第237話 ユーフェミア、複利について語る

「説明しますがよろしいですが?」

ユーフェミアさんの問いに、サットンを含めて冒険者達はこくこくとうなずいた。


過払い金。

払った金が返ってくる。

とても魅力的な話題だ。

かくして、スポットライトは、ユーフェミアさんに当たった。



「5/100の複利で100万ゴールド借りれば14年後には約200万ゴールドになります。

ただし、これは借金をそのまま放置した場合です。

毎年元本を返しているなら、200万ゴールドにはなりません。

元になる借金が毎年少しづつ減っているのですから」


うん、その通り。

最初にサットンに話を聞いた時から、僕はおかしいと思っていた。



「5/100の複利なら14年で2倍だって村の大人はみんな言っていたよ……」

サットンは呆然とつぶやく。


「俺もそう聞いたぞ。

俺らの村はみんな騙されていたってことか?」

バーディー。



「正確なところは、契約書や返済状況を見なければ分かりません。

しかしサットンさんの家族は、悪徳金貸しに騙されている可能性があります。


そして今回大切なことは、そこではありません。

お二人が故郷に帰っても、ということです」


「「おおー」」

見物人の冒険者達から声が上がる。



僕は妄想する。


『父ちゃん、ロイメでお金に詳しい人に聞いたんだ。

うちの家族や村の人は、金貸しに長年だまされていたかもしれない!

それを伝えるために戻ってきたんだよ』

確かに。

故郷くにに帰る口実としては十分だ。



「バーディー、村に帰ろう。

帰れるよ。

二人で帰ろう」

サットンはバーディーの肩を揺さぶる。


「いや、俺はかえらねぇー」


おい!バーディーいい加減にしろ。



僕は言ってやることにした。

「バーディー、ぐるぐるの簀巻きにして、荷物として送り返してやろうか?」


荷物扱いで、輸送料はいくらぐらいかかるんだろう?

サットンに水と食事の面倒は見てもらおう。


「うるせーな。ちゃんと俺は考えてるんだよ!」


「なんだよ?具体的に言ってみろ。

分かりやすくな!」

僕とバーディーの昔のノリが戻って来た。


「俺はなぁ、……『鋼の仲間』に行く」

バーディーは答えた。


えっ、そっち?



「俺、考えたんだよ。

ダンジョンはずっと封鎖されていた。

『鋼の仲間』のメンバーで田舎に帰った奴が絶対いる。

だから、メンバーが減ってる。

でも、さっきダンジョンが開いた。


だから、……今『鋼の仲間』はダンジョンを探索する人手が足りないはずだ。

今なら、入れてもらえる。

アタマ下げなきゃいけない……けど」


理屈は通っている。



「あのクソガキ、マジかよ、『鋼の仲間』?」

「『鋼の仲間』は糞だよなー。俺も世話になったけどさー」

「そうそう。朝、叩き起こされてさー」

「嫌だよ、思い出しちまったじゃねーか」


『青き階段』の冒険者の中にも、元『鋼の仲間』がいるようだ。

話を聞くに、居心地良さそうなクランには思えないんだけど。



「おい、クソガキ」 

トビアスさんが言った。


「何だよ、禿はげ親父」


「悪いことは言わん。

ロイメに残るなら、『雷の尾』にしておけ。

積める経験キャリアのレベルが違う。 

何より金が違う。

糞エルフイリークごときにびびってたら、冒険者なんか続けられないぞ」


「別にびびってねーよ。

俺なりのケジメだよ」


「後で、絶っ対に後悔するぞ?」


「うるせーな。

あー間違えたなーって思うことなんかしょっちゅうだよ。

後悔なんかずっとしてるよ。

禿はげ親父は後悔したことねーのかよ?」


「……。」

トビアスさんは沈黙した。



「彼も頑固だねぇ。

僕も『雷の尾』の方が良いと思うねぇ」

ダレンさん。


バーディーは唇を引きむすび、腕組みをして立っている。

こちらの説得に耳を貸すつもりは……、ないんだろうな。


「おい、クソガキ。

本気で『鋼の仲間』に入るつもりなら、俺が連れてってやる。

俺も『鋼の仲間』出身だ。

あそこには今でも知り合いがいるし、俺は顔が効く。

お前が再入団できるように口添えしてやる」

トビアスさんは言った。



「おいクソガキー、悪いことは言わねー。『雷の尾』にしておけー」

「『鋼の仲間』だと、サブダンジョン巡りだぞー」

「絶対殴られるぞー」

「『雷の尾』なら、第四層や第五層に行けるんだぞー」


見物人の冒険者達は口々に言った。

それでもバーディーは意思を曲げなかった。


「俺は『鋼の仲間』に行く。頼むよ禿はげ親父」



「それでいいのか、バーディー?」

最後に僕が確認する。


「ああ」

バーディーははっきりと言った。




明日も更新予定です。

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