第186話 引き抜き

パーティーメンバーの引き抜きは、僕が経験したことのない事態だ。


まあ、優秀な冒険者は引く手あまたなモノである。

治癒術師は特に貴重である。


さて、どう対処しようか?

えーと、メリアンはトラブルメーカーだから、やめたほうが良いですよ、とか?

駄目だ。本音を言ってる場合ではない。リーダーとして、大人として振る舞わないといけない。

これ大事!


よし、イメージモデルは、『黄緑の仲間』のマークさんだ。



「ニールさん、メリアンは『三槍の誓い』の大切な治癒術師です。

勝手にスカウトされては困ります」

僕は言った。

実際、今メリアンに抜けられると困る。


「矢を拾うなんて雑用をやらせて、大切にしてるはないですよ。見ていられません」

ニールは即、言い返す。


三槍の誓いうちには、三槍の誓いうちのルールがあります。

本人の自主性に合わせる方針なんです」


「自主性ですか。綺麗な言葉ですが、要はリーダーシップが取れてないと言う意味ではありませんか?

何より、治癒術師が肝心な時に疲れていたらどうするのです?」


ああ言えばこう言うだ。

こいつ性格悪いぞ。


とはいえニールの言い分にも一理ある。

メリアンは僕より体力がない。

(そして多分、ナガヤ三兄弟とキンバリーは僕より体力がある)


僕のメリアンへの気遣いは多分足りてなかった。

そして、ニールは僕の失敗を突く作戦のようだ。

なら、こっちもお前の弱点を突く。

頭でニールに負ける気はしない。



「ニールさん、『禿山の一党』がそんなに良い条件のパーティーだとは思えませんね。

かなりの時間を第三層に拘束されることになるでしょう。

毎日バーベキューですか?飽きますよ」


ニールは顔を赤くした。ふん、頭に血が上ったな。

口論の流れは僕にある。ここで一気に勝負を決める!


「第三層の禿山の洞窟とロイメ市内、どちらがより良い生活環境か……」

「うるさーい!うるさい!ウザい!」

僕の華麗な弁舌は、……メリアンにさえぎられてしまった……。



「クリフ・カストナー、こっちが黙ってりゃ、私の好みを勝手に決めつけないでよ。

あんたウザいのよ!」

メリアンはまず、僕に啖呵を切った。


「それから、ニール。

あんたクリフ以下の以下のドドドベだから。

絶対引き抜きとかお断り。

理由は、あんたに我慢がならないからよ!

クリフはウザいけど我慢できる。

あんたは無理無理の無理。

冒険者って言うのは、妥協できるメンバーとパーティーを組むの。あんたとは無理。

ついでに『禿山の一党』の禿のクランマスターも嫌い。

私、禿嫌いだし!」

次に、メリアンはニールにまくしたてる。


禿のチェイスさんが、ちょっとだけ傷ついた顔をしたように見えた。


「あーもー、変なのに絡まれて、私かわいそう。凄いかわいそう。

デイジー慰めて!」

そう言うと、メリアンはデイジーに抱きつく。

デイジーは尻尾をゆらしながら、大人しく抱きつかれていた。


えーと。

メリアンの小爆発に、皆、呆気に取られている。



空気を破ったのは、ザクリー・クランマスターだった。

「ニール、メリアンは『青き階段』に所属する治癒術師だ。

簡単にスカウトされては困る」


「あ、いや、その……」

ニールは口ごもった。


「救援活動の最中だ。だいたい本人も嫌がっているぞ」

コジロウさんが言った。


隣のコサブロウさんは、かなり凄い目でニールを睨みつけている。


「……えーと、その、すみません」

ニールはあっさり謝った。

相変わらず根性無しだな!



「人間族の治癒術師、メリアンと言ったか?」

脇から口を挟んだのは、エルフ族の魔術師にして治癒術師のディナリルさんだ。

無口で、ちょっと怖い感じの美人なんだよな。エルフ族の女性にしては背も高い。


「そうよ」


「私は上級治癒術を使うが……」

そこでディナリルさんは一呼吸置く。


メリアンとディナリルさんの間で、一瞬視線が交差する。


「だからと言って、メリアンの役割がなくなるわけではない。

もし、2人同時に怪我人が出たらどうする?

3人同時なら?

中級以上の治癒術師はたくさんいるにこしたことはない。

キョロキョロソワソワする必要はないぞ。

それから、そこのいけ好かないニールとかいう男だが……、合同パーティーを組むと、こういう男は混じってくる。

私は怪我人でなければ、いちいちまともに相手はせぬ」

ディナリルさんの声は、存外柔らかい。


メリアンはじっとディナリルさんを見る。

当然だが、ディナリルさんは、動じていない。


しゃーない。僕からも言うか。

「メリアン、第二の泉までどれ位かかるか分からない。

体力温存で行こうよ」


メリアンは僕とディナリルさんを交互に見る。そして。

「分かった」

メリアンは言った。


ヨシッ。メリアンが納得したぞ。



「ちょっと、クリフ・カストナー、話は終わってないのよ!

さっきはよくも勝手にいろいろ決めつけてくれたわね!

決めつける前に私に聞きなさいよ!」


えーと。



「そろそろ出発しよう」

ザクリー・クランマスターが言った。


ソズンさんとネイサンさんが立ち上がる。

他の皆も続いた。出発となった。



突然のメリアン引き抜きはびっくりした。僕はいささか、テンパってた。


救援が終わった後、もう一度メリアンと話してみよう。

そして、何が問題だったかも聞こう。

メリアンも「話は終わってない」って言ってるしさ。


メリアンが素直に話してくれるといいが。




休憩の後しばらくして、日付が変わった。

ダンジョンに異変が起きて、4日目となる。


この頃から、魔物モンスターが一段階強くなってきた。


まず完全武装したスケルトン・ウォリアーが出てきた。

こいつは、コジロウさんとコサブロウさんが叩きのめし、フセヴォロの聖弾で灰になった。

鎧で武装してるし、骨しかないし、矢の攻撃が効きにくい。


もう一種類はワイト。

食屍鬼グールの上位種で食屍鬼グール以上に頑丈だ。

爪には、さらに強い毒を持っている。


ワイトの毒にマデリン印の毒消しはどのくらい効くのだろう?


最初に出てきたワイトは、後ろから結界に入り込もうとした。が、ザクリー・クランマスターの杖に阻まれた。

ボコボコにされた所をニールの聖弾が止めを刺した。



地図を見る限り、第二の泉まであと少しだ。


しかし、ダンジョンの神ラブリュストルは僕達を簡単に通してくれない。

そんな感じがしていた。

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