第23話 治癒魔法
「マリアが病気?」
「はい。そのためしばらくリリーがお休みを頂きたいとの事です。事情が事情ですので私の独断ですが許可を出して本日は帰らせました。よろしかったでしょうか?」
「それはもちろん構わない。だけど…マリアはそんなに悪いの?」
「はい…実はマリアさんはここ数週間御休みをエリザ様から頂いてずっと床に臥せってるらしく…エリザ様も心配されてました」
「そうか…。それでリリーはここの所ずっと元気が無かったのか。わかった。ボクの名前でなにか見舞いの品と…薬を手配しておいて」
「かしこまりました。ありがとうございます。ジュン様」
マリアが病気、か…。
この世界にはなまじ魔法があるためか医学があまり発展していない。
薬師はいるため薬学はそれなりだがそれも十分ではない。
薬師や治癒魔法を使える者が医者の代わりだ。
「待ってノエラ。もしかしてマリアの病気って相当重いの?」
「…はい。リリーの話ではもう起き上ることつらい様子で…」
「そんな…病を治せる治癒魔法使いは?手配できないの?」
「ジュン様、我が国に病を治せるほどの治癒魔法使いはおりません。いえそれどころか世界中を探しても恐らく数人。聖者の紋章や治癒魔法に関する紋章を持った者くらいしか…」
実はそうなのだ。
元々、魔族には低位の治癒魔法しか使えない者ばかり。
ハーフ魔族には治癒魔法に適正を持つ者がそこそこいるが
魔族には治癒魔法適正を持つ者が少ないのだ。
我が国で最高の治癒魔法使いでも中位の治癒魔法しか使えない。
病を治す治癒魔法は上位となる。
上位の治癒魔法を使えるのは他国にしかいない。
「そうか…わかった。ノエラはさっきいった手配を。セバストはボクの部屋に治癒魔法に関する書物をありったけ持ってきて」
「畏まりました」
「了解だ。ジュン様」
上位の治癒魔法使いを呼ぶことができないなら
自分で使えるようになるしかない。
ボクも一応、低位の治癒魔法なら使えるようになっている。
怪我なら低位の治癒魔法でもなんとかできる自信がある。
魔王の紋章を使えば必要回数が多くてもなんとかできる。
だが病を治す上位の治癒魔法はまだ使えない。
マリアの容態がこれ以上悪化する前に習得しなければならない。
「ユウとアイも手伝ってほしい」
「「うん」」
ボクの部屋に行き治癒魔法の訓練を始める。
今までの魔法訓練で他の大抵の魔法は上位まで修めてある。
使いたい魔法の効果をイメージし空中に自分の魔力で描かれた魔法陣を出す。
使いたい魔法の魔法陣が発現すれば成功、発動できる。
習熟すれば体内に魔法陣を描く形イメージで外に魔法陣を発現する事なく発動できる。
戦闘では魔法陣を発動させれば相手に使う魔法を読まれる。
熟練の魔法使いは魔法陣を外に出さずに発動するのが主流だ。
また魔法を使う際イメージをしやすくするため呪文の詠唱を行う事もある。
呪文の詠唱は魔法の習得訓練の際にはよく使われるが
戦闘では使われない。魔法陣と同じく相手に読まれてしまうからだ。
ボクも詠唱は訓練以外では使わない。
だってなんか中二病ぽいじゃない?
「で、数時間頑張ってみたわけですが…」
「「「だぁ~めだ~」」
ユウはボクと同じく治癒魔法適正があったがアイには適正がない。
それでも何か気づくかもと一緒に訓練していたのだが
結果は上手くいかず全員でへたり込んだ。
「攻撃魔法とかは上手くイメージできるのにね」
「ウチも攻撃魔法ならそこそこ。一番得意なのは補助魔法だけど」
「ボクも一番早く習得できたのは攻撃魔法だなぁ。イメージがしやすくて」
魔法の発動に重要なのはイメージだ。
どのような効果をもたらすのか、発動した魔法の形、結果が出るまでの過程
それらをイメージできて発動に必要な魔力があって初めて発動できる。
「こうやって改めて治癒魔法の訓練始めて思うけど、治癒魔法のイメージって難しいんだよね」
「イメージか…」
「うん?どしたのジュン」
「治癒魔法に必要なイメージってなんだろうな」
例えば火魔法に必要なイメージは物燃えるイメージ、物が壊れるイメージ、火が燃えるのに必要な物、等々。
「そうね…怪我の場合は傷口が塞がっていくイメージ?血が固まって細胞が増えて傷を治していく?」
「病の場合は?」
「ウィルスの排除、手術による患部の切除?とか?」
「それらを一言で言うと?」
「…医学?」
「そう、治癒魔法に必要なものって医学知識なんじゃないかな」
だとするなら医学が発展してないこの世界で上位の治癒魔法使いが少ないのも解る。
魔法薬はあるがあれらは高価だし病気は治さない。
魔族は人族より基本的には丈夫で病にも罹りにくい。
