第3話 ゆかり・オバケなんて大嫌い!③
目を真ん丸にする海斗を前に、ゆかりのほうこそ「へっ?」と目を見開いた。
「生きてるでしょ。むしろ、なんで死んだと思ったのよ。まさか事故にでもあった?」
自分で言った言葉にゆかりの肌が粟立つと、海斗は戸惑ったように首を振る。
「だって、俺の体今こんなだし。他の奴らには見えないみたいだし。てっきり幽霊になったのだとばかり……」
あれぇ? と首をかしげる海斗に、ゆかりは眉を寄せた。
(これは本気で自分が死んだと思い込んで、助けを求めていたとか――? 巽海斗が私に? 透けてるのがトリックでも何でもなくて?)
まさかと思いつつも、目の前で首をかしげる海斗は本気で戸惑っているように見える。
海斗が「ほら、これ見てよ」と言いながら机に手を置いて見せるが、なるほど手が机を素通りしてしまう。普通の生身では無理な話だ。
それでも彼は幽霊ではない。それは間違いない。
そもそもの話、ゆかりが幽霊やあやかし、物の怪と言った類と、生きた人間を見間違えるはずがない。
めちゃくちゃ不本意ではあるが、ゆかりはあることがきっかけで、人ならざるものが見えるのだ。
「巽海斗、手を出して」
ゆかりが手を差し伸べると、海斗が素直に手を出す。すこし躊躇してからゆかりがその手を握ると、ひんやりした感触が手に伝わった。
「えっ?」
「ほらね、生きてる。あんたが幽霊なら、私が触れるわけないでしょう?」
だいたい彼が幽霊なら、ゆかりには体の周りがほんのり緑がかって見えるし、透けているとはいえ、ここまではっきり見ることはできない。気合を入れれば触れることは可能だけど、今のゆかりはそんなものは入れてない。
うまく説明はできないけど、それでも彼は「生きている人」だとゆかりには分かるのだ。
「いやでも俺、さっきこのドアをすり抜けたんだけど」
海斗が部屋のドアを指さすので、ゆかりは「勝手に乙女の部屋に入らないで」とため息を吐いた。ドアの開く音はしなかったのだから、彼の言ってることは本当なのだろう。
それでも一瞬顔を輝かせた海斗は、ふとドアの横の姿見をのぞき込むと、「だめだ。やっぱり映らない」と、頭を抱えた。
どうも自分が透けていること以外は分かっていないらしい。
これはいやがらせでもイタズラでもない。
あくまで目の前にいるのは、ただの困っている同級生。
そう思って、背中がまだゾワゾワしつつも、ゆかりはコテンと首を傾げた。
まさかゆかりが、「人ならざるものが見える」のを知ってたわけじゃないよね?
そう思いつつ、立ち話もなんだからとベッドに腰かけ、海斗にも窓辺に置いた椅子に座るよう促す。本来男子が女子寮にいるわけがないので、かなり奇妙な感じだ。
「あ、座れる」
恐る恐る腰かけた海斗は、「ドアとかみたいにすり抜けるんじゃないかと思って心配だったわ」と笑った。
そのクシャリとした顔にドキッとして、ゆかりは慌ててポーカーフェイスが崩れないよう少しだけ目をそらした。
(時々こういう可愛い顔を見せるところが、苦手なんだよねぇ)
落ち着かないし、悪いことをしているような気分になるから。
「あー、うん。でも床はすり抜けないで歩いてるよね」
ドアや机はすり抜けても、彼の足はしっかり床の上だ。
「はっ、言われてみれば確かに! そうだな。別に俺、空を飛んだりもしてない!」
(背中に翼があるのにかい!)
内心盛大に突っ込んでみたけれど、あんなに大きかった翼はいつの間にかきれいさっぱり消えている。鳥というよりもコウモリに近いように思えた黒い翼は、ゆかりの目の錯覚だったのだろうか。
あやかしの類でも、ゆかりはさっきのような模様や翼は見たことがない。
だいたいここは土地自体が結界のようなもので、あやかしの類は入ってこれない。
だからこそゆかりは、中学から実家を離れてこの学園に入ることになったのだから。
「巽海斗。一体全体、なんでそんなことになってるわけ?」
あやかしじゃないのにあやかしみたいな男の子は、ゆかりの質問に困ったように頭を掻いた。
「いやぁ、それが俺にもよくわからなくて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます