チート魔法使いの異世界転生ライフ

あびす

第1話

 目を覚ますと、見知らぬ空間にいた。何にもない黒一色の部屋で、ドアや窓のような出入り口すらない。だが、灯りもないはずなのに、何故か前が見える。

 うっ、ここは何処だ。俺は確か下校中にトラックに轢かれて…

「お待ちしておりました、勇者様」

 突如、前に女の人が現れる。神々しい光を見に纏い、布を巻きつけただけの服を着ているその人は、人間の想像する女神にそっくりだった。

 俺はとりあえず質問してみる。

「色々聞きたいことはあるけど、まずは状況整理からさせてもらう。ここは何処で、あなたは誰だ?」

 俺の質問に、女神が答える。

「はい、ここは神聖国セイクリド。私はこの国に祀られている女神ライアです。そしてあなたは元の世界で一度死に、この世界へと転生したのです」

 なるほど、よくある展開だな。

「だいたい理解した。じゃあ俺はこれからどうすればいい?」

「最近の転生者は話が早くて助かります。実は今この国は隣国の魔神国イビルと戦争中なのです。あなたには私の加護を授けますので、勇者として戦っていただきます。これは強制なので、あなたに拒否権はありません」

 瞬間、女神様の持つ杖から光が迸る。俺はあまりの眩しさに目を閉じ、次に瞼を開いた時には左手の甲に紋章が浮かび上がっていた。

「それが勇者の証です。ではごきげんよう。世界を救ったらまた会いましょうね」

「え、おいちょっと待ってーーー」

 俺は女神に抗議しようとしたが、突如争い難い強烈な眠気が襲ってくる。背を向けて去っていく女神を見ながら、俺は意識を手放した。





「……ーい…… …おーい… 生きてますかー?」

 朦朧とする意識の中、誰かの声が聞こえる。俺はまだ気だるい体を上半身だけ起こした。どうやらここはテントの中らしい。

「あ、気が付きましたか。どうやら生きてはいるみたいですね。ほら、これを飲んでください」

 俺に声をかけていた誰かが飲み物を渡してくる。喉が渇いていた俺はそれを一気に飲み干した。

 「うんうん、いい飲みっぷりです。それを飲んだらすぐに目が覚めますよ」

 その言葉通り、だるかった体と脳がどんどん覚醒していくのを感じる。とりあえずお礼をいわなくちゃな。

「ああ、ありがとう。助かったよ」

「気にしないでください。その手の紋章、あなた勇者ですよね?世界を救ってくれる英雄ですもん、当然です」

 なるほど、この世界じゃ勇者ってのは敬われる存在らしいな。落ち着いた俺はテントから出て、周りを見渡してみる。

 ここは…… 前線基地か?武器や鎧に身を包んだ奴らがいるし、仮設のテントが沢山ある。おそらく兵士達がいるのだろう。平野の小高い丘に作られているようだ。

 俺は飲み物をくれた女の子の事を観察する。一見普通の女の子のように見えるが、猫耳と尻尾がついている。しかも動いてるし。やっぱり、ここはファンタジーの世界らしいな。

「えっと、君は?」

「私、テペンといいます。ここの前線基地の救護班です。今飲ませたのはイリジンの葉っぱのジュースです。覚醒作用があるんですよ」

 エナジードリンクみたいなもんかな?

「俺は佐藤悠真。まあ成り行きで勇者をやることになったものだ。ぶっちゃけこれからどうすればいいとかわからないんだけど…」

 その時、走ってきた兵士が叫んだ。

「敵襲ー!! 敵襲だー!!」

 丘に登って目を凝らすと、向こうから魔物達の軍勢が攻めてくるのが見えた。ゴブリンやらオークやらゴーレムやら…… 膨大な数だ。

「今です、勇者様!どうかその力で我らをお救いください!」

「えっでもどうすればいいかわかんないんだけど」

「魔法です!イメージしてみてください、手に力を集めて、あいつらに放つんです!」

 俺はテペンに言われた通り、手のひらにエネルギーを集めるイメージをしてみる。すると、手のひらに火球が出現し、どんどん大きくなっていった。

 俺はそれを奴らに放ってみる。放物線を描いて飛んだ火球は、見事に敵の真ん中に着弾、半分以上を一気に吹き飛ばした。うーん、これはすごいのか?

「すごい、すごいです勇者様!とんでもない威力です!さあ、敵はどんどん来てます!やっちゃってください!」あ、すごいみたいだ。

 一発目で感覚を掴んだ俺は、二発三発と連続で放ち、その度に敵を蹴散らしていく。なかなか爽快だな、これ。

 結局、後ろにあった敵の本陣までまとめて吹き飛ばし、俺たちは大勝利を収めたのであった。

「さすがです、勇者様!でも、まだまだ敵は潜んでいます!どんどんやっつけて、世界に平和を取り戻しましょう!」

 どうやら俺は、相当すごい勇者だったらしい。まあ、この力で世界を救うってのも、悪くはない、かな?




 深夜。勇者含め全員が寝静まった時間に、二人の人影が会話していた。

「どうでした?次の「勇者様」は」

「いい感じでしたよー。魔力もなかなかコントロールできてますし。でも、女神様もえげつないこと考えますねー」

「ふふふ、ここまでスムーズに進んでいるのはあなたのおかげですよ。転生者達はあなたの言うことはみんな素直に聞いてくれます」

「毎日毎日いやらしい目で見られるからなかなか嫌な役回りなんですよー。でもまあ、女神様には敵いませんよ。なんたって、転生者に一生分の魔力を一ヶ月で使い切る魔法をかけるなんて。あれはもはや呪いですよ」

「魔力が枯渇すると当然人は死にます。でも私は我が国の民が死ぬなど耐えられない…… だから転生者を使うのです。当然でしょう?それに、転生者達はみんな神や聖と聞いたら善、魔と聞いたら悪と決めつけます。とてもやりやすいです」

「相手の兵士も人間なのに幻覚魔法で魔物に見えてるだけって知ったらどう感じるんでしょ。もはやどっちが悪かわからないですねー」

「いいえ、私たちは善ですよ。勝った方が善ですし、歴史というのは勝者が作るものです。この戦争に勝って歴史を作った時、私たちは永遠に善として語り継がれるのです」

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チート魔法使いの異世界転生ライフ あびす @abyss_elze

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