反面、人族よりも治癒魔法育成、医学面で遅れているとゆうことだ。
「でもこの世界の医学書なんてあっても大したことないよ?」
「そうだな、だから…」
「「だから?」」
「自力で医学書を作るとこから始めよう」
非常に遠回りだと思うしマリアにあとどれだけの時間が残されているのかもわからない。
でもこのままだと習得できたとしても中位まで。
上位治癒魔法には届かない。
やるしかないのだ。
「でもウチら大した医学知識もってないんじゃ?」
「そこはユウに期待だ」
「え、私?」
「賢者の紋章で色んな情報を集めることができるんだろう?前世での知識も恐らくは一番豊富だし、頭のよさも飛びぬけているしな。ボクとアイも手伝うけどできるだけ正確な医学書を作るにはユウが主導でやってもらうのが一番だ。頼むよ」
「う、うん」
それからは連日連夜、医学書作成と治癒魔法の習得のために連日連夜、時間を費やすことになる。
剣術と体術の訓練も休んで治癒魔法習得に時間を割いた。
カイエン師匠も快く許してくれた。
そして特訓開始から二週間ついに上位治癒魔法「ディジーズキュア」を習得した。
「よぉ~しぃ…じゃあ今からマリアのとこにいってくるぞぉ…」
「「は~い、いってらっしゃ~い…」」
連日の徹夜と治癒魔法習得訓練で二人とも疲れ切っていた。
ボクも疲れていたけどマリアの容態が気がかりだ。
急いでいかないと。
「ノエラ、マリアの家まで案内をお願い。馬車の用意を」
「はい、畏まりました。ただちに」
「セバストも付いて来て」
「了解だ。ジュン様」
城を出て王都にあるマリアの家に向かう。
移動中、馬車の中で寝てしまいそうになる。
でも今寝たら、しばらく目を覚ませそうにない。もう少し我慢だ。
マリアの家は王都のはずれ、城寄りの位置にある。
マリアの夫、リリーの父親は確か早くに亡くなって今はマリアとリリーの二人暮らしのはずだ。
マリアの家に着いた。
今は夕方、リリーも家にいるならまだ起きているはずだ。
ドアのノックする。
出てきたのはマリアの看病で憔悴したリリーだ。
目に隈を作り痩せて顔色も悪い。
まるでリリーも病人だ。
「あ、ジュン様…」
「リリー、マリアは?」
「お母さんは今は寝てます…でも、もう御飯を食べることも出来なくて…」
「そうか…」
よかった。間に合ったようだ。
「大丈夫だよリリー。もう心配ない。マリアは助かる。ボクが助けるよ」
「え?でも…」
「とにかくマリアのとこへ案内して」
「は、はい。こっちです」
リリーにマリアが寝ている寝室に案内してもらう。
ベッドで寝ているマリアは以前城で見た時よりもずっと痩せている。
リリーと同じで明るく元気でよく笑う人だったのに。
「マリア…」
「ジュン様、お母さんはもう…」
「大丈夫だよ、リリー」
マリアのそばにいきマリアに向けて手をかざす
魔王の紋章も使用し全力で魔法を使う。
「ディジーズキュア!」
「え…」
緑色した暖かな光がマリアを包み吸い込まれるように消える。
するとマリアの顔色がよくなってきた。
息遣いも落ち着いてきた。
苦しそうだった顔も今は穏やかだ。
「リリー、もう大丈夫。マリアはもう大丈夫だよ」
「お、お母さんの病気は治ったん、ですか?」
「うん。マリアの病気はもう治ったよ。でも痩せた体までは戻せないし、体力も落ちたままだ。もうしばらくは安静にする必要があるけど、心配はいらない。だからリリーも休むといい。酷く疲れた顔してるよ? ちゃんと寝てないんだろう?」
「う、うわぁぁぁぁぁん!あ”り”がどう”ござい”ま”ずう”ぅぅぅぅ!!」
泣きながらボクに抱き着いてくるリリー。
マリアの事がよほど心配だったのだろう。
マリアの病気が治ってよほどうれしいのだろう。
目を真っ赤にしてボクに抱き着いてくる。
「リリーはっ、グスッ、お、お母さんが、お父さんみたいにいなくなっちゃうんじゃないかって、グスッずっと不安で、グスッ、ありがとうございますうぅぅぅ!!!!」
「どういたしまして、リリー。ほら落ち着いて、今はゆっくりお休み。ノエラ、ボクは転移で帰るからリリーの事を手伝ってあげて。セバストはなにか美味しいものをリリーとマリアに作ってあげて。二人とも明日は遅れてもいいから、頼むよ」
「畏まりました、ジュン様」
「任せな、ジュン様」
ノエラとセバストに後の事は任せボクは城の自室に戻る。
なぜかユウとアイもボクのベットで寝ていたがボクももう限界だ。
マリアの病気も治ったし安心して寝よう。
オヤスミナサイ…
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