第183話 第二層の迷宮の構造

第二層は直線的な迷宮ダンジョンだと言われている。


まず、第二層へ降りる階段から第三層へ降りる階段まで、一直線に続く大通りがある。

その大通りは、ほぼ中間地点で北へ向かう別の大通りとT字で交差する。


北へ向かう通りを、通称で『死霊大通り』と呼ぶ。


第二層は『死霊大通り』を中心に、北へ向かってダンジョンが広がっているのだ。


『死霊大通り』は鍵型クランクに曲がリくねり、左右に網目状に通路が派生する。

でも、基本は一本道である。


少なくとも、ロイメの冒険者達が普段ウロウロしている範囲では。




当面の冒険者ギルドの指示は、「北へ向かって『死霊大通り』を第一の泉まで進め」だった。


なお、泉は第二・第三まで発見されている。

今回、第二層に潜っていた大規模探索隊の目標は、第四の泉の発見だった。



最初にマデリンさんが「水の刃」でゾンビを片付けた。


「おぉぉぉおー」「すげぇェー」「マデリン!マデリン!」「ヒューヒュー」


マデリンさんは新たなファンを獲得した。



冒険者達はゾンビの残骸にぬかるむ床を踏み、第二層へ突入した。


残っているのは食屍鬼グールのみ。

マデリン印の毒消し薬もあるし、聖水は無料ただだし、何よりこちらは多勢である。


魔術師の打ち上げた明るい魔術灯の下、冒険者達は次々と食屍鬼グールを狩っていく。


弓を射掛ける者。

槍で中距離から攻撃する者。

剣や斧や鈍器を使い近距離で攻撃する者。

皆の武器に聖水をかけて回る者。

落ちてる魔石を拾う者。


冒険者達の進軍は順調だった。

食屍鬼グールは、囮のゾンビを消す・明るい魔術灯・解毒薬と条件を揃えた今、そこまで恐ろしい魔物モンスターではなかった。



そして、ザクリー・クランマスターが、魔石を冒険者ギルドの管理にした理由が分かった。

冒険者達の間で魔石の取り合いを起こさないためだ。



僕は治癒術師部隊や聖水の荷車運搬部隊と一緒に後ろからついて行く。


出発の時にザクリー・クランマスターから指示があった。

いざというときに備えて魔力を温存しておけとのことだった。




「やあ、クリフ君」

後方部隊まで尋ねて来たのはネイサンさんとデイジーだ。


「前線は大丈夫なんですか?」


「問題ないね。

レイラさんが大暴れしている。

コイチロウ君もコジロウ君もコサブロウ君も、素晴らしい指揮官だよ。

最前線が進み過ぎないように上手く抑えている」


「出てくる魔物モンスターはどんな感じですか?」


「ゾンビはめっきり減った。

マデリンさんにとことんボコられてるしね。

残った食屍鬼グールの攻撃は単調だ。

このままだと良いのだけど。

あとは、……」


そう言うと、ネイサンさんは横に向けて矢を放つ。

ネイサンさんの矢は脇の通路から顔を出した食屍鬼グールに当たる。


ネイサンさんの矢は聖属性ではないので、たいしてダメージを受けた様子はない。

でも、食屍鬼グールの動きは一瞬止まる。


「聖弾」

護衛の魔術師が攻撃魔術を放ち、食屍鬼グールは灰になった。



脇道から、時々アンデッド魔物モンスターが出てくるので、注意が必要だ。




状況が変化したのは、幾度か『死霊大通り』の角を曲がり、第一の泉の道のりの半分くらいまで来た辺りだった。


「スケルトンが来たぞぉ!」

前方で声が上がった。



しばらくして、マデリンさんが荷車まで来た。


「スケルトンは、水がほとんど含まれてないから、マデリンの魔術が効かないのぉ」

マデリンさんはのんきに言った。



スケルトンが出てから、運ばれてくる怪我人が増えた。


スケルトンはゾンビより身軽だ。

食屍鬼グールと違って剣や槍で武装している個体もある。

一瞬の油断が命取りになる。 



「おーい!こいつに上級治癒術を頼む!」

前方から担架で1人の冒険者が運ばれてきた。


その冒険者は首から胸をぐっしょり血に染めて、ぐったりと動かない。


彼の元に駆け寄った治癒術師が首を大きく振る。


「残念だけどもう死んでる。

マデリンでも治せない」

マデリンさんは言った。




「スケルトンの武器に注意しろ。

命を惜しめ」

前の方からザクリー・クランマスターの声が聞こえた。


僕は大きく息を吐いた。

初めてではないが、目の前で人が死ぬのは、ショックである。

 


「彼の死はどういう死になるんだろう」

僕はぼんやり言った。


「冒険者ギルドの救援活動での死だ。

かなり手厚い保障が出るだろう」

ネイサンさんが言う。


僕が言いたいことはそういうことではない。口を開きかけて沈黙する。


冒険者は命と金を天秤にかける仕事なのだ。




午後遅く、僕達救援部隊は第一の泉に到着した。


第一の泉に避難していたのは、21名。

ダンジョンが溢れて3日目である。皆、憔悴していた。

救援部隊の到着に泣き出した者もいた。

何人かは、救援部隊と抱き合った。



21人の中には、全員で避難できたパーティーもあれば、何人か失ったパーティーもあった。

パーティーの中で1人だけ生き延びたと言う者もいた。


予測の範囲である。


『死霊大通り』の途中に、数日前に死んだと思われる冒険者の死体があった。



第一の泉に『雷の尾』も含めて、『青き階段』に属する冒険者達はいなかった。




第一の泉で、一旦休憩となる。

保存食だが、食事も配られた。


「クリフ殿、ザクリー・クランマスターとレイラ殿が呼んでいるぞ」

コイチロウさんに呼ばれた。


泉の側に、ザクリー・クランマスター他、救援部隊の有力者が集まっていた。

エルフ族やドワーフ族、あ、親父もいる。



「夕食後しばらくしたら、出発すべきだと思う。

それと、ここから第二の泉までは、部隊を2〜3ルートに分けたい」

レイラさんは言った。


「明日の朝までここでキャンプをした方が良くないか?」

ザクリー・クランマスターが言う。


これは僕も同感だ。

『雷の尾』は気になるが、みな疲れている。


「これから多分、第二層では、少しづつ亡霊レイスが増えてくる。

増える前に少しでも進んでおきたい」

レイラさんは続けて言う。


「それはあなたの予測ですか?」

冒険者ギルドの偉いさんと思われる人物が聞く。


「ダンジョンに詳しい奴から聞いたのよ」

レイラさんは答える。



「もしかして、ケレグントさんですか?」

僕は質問する。


「そうよ」


そういえば、ケレグントさんはしばらく前から姿が見えない。


「ケレグントさんはどこに行ったのでしょう?」


「魔術を使って、どこかに隠れているんじゃない?

こうなるとまず見つけられない」


冒険者ギルドの偉いさんはレイラさんを胡散臭そうに見ている。


うーん、どうするか。

ハイエルフであるケレグントを引っ張り出せれば良いのだが。



ワンッワンッ。

デイジーの声がした。

僕が振り向くと、デイジーが、でぶエルフの服の袖を咥えて、こちらに来る所だった。

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