淋しがりの君③

 城に戻り、ディランと別れた俺は、とある人物──遺体保存用魔法の使い手であり、クライトン伯爵領の最高戦力──の下を訪れた。


 その人物の名は、ジョシュア・クライトン(7)。そう、7歳児の伯爵様である。しかし、魔法の天才だ──表裏一体的に、理解力、論理的思考能力などの知能全般も並の大人を凌駕する。しかも、ただの天才ではない。人類史上最強と言われる魔法使い──フレディ・アレンを超える逸材だと、王都のロンザーラ魔法学園でも噂されているらしい。俺とは色んな意味で次元の違うお子様だ。


 その魔法少年のジュシュアが、勉強部屋という名の魔法研究室のドアを開け、「あ、ノア。今日はどうしたの?」と僅かに首を傾げ、ふんわりとした栗色の髪の毛を揺らした。


「……」幼いながらも非常に整った容姿。俺や、俺の周りにいた田舎の少年たちとは、別種族に違いない。将来が楽しみなような、恐ろしいような──。


「入らないの?」ジョシュアが、良からぬこと(?)を考えていた俺の目を覗き込みながら言った。


「……申し訳ありません。少しぼんやりしていました」苦しい言い訳である。「失礼してもよろしいでしょうか」


「よろしい、よろしい」とジョシュアが柔らかい笑みを見せた。


 誘拐されないか心配である。







「うん、いいよ」ジョシュアが、俺の頼みを軽く承諾した。まさに二つ返事。


 ここまで簡単にオッケーされると、逆に、いいのだろうか、と不安になるが、俺に不利益はないので素直に感謝を述べる。「ありがとうございます」


 ジョシュアにお願いしたのは、イリスの隷属れいぞく魔法(従順な奴隷を作り出す、特殊な魔石が必要な魔法。通例、魔石を付けた首輪が用いられる)への干渉だ。というのも、俺はイリスから崩そうと考えているからだ。しかし、イリスがシエンナに〈ルーバン殺害計画について口外することを禁止〉されていた場合、又は隷属魔法に組み込まれている〈奴隷は所有者を害してはならない〉という行動制限にシエンナの犯罪行為の自白が含まれる場合(設定に従い、隷属魔法が自動的に判断する)、俺の質問に答えられない事態になってしまう。現時点では、主犯が誰かは確定できないが、また、そもそも彼女らが真犯人ではないかもしれないが、一般論として所有者と奴隷が共犯関係──結果主義を前提に間接正犯かんせつせいはんを否定するのが通説──にあると、こういった難しさがある。

 というわけで、ジョシュアに卓越した魔法技術で以てそのかせを外してもらいたいのだ。 


「ところで」ジョシュアの目が怪しく輝く。「また面白いアイディアはないかな?」


「あー、はい。えーと、ですね……」意味のない文字を並べ、時間を稼ぐ。


 ジョシュアの言う〈面白いアイディア〉とは、端的に述べると〈日本の漫画等に登場した魔法等の情報〉だ。以前、ジョシュアが、〈普通の飛行魔法(風魔法)では、精密操作に難があり、また、不安定さも気になる〉と悩んでいたことがあって、俺はうっかり〈重力〉という単語を口にしてしまった。

 それを聞き逃さなかったジョシュアに問い詰められて、引力や斥力せきりょくに至るまで話すことになった。俺は法学部法律学科の文系人間であったから、一般教養レベルのことしか教えられなかったが、それでもジュシュアは短期間で〈重力魔法〉を形にしてしまった。本人は、飛行魔法が改善された、と無邪気に喜んでいたが、これはもの凄いことだ。前人未到の魔法(俺の知る限りでは)を魔法系スキルに頼らずに・・・・・・・・・・・開発し、実用化したのだ。並外れているにも程がある。

 と、まぁ、こんな感じのことがあって、魔法大好きっ子のジョシュアくん7さいは、ことあるごとに〈何か面白いアイディアはない?〉と訊いてくるようになった。完全に身から出たさびである。しかし、可愛いのでそれほど悪い気はしないのが、厄介な(?)ところだ。


