ってるだけだよな!?な!?」


「じゃあどうして皆同じ幻覚見てんだよ!?おかしいだろ!」


 にやける彩音の目の前で4人の男子たちが急速に縮んでいく。

 やがて男子たちは2ミリ程まで小さくなってしまった。

 混乱する男子たちに彩音が囁く。


「うちな、ほんまは超能力者やねん。せやけど人や物をちっちゃくする位しかできへんかったんや。こんなん役立たんし人様に迷惑かけるやろ?せやから今までこの力を封印していたんや。」


 説明しながら男子たちを摘まんでテーブルの上に並べる彩音。

 彼女の大きく太い指は男4人の力でもびくともしなかった。

 力関係があっという間に逆転してしまっていた。


「でもな?みんながうちを酔わしてくれたお陰でほんまの気持ちが分かったんや。ほんまはうち、色んなもんをちっちゃくして遊びたかったんや。ちっちゃくしたもん使って、部屋でこっそりスケベなことして遊びたいと思ってたんや。」


 鼓膜が破れそうな声量で本音を暴露する彩音。男子たちは耳を塞ぎながらも彩音の発言を聞いて戦慄していた。


 超能力者?

 人や物を小さくする?

 スケベな遊びに使いたかった?


 いきなりの超展開についていけない男子たち。しかし自分たちが今彼女に小さくされたとしたら、されることはひとつしかない。


「うちはこれから自分に正直に生きることに決めたで。お礼に、みんなを使ってスケベなことして遊んでやるわ♪」


 テーブルに顔を近付ける彩音。

 悲鳴を上げて逃げ出す男子たち。

 襲う側が襲われる側になっていた。


 むにっ


 テーブルに軽くキスをする彩音。

 その口元では男子たちが必死に唇を押し返していた。

 一面真っ赤な肉の壁は男子たちを優しく包み込み、口内からは甘いミルクの匂いが漂ってきた。

 テーブルと唇の間に挟まれ暴れる男子たちの動きが彩音の優越感を高める。

 男子たちの抵抗は無力に等しかった。


 ちゅぱっ………


 テーブルから顔を離す。

 口づけした場所はしっとりと濡れて、男子たちを貼り付けにしていた。

 ひとりを除いて。


「わあぁぁぁあ!助けてぇぇ!」


 彩音のぷるんと弾けるような上唇に男子がひとり貼り付いていた。どうにか声は出せるものの、身動きは全く取れなかった。

 唇が開いて濃厚なミルクとアルコールと熱い吐息のセットが男子の鼻を刺激する。


「ふふっ。」


 ぺろっ


 彩音がテーブルに貼り付いた男子たちを見て思わず舌舐めずりをする。

 恐らく無意識だったのだろう。

 だがテーブル上の男子たちははっきりと見てしまった。

 友人が彼女に舐め取られ口内に引きずり込まれた瞬間を。


「ひいぃぃッ!」


「許してぇぇッ!」


「ん?なんやキーキー騒いでるんか?あはは、全然聞こえへんで?」


 自分の唾で動けなくなった男子たちを嘲笑いながら両手をテーブルに近付ける。

 男子たちがより一層暴れだす。

 すると衣服を脱ぎ捨てて男子のひとりが逃げ出した。


「どこ行くねーん。」


 ゴゴゴ………


「ひあぁぁぁあッ!」


 しかしいとも簡単に捕まってしまう。テーブルの上に彩音の手が届かない場所はなかった。


「勝手に逃げたらあかんやん?そんな君には罰ゲームやで。」


 彩音の手が下降を始める。

 男子からは彩音の広大な足の甲が眼下に広がっていた。


「俺……小さ過ぎだろ……まるでゴミじゃん……虫以下じゃん……?」


 自分矮小さを嘆く男子。

 そのまま彩音の右足の親指と人差し指の間に貼り付けられると、両方の指が閉じられて男子の姿は見えなくなってしまった。


「あはは、うちの足の指の間に簡単に収まってもうてるやん!どんだけちっちゃいねん!あはは!」


 ツボに嵌まり笑いながら足指をくにくにと動かす。


「あ、そういえばうち今日めっちゃ汗かいてたんやった。ごめんなぁ。うちの足くっさいやろ~?」


 実際彩音の足の匂いはテーブル上の男子たちにも分かる程に異臭を放っていた。

 ここからでも吐き気がする程臭いのだ。

 ならば、足の指に囚われている彼はかなり過酷な状況なのだろう。

 今日一日分かいた汗の匂いと、パンプスを直履きして蒸れた足の匂いはきっと縮む前でもキツい筈。

 それを2ミリに縮小されて直接足の指の間に挟まれるのだ。

