第2話
夏は好きでも嫌いでもない。暑いのは嫌だけど、真冬の凍えるような寒さよりはまだマシだと思う。
「あんた今頃起きたの」
姉はこんなに暑い日にもどこか涼しげだ。白い肌は日焼け知らずだし、セットされた髪は長く伸びているのに何故か爽やかにすら見える。
控えめな化粧は姉の顔面をどう彩れば姉がより映えるかをよく分かっていて、凛としている姉は今日も魅力に溢れている。洗練されているような、美しさのコツを掴んでいるような、そんな姉。
ずるいとは思わない。羨ましいとも思わない。同じ遺伝子を持っているはずなのに違うもんだなぁとは思う。
「あ、そういやBBQ明後日になるみたいよ」
そんな姉の言葉を聞いておきながら、どこか聞こえないふりをしていた。
跳ねそうになる心臓を無視して、私は「暑い」とだけ言葉を落とす。
「うちら参加って言うからね?!」
「‥んー‥‥」
懸命に気怠そうなふりをする自分が滑稽で仕方ない。“あいつも来るよね”と聞いてしまいたい衝動を無理矢理飲み込む。
「
私の心情を見透かしたような口振りに少しの苛立ちを覚えた。
私がまだ相変わらず谷地に恋してると思ってるんだ。ーーまぁ、その通りなんだけど。
谷地は私たちの幼馴染。BBQは何故か繋がったままの地元の数人が毎年夏に集まって開催する催しで‥毎年この時だけ、私は谷地に再会する。
年に一度。この時だけ。普段連絡は取らない。
それなのに、年に一度‥谷地の顔を見るだけで、その声を聞くだけで、私の心は水を得た魚のように跳ねてしまう。
谷地をひと言で説明すると、人たらし。
谷地の隣はとにかく心地が良くて、老若男女関係なく谷地を求めてしまう。
そして、そんな谷地は私の姉を想い続けてる。
谷地とは年に一回しか会わないけど、きっと今年の夏もそう。
谷地を見て私の心が久々に煩くなるように、谷地もまた姉を見て同じように感じるんだ。
虚しくなる。切なくなる。
分かっているのに、会ってしまう。燻る胸の苦しみよりも、谷地と過ごせる僅かな時間を選んでしまう。
私の心は今年の夏もまた、きっと熱を吹き返す。いつ終わりが来るのか分からない、私の苦い夏。
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