 この世界で一般化されていなくて危険の少ない魔法は何かないか、と考えるが……。


「……申し訳ありません。そういったアイディアはまだ閃いておりません」丁度いいのが思いつかなかったので、やむを得ず嘘で誤魔化す。


「そうか……」ジョシュアが、しゅん、と肩を落とした。


 ずっしりと重い、罪悪感で作られた杭が身体の芯に打ち込まれる幻覚。「……」くっ。







 例のパン屋の主人に、イリスが買い物に出掛ける時間帯とその行き先を教えてもらい、現在、その行き先である商店街の片隅に置かれたベンチに座って読書をするフリをしつつ(偽装工作)、待ち伏せ中である。

 なぜ、こんな怪しくて面倒なことをしているのかというと、シエンナやヒューゴにバレたくないからだ。ていに言えば、イリスに裏切り者になってもらおうというのだから、堂々と接触するのははばかられる。

 業界では名著として有名な学術書、「ゴブリンでも分かる魔法学」シリーズのⅣに中心視野を合わせ、一方で、町行く人たちには周辺視野をてがって観察していると、小麦色の肌をした少女──イリスが視界に侵入してきた。


 来た。しかもイリスは1人。今が好機だ。

 

 すぐに立ち上がり、イリスに接近し、話し掛ける。「すみません、少しいいでしょうか?」


 振り返ったイリスが、〈またお前か〉という表情を顔に浮かべた。







 イリスと話をするために近くの詰所(交番)に移動した俺たちの目に飛び込んできたのは、ジョシュアにオセロ(この世界では、白パンと黒パンの戦いに見えるらしく、「パン戦争」と呼ばれている)で文字どおり完敗し、打ちひしがれているハリエットの姿だった。盤上は黒1色である。なんという無残な光景だろうか。


 俺に気づいたハリエットが、「ノアくんー」と情けない声を出した。「何回やっても白パンが食べれないの。私もうやだよぅ……」


 おいたわしや。


「ハリエット弱すぎるんだもん。仕方ないよ」ジョシュアに手加減をするという発想は絶無のようだ。


 大人げない、と思いかけて、そういえば7歳だった、と悔い改める。


 困惑気味のイリスに、「それじゃあ、そこに座ってください」とハリエットの隣にある椅子を指差す。


「……え」気味・・が取れ、イリスは完全に困惑している。「私もやるんですか」この黒パン相手に? と顔を引きつらせた。







 ジョシュアの妙技により一時的に隷属の首輪の効果がなくなったイリスへと、〈シエンナ、ヒューゴ及びイリスを共犯として疑っていること〉を伝えて自白を促したところ、イリスは、「違います」とだけ、息混じりの小さな声で答えた。


「……」


 ベルフィス町の中心部に位置する詰所の空気が、5秒、10秒と静寂が続くにつれ、重苦しいものになっていく。


 このままではらちが明かないね。


 次の交渉カードを切る。「所有者の命令により殺人を犯した奴隷がどうなるかご存じですか」


〈殺人を犯した〉のところでイリスの眉が微かに痙攣けいれんしていた。

 一般の方は、共同正犯、共謀共同正犯又は結果主義(法学)という言葉の意味を詳しくは知らない場合がほとんどだ。おそらくイリスは、自分が直接殺したわけじゃないのに、あるいは所有者の命令に逆らえなかっただけなのに、〈殺人を犯した〉という、あたかも殺意を持って直接、人を殺したかのような物言いをされたことに反感を抱いたのだろう。気持ちは分からないでもないが──甘い。


「我が国の慣習上、複数人が協力して殺人を計画し、その計画が完遂された場合、たとえ計画を考えただけ、又は偽装工作を少し手伝っただけであったとしても、全員が自ら殺人を実行したものとみなされます。また、所有者に強制されてこれを行った奴隷も同様に正犯となります」つまり、と語調を強める。「全員が身体刑しんたいけいや死刑になり得るということです」