 きっと気絶している………いや、足指をくにくにと動かしているのを見るに磨り潰されていてもおかしくない。

 残り2人の男子は友人たちの無事を祈った。


「さて、大人しくしてた君らにはご褒美をあげるわ。いくで~?」


 そう言い、残りのふたりを摘まみ上げて服の上から自分の乳首に擦り付ける彩音。


「あっ………ふぅん……!感じる……感じるで……2人の愛撫を………!」


 小さな男子たちの感触に喘ぎながら悶えだす彩音。男性ふたりを弄んでいる自分の圧倒的な力に身体が疼きだす。


 左手の男子は服の中に入れられ膨れ上がった乳首に直接擦り付けられ、右手の男子はスカートの中に運ばれ濡れたショーツの上から巨大な陰核に擦り付けられついた。

 彩音の今まで我慢していた欲望が急速に体現されていく。


「あっ、あっ、あ~……あかん!頭が沸騰しそうやッ!」


 興奮して両手の手加減ができなくなっていく彩音。

 男子のことなど忘れて居酒屋の一室でひとりオナニーに徹する。

 いつの間にか右手はショーツの中に入れられ膣内で指をピストンさせていた。

 左手は胸を力任せに揉みしだき、両胸がぶるんぶるんと揺れまわっていた。


 彩音の身体が反り返り天を仰ぐ。


「あぁん!!気持ちえぇなぁ!!もっと前からやっとけば良かったなぁ!!こんな………!こ………ん…………!ああぁぁぁあぁあッ!!!」


 彩音の身体に電流が走った。


 後日、彩音はこの居酒屋を出禁となった。



 ※



 それからどうやって家に帰ったのか、彩音は全く憶えていなかった。

 それどころか、カルーアミルクを一杯飲んだ頃辺りからの記憶がぶっ飛んでいた。

 ただひとつだけ間違いないのは、意識が飛ぶ程に酔っぱらったせいで二日酔いに苦しんでいるという事実だった。


 自分は一体何をしていたのだろうか。

 さっぱり思い出せない。


「………そういえば男の子たち何処行ったんやろ?……………う。」


 胃の中から何かが逆流してくる。

 この感覚は昔熱を出した時に体験している。

 吐き気だ。それも突発的な。


 彩音は急いでトイレに向かおうとしたが、お酒の飲み過ぎによる吐き気には勝てなかった。

 色々と諦めた彩音はベッドの上でスタンバイに入った。



 ※



「………た……助かった………?」


 布地の地面に身を投げ出されて倒れている小さな黒い点。

 サークルの男子である。

 彼は口内に閉じ込められていた男子で、実は呑み込まれてはいなかったのだ。

 彼はずっと彩音の口内で運良く生き延び、身体中が唾液に絡まれていたお陰で彩音の大声量からも保護されていた。

 やがてベッドで熟睡している彩音の口からよだれと一緒に枕元に落とされたのだ。


「よ、良かった………何とか死なずに済んだ………!」


 九死に一生を得て喜びに震える男子。


 同時に地面も大きく揺れ始めた。


 ゴゴゴゴゴ………!


 目の前にあった山が突如として動き出す。

 それは真っ青な顔をした彩音だった。


「ひえっ……!」


 こちらを見下ろしている。見つかったのだろうか。


 いや、違う。


 あの表情は違う。


 あれは。


 あの顔は。


「うぷっ……………。」




「やめでぇぇぇぇええぇぇッ!!!」


 絶叫を上げた彼の頭上から、酸味を帯びた匂いを放つ大量の濁流が降り注がれた。



 ※



「おろろろろろ……………。」


 枕元に嘔吐する彩音。

 シーツにドロドロと流れ落ちる固形物の混ざった泥水はとめどなく広がっていく。

 ようやく止まった頃にはベッドの上はゲロの湖ができていた。


「……………。」


 これはひどい。

 これが女子大生の部屋のベッドでいい筈がない。

 こんな光景誰かに見られでもしたら生きていけない。

 あまりの惨状に彩音は絶望していた。


「はぁ………。しゃあない、片付けよ。」


 のそのそと自分が吐いたゲロを処理し始める彩音。

 その嘔吐物の中にサークルの男子が埋もれていることなど、彩音には知る由もなかった。

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二日酔いの彩音ちゃん 潰れたトマト @ma-tyokusen

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