檸檬は、夢を見ない

@nandryanen

第1話 聖薇魔法魔術学校

檸檬は、目の前のカップを覗き込んだ。ルビー色に輝く紅茶に檸檬の美しいとはお世辞にも言えない顔が映る。それを、しばらく見つめたが、それ以外にはこれといって変化がないので、となりに座る大人しい友人に話しかける。背が小さく、おかっぱ頭で大きすぎるメガネをかけ、それがいつもずり落ちそうになっている。

檸檬が「あった?」と聞くと、柚木はふるふると小さく首を振る。その時、斜め後ろの席にいる男子が

「あっ、出た!」と声を出した。

2人が振り返ると、皆もその男子へ注目していた。檸檬は男子の席は近づき、カップを覗き込んだ。カップには、檸檬の淹れた紅茶より濃い紅茶が入っているように見えた。しかし、そこに映るものは、檸檬には何もないようにみえた。しかし、皆も集まっていたので、影ができてしまい何も見えないのかもしれない。と檸檬は思った。何にもないじゃん、と思慮にかけた発言をしたのは竜堂だ。いつも無神経な物言いで、皆をイラつかせるが、本人はそのことに、いつまで経っても気づかない。本人の性格なのか、はたまた、竜堂の周りの環境のせいなのかは分からない。環境というのは、竜堂の友人達だ。竜堂の幼なじみ達らしいが、竜堂の歯に衣着せぬ発言力を盾にして、クラスで威張るような輩なのだ。紅茶を淹れた男子は顔を赤らめて「映ったよ、皆んなが寄ってきて影ができて見えないだけだ。」と反論する。「皆んなのせいにするなよ、お前が嘘つきなだけだろ。」と竜堂は、否定する。もう占いどころではない一触即発の雰囲気の中、占学のエバンナ教授が、やっと男子の席へとやってきた。そして、教授は黙って紅茶を見つめた。その様子を緊張の面持ちで皆が見守る。教授は、しばらく見つめた後、皆に「さあ、どいて、どいて、あなた達のせいで、光が当たらなくて見えるものも見えないでしょ。」と言った。

しばらく待たされ、決着はどうなるんだと期待していたクラスの皆は一応に拍子抜けした。しかし、クラスの皆は、それに素直に従った。自分の席に帰る途中に、「それなら最初から言えよな。」という不満がチラホラ聞こえてきたが。一方、エバンナ教授の発言に一応面目を保ったユーロは、まだ、緊張の面持ちで、エバンナ教授と紅茶を見つめていた。

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