第185話 コンプレックス
ボスッブスッ。
「おっしゃー!
チェイスさんがガッツポーズをする。ノリノリだ。
「ネイサンと2人で倒しているから、チェイスの分は半分の9体だな」
トムさんが冷静に突っ込みをいれた。
「細かいこと言うなよ、トム」
「あとチェイスよ、矢が何本か折れたぞ。
当てる場所と角度を考えろ」
「うるさいな。要は!」
そう言いながら、
すげぇ。
でも、
ヒュン、ドスッ。
今度は
「やるなぁ」
トムさんが言った。
「たいしたことはありません。
私は魔力が弱いのです」
ワリアデルは、この前も似たようなことを言っていた。
エルフ族であるワリアデルにとって、魔力の弱さは相当なコンプレックスのようだ。
「いや、大したモンだろ。
お前は矢にいつでも
必殺の一撃って奴だ」
トムさんが言った。
「魔力が弱かったので、必死で努力しました」
ワリアデルは言う。
「魔力はあまり気にするな。
俺は、魔力にも魔術にも縁がないが、
禿親父のオッサンはいつも通り空気を読まず鈍感だった。
チェイスのオッサンってさ、ここにいる人間族では、ザクリー・クランマスターの次に年上のはずなんだよなぁ。確か。
「そうでしょうか……」
「強くなりたいなら、弓の腕を磨け。
お前の矢はよく当たるが、速射はイマイチだ。
向いてることを頑張る方が楽しいぞ」
チェイスさんは明るく言う。
ザスッ。バスッ。
チェイスさんとネイサンさんは矢を放つ。
矢はほぼ同時に、
「……そうですね、練習してみますか。
私には時間があります」
確かに、エルフなら時間は相当あるよね。
「ま、俺が生きているうちは、ロイメ一の
チェイスのオッサンは、ますます調子に乗っていた。はぁ。
「おい、チェイスよく見ろ!ネイサンもだ」
トムさんが言う。
「左の通路から出てきたあの
仕留めるぞ」
チェイスさん、ネイサンさん、ワリアデルの3人は弓を構えた。
弓による遠距離攻撃部隊、ナガヤ三兄弟とソズンさんの近距離攻撃部隊、僕の聖属性結界による最終防衛ライン。
チームは上手く機能しており、僕達の道程は順調だった。
「休憩しよう」
ザクリー・クランマスターが言う。
右側に、行き止まりの短い通路がある。
休憩にはちょうど良い場所だ。
キンバリーが壁を調べていく。お、サムズアップした。
僕は結界を固定し、フウ、休憩である。
「あー、重かった」
ボヤいたのは
フセヴォロは、聖水の樽を二つ持っている。
「フセヴォロは、ドワーフ族のくせに力がないですねぇ。
そもそも、あなたは何故ついて来たのですか?」
ワリアデルが言った。
なんていうか、ワリアデルって、自分にも他人にも厳しいタイプだよな。
「魔力の弱いエルフ族のお前に言っておくがな、ドワーフ族にもいろいろあるんだよ」
フセヴォロは答えた。
そして、相変わらずこの2人は仲が悪い。
「ドワーフ族の事情とはなんですか?」
僕は好奇心半分、話題そらし半分で聞いてみた。
「おそらくは……」
「黙れ、俺が言う」
ワリアデルの言葉をフセヴォロが遮る。
「ドワーフ族が1人もいないパーティーが第二の泉に1番乗りしたら、ドワーフ族の
だから、3つのパーティー全てにドワーフ族を派遣することになった。
ちなみに、俺がここにいるのは、志願したからだ。
俺の見たところ、このパーティーが1番乗りする可能性が高い」
フセヴォロがまくし立てた。
これは、評価されてるのだろうか?でも。
「ドワーフ族なら、ソズンさんがいますよ?」
ソズンさんは、前衛で大活躍している。
あまりに安定感があって、特に語ることもないくらいだ。
「その、……つまりだな。
『洞窟の王者』の
フセヴォロは言い直す。
そして、ため息をつく。
ソズンさんは軽く肩をすくめた。
どうやらドワーフ族にも、本当にいろいろあるようだ。
「聖属性の使い手が増えるのは、ありがたい」
ザクリー・クランマスターが言った。
そして、続ける。
「このパーティーの要は、そこのクリフ・カストナーだ。
このあとも護衛を頼む」
「ああ、承知した」
フセヴォロは答える。
「それともう一つ。
これからも頼む」
フセヴォロは、再度、深いため息をついた。
向こうでは、メリアンとキンバリーにニールが話しかけている。
結構楽しそうだ。
リア充というやつか?
僕はちょっと聞き耳を立てる。
「治癒術師に、矢を拾う雑用をやらせるなんて、酷いパーティーですね。
そんな仕事はさせませんよ」
ニールは言った。
リア充などではなかった。
これは、……引き抜きである!
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