第232話 自由の代償
──死は神々がハイエルフを除くヒト族に与えた祝福なり
創世の聖句である。
これも冒険者達の葬儀で聞いた。
バーディーは死ぬには早いと思う。
まだ18歳なのだ。
なんとしても、止める。
スキあり!
僕はバーディーに足技をかけて、転ばせた。
フッフッフッ、ダンジョンに気を取られているからだぞ。
バコッ。
あ、顔面が床に当たった?
ゴメン。
わざとじゃないよ。
いやホント。
僕はバーディーを関節技を使って抑え込んだ。
ソズン中級コースで、トレーニングを積んだかいがあった。
過去最高に決まった!
ヒャッホー!
この関節技は、訓練では中々決まらなかったので、すごく嬉しい。
「クリフ、何しやがる!」
「うるさいな。
今の君らをダンジョンに行かすわけにはいかないんだよ」
僕は関節をがっちり決める。
暴力ってサ、楽しいね。
「いい加減にしろ、クリフ。
衛兵に訴えるぞ」
サットンが割り込んだ。
すっとユーフェミアさんが出てきた。
「お二人は『暁の狼』時代に、クリフさんに既に借金がありましたね」
ユーフェミアさんは、眼鏡の縁を輝かせながら言った。
ヨシッ。
これで名目が立った。
これで衛兵に見つかっても、賄賂を渡せばなんとかなるだろ。
僕はロイメ市民だしな!
「なぁ、バーディー」
トビアスさんがバーディーのそばにしゃがみ込み、顔をのぞき込む。
「仮に魔石が出たとして、このままロイメにいれば、お前らはジリ貧だ。
環境を変えた方がいい。
だいたい何故、『鋼の仲間』を出たんだ?
あそこはクソだが、修行には……悪くない場所だ」
「『鋼の仲間』は、僕に剣を捨てろって言いやがった」
バーディーは答える。
「『鋼の仲間』は基本、盾か、
だがな、片手剣と盾はよほどの腕力か、技量がある冒険者の装備だ。
クリフに抑え込まれているお前じゃ無理だ」
『青き階段』で片手武器と片手盾を装備しているのは、ソズンさん、盾中心だけどハロルドさん、後はトロール族の傭兵のうち1人。
「前のクランには、俺と似たような体格の片手剣使いもいた!」
バーディーが暴れる。
「ダンジョンの浅いところを少人数で回るパーティー所属か、
「……。」
「悪いことは言わん。
柔軟になれ」
「僕達を騙したオッサンの説教なんか、誰が聞くか!」
ハァー。
トビアスさんはため息をついた。
トビアスさんが説得しても駄目か。
「バーディー、まずは身体を回復させろ!」
改めて、僕が説得に入った。
「うるさい!指図するな!」
バーディーは暴れて、僕の拘束から逃れようとする。
トビアスさんが、足でバーディーの背中を抑え込む。
容赦ない。
ゲフッ。
バーディーは顔面を打った。
痛そうだね……。
どうやれば説得できるだろうか?
──限りあるヒト族の命に祝福を。
葬儀で聞いた聖句の続きだ。
「バーディー、ロランドはダンジョンの奥で死んだ。
知ってるか?」
バーディーの抵抗が一瞬止まる。
サットンが息を呑んだのが分かる。
「僕はダンジョンの奥でロランドに会ったんだ」
「死んだんじゃなかったのかよ!」
「ロランドは第二層の奥で、
──朝に生まれ夕に死す。
「安心して欲しい。
無事に灰になるのを確認した」
「……。」
「ロランドと同じパーティーの皆も、第二層で消息を絶っている。
パーティー全滅だ」
ロランドと一緒にいた
見たような顔もあった。
──故に世界は大いなる墓である。
「だから、どうしたっていうんだ!」
「ダンジョンは死と隣合わせの危険な場所なんだ。
自分を大事にしてくれ」
「残念だな、クリフ。
それでも俺達はダンジョンに行く。
それが心からの望みだからだ」
バーディーは言った。
──死の定めは自由の代償なり。
「バーディー、それが君の心からの望みなのか?」
「そうだよ!
お前を追放したのも、これからダンジョンに行くのも俺の望みだよ!」
──死の定めは自由の代償なり。
自由の代償。
神々の聖句。
……。
僕は、バーディーの抑え込みを解いた。
目から涙が流れる。
止まらない。
僕は、冒険者達の葬儀の時は泣かなかった。
でも、今は泣いている。
「泣いてるのかよ、クリフ?」
バーディーは、馬鹿にしたように言う。
でも、もうどうでもよい。
「泣いてるよ。
すごく悲しい。
悲しくて悲しくてたまらない。
死は僕らに与えられた自由、
この世のどこで死のうと僕の自由で、
君の自由なんだ」
僕はマシンガントークでしゃべった。
こういう時は、絶対変なことをしゃべるんだ。
でも、止まらない。
──自由の代償。
「今死のうと50年後に死のうと大した違いはない。
神々から見れば羽虫も同然。
そんなの知ってたよ。
大人が言うのを聞いた。
教科書にも書いてあった。
でも、この瞬間まで、本当の所では知らなかったんだ!」
「クリフ、お前さ……、何言ってるんだ?
わけ分かんねぇぞ?」
うるさい。
変なことを言っている自覚はある。
「何でも良いだろ。
僕は好きに泣く。
君は好きに死ぬ。
神々の教え通りじゃないか。
僕はとどめる。
でも、君は振りほどいて、『青き階段』を下りていく。
歌の通りじゃないか。
それで良いじゃないか。
歌になっているということは、ロイメでは、こういうことは何度もあったんだよ。
僕らのご先祖は、ダンジョンの
僕は恥もなく、しゃくりあげ、泣きじゃくった。
ロビーに沈黙が落ちた。
気持ちはわかるよ。
いい年の大人の男が号泣してるんだから。
珍しい
「クリフ、……僕は故郷に帰るよ」
サットンが静かに言った。
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