ラムネとさくらんぼ

吉田川

第1話 でも感触は残ったままだった


 押しボタン式の信号機。赤色に光っている丸い電灯。刺すような日差し。傾いた自転車。青色が混じった影。その上に乗った少女が飲んでいるチープなラベルのソーダ。数粒の汗が伝う細い首元と、こちらに気づいて少し驚いた流し目。



 私は夏になるといつも、あの子の姿を思い出す__。























 *****



 ……


「__……すか」


「__……ですか……」



「大丈夫ですか?」


 はっ__と、誰かの呼びかけで目を覚ます。なぜか低い視界からここが何処か推定しようと試みるが、猛暑にそぐわず長袖セーラーを着込んだ女の、顎の先端がそれを妨げた。


宇沙美うさみさん。聞こえてます?」


 そう。この女は


「四月一日……さん。」







 四月一日わたぬき じゃく

「4月1日」と書いて「わたぬき」と読ませ、「スズメ」と書いて「じゃく」と読ませる。名前からして姑息な女だ。


 加え、この女は校内一__ひょっとすると県内1か__辺鄙な所から通学してきている。

 ここらはただでさえ田舎だが、四月一日はその中でも秘境とでも言うべきところから、県一高い山を越えて、毎日学校までやってくるのだ。








 これらから導き出される答えは1つ。____変人。そう、四月一日雀とは変人なのである。

 そんな彼女が、なぜここに?一体何が……




「ねぇ……これどういうことなの?」


「宇沙美さんが倒れたんです。プールの授業中に。それで欠席だった私が、様子見してて……って」


 四月一日は平坦な口調で語る。

 確かに直前はプールの授業だった。この猛暑、気を失ってもおかしくない。






「だからっていちいち、膝枕をする必要はないでしょ。」


 でも、私の頭が彼女の膝の上にあって、うっすらと笑いを浮かべた彼女がこっちをずっと覗いている状況はいただけない。

 何があって、こうなるのか。四月一日の事だから、何もないのかもしれない。


「……確かに。」


 彼女の目は今いる木陰の縁を右から左に泳いだあと、私に向けられた。


「宇沙美さんが気を失っている間に飲み物でも買ってくれば良かったかな。」


「……。」


 この女と話していると調子が狂う!





 私が微妙な表情になっている間も、四月一日は木陰に差し込む光を顔の所々に透かして、私の顔を覗き込み続けた。距離が近いので彼女の大きな胸が首元に当たる。


「別にずっとこうしててもいいんですけど、どうです?」


 私の髪についた落ち葉を摘んで払いながら、彼女は言う。

 まるで母が子の世話をするみたいに尽くされて、混乱してしまう。


「……他の子は?」


「もう帰りましたよ。今日三限授業なんで。」


「……あなたは?」


 四月一日はさらに体を倒し、私に接近してくる。微笑みで目がぐにゃりと歪んでいる。


「頼まれたことを……途中でやめるの、なんか嫌で。」


 この女とそんなに関わったことはないけど、この発言は何となく彼女らしいと思った。


 人とあまり関わらず、掴みどころのないくせ、責任感は人一倍。そんなちぐはぐさも彼女を奇人たらしめている要因の一つだった。






 すると、四月一日は妖艶な笑みを浮かべながら、寝転がっているの私の右手を、自分の左手ですくい上げた。


「……ねぇ、それより……逃げ出さないってことは、許可ってことでいいの?」


 彼女はぼう……っとした虚ろな瞳でこちらを見つめながら、軽く持ち上げられたその手を自分の唇に押し当てて……その次に、私の唇に置いた。


 柔らかくて、リップで少しベタついたような感触。まだ指に残っている。


 突然の出来事に何をされたか理解できず、お……あ……は……と、意味のない言葉のスタッカートを口走ってしまった。顔が恥ずかしさで火照っていくのが分かる。


「あはは……関節キス。」


 さっきみたいに、目の前の女はいたずらに笑っている。



「ずっとこうしたかった。機会がなかったけど……それが今日ってことにするから。」


 吐息混じりに話した後、彼女はまたこっちに倒れ込んできて、頬にキスをする。制止がなければ、と頬、口元、顎、首筋に、好き勝手に唇を押し当て続けた。


 意味が……わからない。わからない……けど、嫌じゃない。できるならずっとこうされてたい。まさかこの女相手に、そんな感情を覚えるなんて驚いた。


「ちょっとやりづらいので体制変えましょうか。」


 そう言い終わるか言い終わらないかのうち、私は同じセーラー服を着た女の下に組み敷かれていた。

 さっきから、四月一日のされるがままだ。


「驚いてますか?目が丸くなっちゃって。かわいい。」


 四月一日は口元を抑えて笑った。セーラー服のリボンがほどけて、ボタンとボタンの間から、その大きな胸がはだけて見えている。


 そのボタンも、口元の手を移動させてひとつずつ、ひとつずつ外されていく。パチ……パチ……パチ…………という音と、照りつける日差しが、私の思考を停止させた。


 ついには、黒レースのブラに乗った巨乳が、しっかり全部見えるようになった。


「えっ……え……?」


「触ってもいいんですよ。」


 彼女はまた私の右手を掴んで、今度は胸に押し当てる。柔らかくてはち切れそうで、ちょっと冷たい。四月一日の顔を伝った汗が、こっちに滴ってくる。理性を蒸発させていくみたいだ。ふと気づけば両手で、寄せるようにして激しく、彼女の胸を揉んでいた。

 さっきから余裕綽々だった四月一日の声にも、所々震えと吐息が交じる。



 彼女は自分の背中に手を伸ばして話しかけた。


「ここも外したら、あなた、どうっ……なっちゃうのかな。どんな反応ぉ……するんでしょう。」


「それは、どういう意__」


 彼女の両手の位置にあるのは……ブラホック。


 それに手をかけ外すかと思うやいなや、彼女は耳まで紅潮させてまたキスをせがむ。今度は唇同士で。

 両手を背中に置いたまま、上体を倒れこませて何度もキスをした。その間も胸を揉みしだく手は止まらない。四月一日の口からはついに嬌声が漏れだした。彼女は快感から逃げるように体を捻る。

 その弾みに、勢いよくホックが外れた。その衝撃で跳ねる胸を見て思わず息を飲む。


 ミルクのような甘い匂いが、辺りに広がる。




 四月一日は自分の胸を横から包み込むようにして、私の指を真ん中に寄せようと促した。


「ほら、宇沙美さんだから……見ても、触っても、揉んでも、舐めても……めちゃくちゃにして、いいよ……。」


 ”そこ”に触れたらもう、帰ってこられないだろう。四月一日はブラの上のレース部分を、誘うように口で咥えて、胸を隠している遮蔽物を少しずつ上にあげた。


 手が凹凸に触れる。白い胸と赤を帯びた乳輪との対比がいやらしい。

 やっぱりこんなに大きいと、乳輪も大きくなるんだ。

 伏し目がちにブラを咥えて自分から乳首を露出させるような、夏服のセーラー服の爽やかなイメージに似合わない淫靡な姿が、ますます私の欲情をそそる。


 あとちょっと……あとちょっとで見える……

 これを見てしまったら私はどうなるのかわからないけど……


 手が”そちら側”へ近づく。このレースの影さえ上がれば、あとはこの女をめちゃくちゃに……!!


 少しで__!!



















 __ピピピピ ピピピピ


 ……枕元の目覚まし時計を粗暴に止める。無慈悲なアラームの音で目を覚ました。

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