第24話 学校を作ろう 1

 マリアの病気が治って三日後、リリーが城にやって来た。

 

「おはようございますぅ!ジュン様!」

 

「おはようリリー。もう出てきて大丈夫なの?」

 

「はい!お母さんはすっかり元気です!ずっと寝た切りだったから、体力は落ちたですけど。もう少しすればまたお母さんもお城で働けます」

 

「リリーもすっかり元気になったようでなによりだよ」

 

「はい!リリーも元気になりました!全部ジュン様のおかげですぅ!ありがとうございました!」

 

「どういたしまして。ノエラにアイとユウも心配してたからあとで御礼を言ってあげて」

 

「はい、ノエラ先輩にはさっき会った時にいいました。でもジュン様がお見舞いの品や薬の手配なんかもしてくれたってノエラ先輩から聞きました。お母さんのためにずっと無理して治癒魔法の訓練もしてたって」

 

「ん? ん~…治癒魔法の訓練は自分のためにもなるしユウとアイも頑張ってくれたからね、ボクだけの力じゃないよ。気にしないで」

 

 ユウとアイの協力が無かったらたぶんマリアは間に合わなかった。

 決してボクだけの力ではないだろう。

 

「はい、ユウ様とアイ様にも感謝してます。でもジュン様には一番感謝してます!だから…リリーは生涯、ジュン様にお仕えして御恩を返しますぅ!リリーにできることがあれば何でもしますぅ!何でも言ってください!」

 

「ハハハ、大袈裟だなあ。でもありがとうリリー。なにかあればお願いするよ」

 

「はい!ジュン様の望みには全てお応えできるように、リリーもエリザ様に特訓をしてもらおうかと!」

 

「それはやめなさい」

 

 ママ上の元での特訓は恐らくリリーに悪影響しかでない。

 決して普通ではないのだ。あの特訓は。

 

 そしてリリーが復帰した翌日。

 城門前に沢山の人押し寄せてきていると報告が入った。

 

「なにかあったの?」

 

「はい…それが…ジュン様が上位の治癒魔法を使えると知った者たちが癒してほしいと押しかけているのです」

 

「なるほど。それは参ったな」


 とはいえ、全く予想してなかったわけではない。 

 魔族は人族より丈夫とはいえ怪我をするし病にかかる人もいる。

 そして治癒魔法使いは魔族の国には少ない。

 マリアの病気が治った事を知ってボクが治癒魔法を使える事が広まったのだろう。

 

「仕方ない、行くしかないな。ノエラ手伝って」

 

「すみません、ジュン様。お母さんとリリーのせいで…」

 

「二人のせいじゃないよ。気にしないで」

 

 そうリリーに告げて城門前に行く。

 すごいいるな。数百人はくだらないか?

 全員が怪我人や病人ではなく半分は付き添いのようだがそれでも大勢いる。

 

「まず怪我人と病人に別れて固まってもらいたい。お前達、頼む」

 

「ハッ」

 

 門前に集まっていた兵士に頼んで病人と怪我人に分けてもらう。

 まずは怪我人の集まりに向かい魔法を使う。

 

「マスヒーリングオール!」

 

「「「オオッ」」」

 

 魔王の紋章も使用して全力で上位の治癒魔法を使う。

 これは範囲内にいる者の傷を癒す上位の治癒魔法で

 欠損した部位も再生する上位治癒魔法の中でも最上位に位置する魔法だ。

 

「足が、足が動く!」

 

「目が見えるよ、お母さん!」

 

 元に戻った体を見て歓喜にわく人達。

 そして神様を崇めるがごとく勢いでボクに感謝の意を述べてくる。

 そこまでされるとむず痒い。

 

「失った血や落ちた体力までは元に戻ってないので、しばらくは無理しないで安静にしてくださいね」

 

 そう告げてから次は病人の人達に向かう。

 今度は病を治す範囲治癒魔法を使う。


「マスディジーズキュア!」

 