 一応、〈幇助ほうじょ〉という概念は存在するものの、実務上、一定の犯罪類型を除き、共同正犯として処理されることがほとんどだ。

 なお、厳密に言えば、イリスの場合、ハイヴィース王国の奴隷法に基づく懲罰権の対象になるのであって、通常の裁判の結果たる身体刑等になるわけではないが、内容的には似たようなものなので、ここでは分かりやすく脅すために〈身体刑や死刑〉という言葉を使った。


 ここで、ごくり、と唾を呑み込む気配。ハリエットである。なぜあなたがそこまで緊張するのか。この中で(表面的には)1番年長なんだからもうちょっと堂々としていてほしい。


 肝心のイリスは、「……そう、ですか」と中身のない相槌を打ち、「けれど、私たちには関係のないことです」と否認の姿勢を崩さない。


 しかし、構わずに言葉の刃を振るう。「所有者に命令されて人を殺した奴隷の罰を司法権者が決定する場合、両腕を切断するという制裁を与えている事例が最も多いです」その次に多いのが斬首刑です、と返す刀で付け加えた。


 ようやく事の重大さを実感してきたのか、イリスの鼻にしわが寄り、黒目からは落ち着きが失われ、「違います、私たちは関係ありません、知らないです、知らない」と譫言うわごとのように繰り返す。


 ここがターニングポイントだ。シエンナのように演技系のスキルはないが、雰囲気が出るように頑張らないといけない。


 脱力と柔和にゅうわの中間くらいの口調で、「まぁ、通例ではこんな感じですが」と始める。「私は別の道が最も正しいと考えています」


 俺がそう言うと、風向きが変わったことを察知したのか、イリスの面持に怪訝の色が混ざり出した。


 唇を湿らせ、続ける。「私は思うのです、罪には有責性が必要だと。則ち、形式的な社会通念という意味ではなく、人の守るべき、本質的な規範という意味の道徳に照らし、多くの人に〈それはあなたが悪い〉と強く非難されるであろう人物のみが犯罪者とみなされるべきだということです」少しだけ難しい言い回しになってしまったかもしれない。相手の価値観や知識に寄り添えないと伝わるものも伝わない。しかし、俺の能力はあらゆる人に合わせられるほど高くない。だから、恥も外聞もなく、「ここまではご理解いただけましたか」と訊ねた。


「……なんとなく言いたいことは分かります」イリスがゆっくりと述べた。


 それは良かった、と安堵が洩れる。本題に戻す。「イリスさんには選択肢などなかった。隷属魔法のせいでシエンナさんには従うほかない。奴隷とはそういう存在です」


「……」イリスの唇が開きかけるも、それだけ。言葉を発するには至らない。


「……したがって、仮に私の推理どおりの事実があったとしても、イリスさんには有責性は認められません」一旦、止め、ごく短い間を経て、再開。「奴隷法第14条1項、〈奴隷が、刑法(アーシャ教の教典、刑法、その特別法、領主が定める条例その他の刑罰を規定した法令及び慣習法)に規定される罪を犯した場合、その所有権者が懲罰権を有する。ただし、所有権者が懲罰権を行使することが相当と認められない特段の事情がある場合は、当該奴隷の住所又は居所きょしょの属する領地の司法権者が懲罰権を行使する〉のただしがきにより、私はイリスさんを無罪にするつもりです」


「!」イリスの目が見開かれる。初めて彼女の本当の表情を見た気がする。


「ただし!」話はまだ終わりではない。「今のイリスさんには選択肢があります。にもかかわらず、真実を語らずに嘘をつき続けるのであれば、それは歴とした犯罪です。具体的には、証拠隠滅罪が適用され、相応の罰を受けていただかなければなりません」俺の自分勝手な正義を理解してもらえるように願い、イリスの瞳を真っ直ぐに見つめる。そして──「だから、どうか真実を語ってください」と。


 詰所の中に静寂、しかし、外には子どもの弾む声。


 しばらくの一瞬。イリスが口を開いた。「……全てお話しします」


 子どもはどこかに行ったようだ。







 ディランとの友人関係が破綻しかけた日から2日後の朝、自室で熱々の紅茶を飲みながら、今日も仕事頑張ろ、と思っていると、ノックの音。ドアを開けるとディランが立っていた。

