第2話 秘密のアルバイトと昔のクラス男子
「ねえ、笑香。料理の数を増やしたらお客さんも増えるかな。この前行った彩華の中華料理店のエスニックソース美味しかったね。ああいうのを真似してみようと思うの」
おかんが、前月の売上高を悲観して、私に提案してきた。
こういうときは、おかんを納得できる答えを言うべきだ。
「急に、メニューを増やして売れ残ったら赤字になるだけだよ。
それよりも、味付けで盛り付けを工夫した方がいいんじゃないかな」
「笑香、それもそうだね。そうだ、もう一度彩華に行って、味付けの研究をしてくれないかな」
私はバイトの帰り、彩華に寄ることに決めた。
バイトというのは、おかんには内緒にしているが、いわゆるメイド喫茶である。
ただ、メイドの衣裳を着て注文を取るだけ。
まあ、ここまでは、普通のカフェとなんら変わりはないのだが「ご主人様、お呼び頂いて有難うございます」だの「ご主人様、お気をつけてお帰りなさいませ」という
セリフは最初はとまどいを感じたものである。
しかし、時給はなんと千五百円、普通のカフェの約五割増しの金額である。
指名制度というのもあり、指名の多い子は、それだけ時給もアップする。
よし、頑張るぞと思っていた矢先だった。
洒落たTシャツに細身のデニムパンツ、クロスのペンダントの客が二人入って来た。派手な感じ。
なんとなく、見覚えのある顔。あっ、高校時代のクラスメートだった彰人だ。
「いらっしゃいませ。ご主人様、ご注文はなににいたしましょうか」
彰人と目と目が合った。
「あっ、お前、河合じゃないの。笑香じゃないか」
メイド用の厚化粧をしているが、やっぱりクラスメートで一年間顔を合わしてたら、わかるよね。
「そういう彰人こそ、派手になっちゃって。このヘアスタイル、まるでホストみたいだね」
仕事中、私語は厳禁なので、この辺で注文をとって席を離れようとした。
「これ、渡しとくよ」
彰人が、四隅の丸まった名刺を私の手に握らせた。
見ると「クラブ凛 悠馬」と明記されていた。
仕事は夕方五時で終わりである。帰りには、この前行った中華料理屋 彩華へ行って、三品くらいテイクアウトして、家でおかんと味付けの研究をしなきゃ。
そんなことを考えながら、急ぎ足で店をでた途端だった。
「おい、声を出すなよ」
と言いながら、プロレスラーのような体格の屈強な女二人が、私の腕をつかんだ。
「なにするんですか。あんた達は何者なんですか」
そう言い終わらないうちに、女二人は私を人気のない路地に連れて行った。
「おい、メイド女、私の悠馬をとるんじゃないよ。悠馬は私の男だよ」
「えっ、なんのことですか?」
「とぼけるんじゃないよ。お前に名刺を渡したさっきの男だよ」
あっ、高校時代のクラスメート彰人のことだ。そういえば、名刺には「クラブ凛」って書かれてあったっけ。
そうか。読めたぞ。彰人はやはり、予想どおりホストをしているんだ。
そして、彰人に惚れ込み、店に通い詰めてる女性客が、私に嫉妬してるんだ。
そのときだ。彰人がやってきた。
「おい、お前ら。いい加減ホストを利用して、恐喝するのやめろよ。警官には通報済みだぞ」
そのとき、警官がやってきて、女二人は取り押さえられた。
「私らが悪いんじゃないよ。私らはただ、金をもらってやっただけよ」
「そうだよ。もっと悪い元締めがいるんだよ」
警官は、二人の腕をつかみパトカーに乗せた。
「話は署でゆっくり聞こう」
深刻な顔の警官に、笑香は世の中の複雑さを感じた。
「笑香、大丈夫だった? あいつら、俺たちホストの名を利用して、小遣い稼ぎしているとんでも野郎だよ」
笑香は、ようやく我に帰った。
「もうびびっちゃったよ。でも、ホストの名を利用して小遣い稼ぎってどういうこと?」
彰人は、ため息をつきながら答えた。
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