 こちらも魔法の紋章を使用し全力で魔法を使う。

 攻撃魔法と違って治癒魔法は全力を出して問題ないので

 紋章を使ういい練習になる。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 とりあえず城門前に集まっていた人達は癒せた。

 みんな御金を払おうとしたり食べ物を渡そうとしたりしていたが気持ちだけ受け取っておいた。

 

 そして翌日も…

 

「お願いします!この子に治癒魔法を!」

 

「お母さんを助けて!」

 

 と、城門前にまた人だかりが出来ている。

 昨日よりも多そうだ。

 

「仕方ない、やるしかないな」

 

 今日も昨日と同じように治癒魔法をかけ癒していく。

 どうも王都の住人だけでなく近隣の街や村からも来ているようで

 噂はどんどん広まっていってるようだ。

 そして翌日も、翌々日もと続き流石にこれは、となったのでみんなで相談して対策をとることになった。


 結果、エルムバーン各地にある街で定期的に訪れて治癒魔法を使うので希望者は決まった日にそれぞれの街のいずれかに来るようにと国民に告知する事になった。

 また移動が困難な者がいるであろうことから、そういった家には馬車と兵士を派遣することになった。

 

 各街への移動は初回だけ護衛の騎士達を連れて馬車での移動だったので時間もかかって大変だったが二回目からは転移で移動した。

 もちろん転移が使えることが知られないようにした上でだ。

 

 そんな生活を続けて数ヵ月。

 治癒を希望する人は未だ減る様子がない。

 

「これは、もっと根本的な解決方法をとらないとダメだな」

 

「そうね。怪我人や病人って治してもまた新たに出てくるものだしね」

 

「それに無償で治癒してるから今まで治癒や薬を売って生活してた人達からも苦情が出てるみたい」

 

「あー…そういった問題もあるか」

 

 考えてみれば当然だった。

 

「それにボクもずっと治癒魔法使いとして生きていくわけにもなあ。感謝されて喜ばれるのはいいんだけどさ」

 

「そうね、このままだと一生治癒魔法使いとして生きていくことになるね」

 

「となると、治癒魔法使いを育成して増やして各街に病院を作るのがいいじゃない?」

 

「そうだな、それなら一時的ではなく今後の国のためになる。お父さんに相談してみよう」

 

 父アスラッドと相談の結果。

 騎士団や兵士、国民の中から治癒魔法適正がある者を育成し今後の治癒魔法使い育成を担当させ

 治癒魔法使い養成所を作り各街に病院を作る事になる。

 しかし、そこでアイが

 

「ねぇ、どうせならいっそ学校を作らない?」

 

「学校?」

 

 この世界には学校と呼べるものは無い。

 剣術や体術を教える道場や魔法を教える場所などはあったが

 算数や文字などの勉強を教えてくれる学校のようなものは無かった。

 

「道場のように本格的に教えるんじゃなく基礎を教えるの。魔法だけじゃなく剣術や槍なんかも。最初の三年は全て満遍なく学ばせて四年目からは自分にあった希望するものを学ばせて伸ばしていく。国民の能力の底上げを行うの」

 

「教師役はどうする」

 

「治癒魔法の教師役は育成するしかないけど、剣術や体術なんかは引退した騎士や街で道場を開いていた人とか雇えばいいの。文字や算数を教える人は文官として働いていた人とかね。入学できるのは六~十二歳の子供だけ。学校は六年間。必要な御金はできるだけ国がだして生徒が払う御金はできるだけ少なくしましょう」

 

 なるほどようするに小学校を作ろういうことか。

 日本の小学校と全く同じようにはいかないが作る価値はあるし

 作ることは可能だろう。

 幸いエルムバーンは豊かな国だしボクとアイは前世では教師だった。

 ある程度のノウハウはある。

 父アスラッドの承認ももらえたので学校を作ることになる。

 

 しかし八歳にして、いやこの間九歳になったけど、まだ子供なのにすごく働いている気がする。

 ユウとアイがいるけどなにかこう癒しがほしくなってきた。早くも。

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