 

 ノックするなんて珍しいね、と言いかけて、そういえば鍵してたんだった、と踏みとどまり、代わりに、「こんな時間に珍しいね」という言葉を贈る。


「かもな」ディランは、そんなことより、とかじを切る。「見つけたぜ」


「おー、流石」しかし、入り口で話すようなことでもない。「中で詳しく聞かせてくれ」







「なるほど、冒険者か……」そっちだったか、という気持ちだ。


 ディランを招き入れ、〈風魔法を使う殺し屋〉について教えてもらったところだ。曰く、クライトン伯爵領内に風魔法が得意で、かつ黒い噂のある冒険者がいるらしい。

 

 冒険者(依頼を受けて魔物を狩ったり、危険地帯でアイテムを採取したりする者。通常は冒険者ギルドに所属している)には様々な人間がいる。というのも、冒険者ギルド(冒険者等の集団。依頼の仲介機能が中心)にはどんな人間でも入ることができるからだ。身元調査も試験もない。スラムの子どもだって大丈夫だ。ただし、世間から一人前の冒険者と認められるには最低でも10個は依頼を達成しなければならず、単に冒険者ギルドに所属しているだけでは、普通は冒険者を名乗ったりはしない。

 そんな職業だから──職業差別をするつもりはないが──殺し屋と兼業している人間がいてもおかしくはない。


 ディランがいつもの煙草に火をつける。


 紅茶で口を湿らせてから、「情報源は明かせないんだよね?」とディランに問う。


「そうだな」ディランが煙と共に答えた。「でも、確かな情報だぜ」


 どんな繋がりがあるのか気にならないと言ったら嘘になるけど、無理に聞き出すほどのことでもない。


 ディランがその冒険者の情報を語る。「名前はティメオ。今年で27歳になる、痩せた男だ。2、3年前からハイヴィース王国で冒険者として活動してて、主に風魔法を使ってるらしいぜ」ここで有害な煙を体内に補給。妙に色気のある所作で、とんとん、と灰を落とし、そんでよ、と説明を再開する。「ティメオには裏の顔もある。それが殺し屋だ」本人はバレてないと思ってるみてぇだが甘いよなぁ、と男気くさい笑み。


「なるほど……」やはり〈風魔法を使う殺し屋〉を実行犯と考えるのが一番現実的か──イリスもそう供述していた。


 しかし、そうだとするとしっくりこない点もある。則ち、なぜ〈剣を使う殺し屋〉を実行犯にしなかったのか。そのパターンだったならば、現場の情況とシエンナたちの語ったレギーの犯行とのズレをもっと抑えられた可能性が高い。これでは証言を疑ってくれ、と言っているようなものだ。

 とはいえ、現場の情況やティメオの存在を考慮すると、当初の推理はそこまで的外れではないとも思う。


 ということは──。


「そっちはどうだったんだ?」ディランが選手交代を要求し、沈思黙考しそうになっていた俺を引き戻す。


「それが……」この事件、未だ見えていない部分が多すぎるうえに複雑な感情が絡んでいそうで、どう説明したらいいか、と言い淀んでしまう。


 けど、ディランは静かに紫煙をくゆらすだけで急かしたりはしてこない。多分、こういうところがモテる要因なんだろうね。


 一旦、頭の中を整理し、それから話していく。「俺が聞いたところによると、シエンナは元奴隷だ」


「奴隷……」ディランが呟く。


「ルーバンの奴隷だったらしい。で、更にその前は……」紅茶を口にする。少し温くなっている。「その前は、貴族だったそうだ」


「え、貴族?」マジ? とディランが驚く。


「ロビンソン家って聞いたことないか?」


 ロビンソン家は、国境に接する重要地を管理する、所謂、侯爵家というやつだ。高い武力を誇り、発言力も強い。


「知ってるけどよ」ディランは肯首するが、「そこのお嬢様が、なんで奴隷になってんだ?」と疑問を呈した。


「身体障害が原因だよ」車椅子で入廷したシエンナの姿は記憶に新しい。「ロビンソン家の現当主、要するにシエンナの親父さんは、自分の娘が障害者になってしまった事実を受け入れようとしなかった。シエンナの美貌とスキルならば、たとえ下半身が動かなくても政治的な利用価値は残っていたはずだが、親父さんは、そういった手段を考えたくないほど強い嫌悪感を抱いた。〈こんなみっともない女が、ロビンソン家にいていいはずがない〉ってね。で、シエンナは家を追放された……らしい」


