パンダ同好会!

リネット

第1話 白浜パンダとの出会い

「和歌山県、か」


 正確には和歌山県の白浜町。ここが新しい家になる。白浜は白い砂浜と青い海が広がっている。移動中に海辺を見たが、泳げないからいかない。

 親の都合で東京から和歌山に転校になったが、正直、気が乗らない。高校生になって転校なんて、小学生ならまだしも高校生じゃあ新しく友達を作れるはずないし。それに和歌山弁だか、関西弁だかで話がわからない。ただでさえコミュ障な私には難題すぎた。クラスメイトもコミュ障な私に段々と話しかけてこなくなり、ぼっちを極めていた。 

 小2の妹はすっかり馴染んでいて、関西弁を披露しているくらいだ。



 休日は当然友達がいないので引きこもり生活だ。



「あんた、アドベンチャーワールドに行ったら?」


 いつまで経っても友達がいない私を母が気にかけていた。引っ越せば友達が出来ると思っていたらしいが、普通は逆だ。引っ越すから余計に周りと馴染まず友達が出来ない。しかしまあ突然アドベンチャーワールドなんてなんだ。


「アドベンチャーワールド?」

「そう、動物園と水族館と遊園地が一緒にあるんだって」


 ……なんでもありだ。


「だからあんた、行きな。動物なら話しかけなくて済むでしょ?」

「いやいや……そういう問題じゃなくて」

「それにパンダ!パンダ見に行きなさいよ。パンダは和歌山の名物よ」

「パンダなんか興味ないし……」

「ゲーム以外にも興味持ちなさい」


 母の言葉を無視してゲームをすることにした。



 しかし数時間経過すると、ゲームも飽きてきた。ここら辺にゲーム……家電量販店はないだろうか。新しいゲームがしたいと地図アプリで確認する。


「いや、無さすぎ……」


 家電量販店の『か』の字もなかった。個人の商店ならいくつかあるが、東京でよく見る、大型家電量販店はなかった。ゲームは通販で買うしかない。

 

「さてどうするか」


 地図アプリを眺めているとアドベンチャーワールドが目に入る。バスで簡単に行ける距離。

 少しだけ、少しだけ見てみようかな。

 地図アプリで確認しながら、バスに乗り、アドベンチャーワールドに着いた。


「ここがアドベンチャーワールド……」


 パンダが名物の動物園と水族館と遊園地が融合した施設。

 休日だからか人がたくさんいる。やっぱり来なきゃ良かった。でも、入場料を払ったんだから少しは見るか。

 

 他よりも明らかに人集りが出来ている方、これは。


「パンダ……」


 パンダがなんだか偉そうに寝そべりながらながら笹を食べていた。東京の上野動物園では少ししか見られないパンダがここでは見放題のようだ。母はわざわざ上野動物園で産まれたばかりのシャンシャンを撮りに行って、その数分間で寝ているシャンシャンしか撮れなかった。ここならいつでも無制限でパンダが見れるのか。

 何故か私はパンダに心を奪われていた。テレビでシャンシャンが話題になっても興味がなかったのに。

 そのパンダの不思議な座り方に私は夢中になっていた。あまりにも面白い座り方に私はスマホのカメラを構えていた。




 カシャカシャ


「あれは……」


 私の通う高校の制服を着た少女が一眼レフでパンダを撮りまくっていた。みんなスマホで撮っているのに。一部の大人が入園時に高価なカメラを持っていたのは見たが、高校生があんなカメラを持って、しかもパンダを連写しているなんて。


「嘘でしょ……」



 散々撮り終えて満足したのか帰ろうと振り返る。すると目が合った。




「黒川さん!黒川さんもパンダ好き?」

「は、はい?」



 いきなり話しかけられて私は吃った。私を知っているということはクラスメイトか。人の顔を覚えられない私は彼女を覚えられなかったが、彼女は私を覚えている。転校生なんだ。覚えられてもおかしくはない。


「黒川さん、パンダ見に来たんでしょ?」

「い、いや……その、た、たまたま……」

「そっか、和歌山に来たばかりだもんね!でさ、どう?彩浜さいひんは?」

「さ、さいひん?」

「そう!彩浜!彩る浜と書いて彩浜!あの子は彩浜だよ」

「なんか座り方が面白いな……って」

「う、嘘……」


 クラスメイトであろう子は大袈裟に後退りしながら驚いた。


「学校でそんな誰も気にしてくれなかったことを!」

「は、はい?」

「そう!彩浜はあの独特な偉そうな座り方からファンからのあだ名は『社長』って呼ばれてるんだよ!わかってくれる人いたー!」



 なんか1人で盛り上がっているな……。


「あ、あの……名前……」

「あ!そう言えばまだだったね。私は白井浜子!パンダが大好きでパンダ同好会の部長です!」


 パンダ同好会?


「お願い、パンダ同好会に入って!黒川玲奈さん!」

「え」


 これが私の奇妙な部活生活の始まりだった。













































 

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