 イリスは、これらの話を〈シエンナ様から聞いた〉と述べていたが、真実を知らされていたとは限らない。その点には注意が必要だ。


 ディランが、煙草をくしゃっと灰皿に押し付けてから言う。「でもよ、あそこの家って武門だろ?」


「だね」


「それなら、戦いで手足がなくなることもよくあるんじゃねぇか?」


 ディランの言うことは尤もだし、シエンナの事情を聞いた時は俺も同じことを疑問に思った。けど、どうやらそれは別問題らしい。


「戦いによる場合は、戦果さえ挙げていれば非難されることはないそうだ」


 戦果ね、とディランがその意味を噛み締めるように呟いた。


「話を戻すよ。追放されたシエンナは奴隷商に拾われた」


 国教として指定されているアーシャ教の教典では、奴隷について言及されていない。厳格に解釈するならば、奴隷制度は〈神の下の平等〉に反することになるが、需要が高いため認められているのが実情だ。


「そして、ルーバンに買われることになる。で、1年後、奴隷からの解放と同時にルーバンの妻になった」これが10年ほど前の出来事だ、と補足しておく。


 腑に落ちない様子のディランは、「それでなんでルーバンを殺すんだよ?」と反語表現に手を出すが、「でも、10年だもんな……。色々あるか」とあっさりと反語を反転させた。


「少ない情報を基にした、あまり自信のない推測なんだけど」とただしがきを先に置いてから、それを語る。「シエンナは人ではなく物として扱われる自分を受け入れられなかったんじゃないかな。あの美しさだ、きっと下半身が動かなくなるまでは、もてはやされていたはずだ」仮に健常者のままならば、貴族としての(表面上は)華々しい人生を送っていた可能性が高い。「それなのに奴隷になり、所有者に気に入られて妻になる──」いや、オブラートは取り除こう。「従順な妻になることを条件に隷属の首輪を外してもらう。シエンナにとっては相当な屈辱だった」


 ただ、10年もの時間を、少なくとも外形上は仲のいい夫婦として過ごしていたことを考慮すると、ルーバンに対する感情の揺らぎ、あるいは多面性を肯定すべきだろう。

 

「じゃあ、シエンナが主犯ってことだよな?」俺が答えるのを待たずに、ディランは更に質問を重ねる。「ヒューゴはなんで従ったんだ?」理由なくね? と。


「遺産の一部を譲渡する約束をしてたみたいだよ」


 とは言ったものの、これも些か違和感がある。ヒューゴが金に困っているという情報は得られなかったからだ。聞き込みの範囲が狭いだけ、あるいは単に欲望に負けただけかもしれないけど、小骨が喉に引っ掛かるというかなんというか。


 しかし、限定的な情報しか知らされていないディランは、「なるほどな」と納得した旨を口にし、続いて、「つーかよ」と流れを変えた。「ノアはどうやってそこまで調べたんだ?」


 簡単にまとめると、〈天才魔法使いに隷属魔法への干渉〉をしてもらいつつ、〈イリスを口説き落とし、口を割らせた〉となるが、ここは〈目には目を歯には歯を〉といこうか。


 煙草を吸う仕草をしつつ、言ってやる。「情報源は明かせないな」


「はっ」ディランが笑う。「いい性格してんな」


 それは俺にとっては褒め言葉だ。だから、「お褒めに預かり光栄です」と返す。


「……」「……」


 気の抜けたユルい笑いが、煙草と紅茶の匂いが混ざり合った室内に2つ。

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