第182話 足止め、そして

レイラさんとマデリンさんの足止め。

はっきり言おう。

超超高難易度クエストである!



「レイラ殿、マデリン殿、今しばらく待ってくれ。

コイチロウ兄者や、ザクリー・クランマスターが何とかする」

先鋒はコジロウさんだ。


「今のSランク会議がまとまるかしら?

主だったメンバーは、ダンジョンの奥か、ロイメの外よ」

レイラさんは答えた。



レイラさんの説得は大変そうだ。

それなら。


「マデリンさん、ええと、今度親父、カール・カストナーにマデリンさんのことを話したいと僕は思っているんです。

どんな風に伝えるか、希望はありますか?」


目的のためには手段を選んでいられない。

いざという時は、身内だって売る!


「え、カールさんって、あの火薬騒ぎの時の魔術師さん?」


案の定、マデリンさんは食いついてきた。



「はい。『魔術師クラン』の火薬使い、カール・カストナーです」


「やだぁ、どうしよう。

ええとぉ、マデリンは美人でぇ、性格良くてぇ……」


マデリンさんの性格については、ノーコメント。


「マデリンさんが水属性魔術師であることは言ってはいけませんか?

親父は魔術オタクなので、必ず興味を持つと思うのですが」


「う~ん、やっぱり男のヒトって、か弱い女の子が好きじゃない?

マデリンそう思うの」


ここは迷う所だ。

何しろ、マデリンさんの強さは桁違いなのだ。


「では、魔術はちょっと保留にしましょう。

でも、親父は美人と聞くと緊張するタイプなんですよね……。

どう伝えようかな、うーん」


「えーとねぇ、マデリンお料理も得意よぉ」


「そうなんですか?

どんな料理が作れますか?」


「えっとねぇ……」



そんなわけで、僕とマデリンさんの無駄話は当分終わりそうにない。


 レイラさんがジロっと睨みつけてきた。

一瞬、背筋がぞくっとする。

いや、ここは平常心だ。

高難易度クエストなのは、分かっていたことじゃないか。



「なあ、レイラさん。

俺達もあんたも遅れて来たわけだ。

ここはあと少し待ってもいいんじゃないか?」

トムさんが言った。


「言っとくけど、あたしは遅れてないわよ!

知らせを聞いて、すぐにマデリンを探して、とっ捕まえて、その後、マデリンとセリアと3人でろくに眠らず薬を作ってたの!

働き詰めよ!」


「それは……」


「その間、Sランク会議の連中あいつらは、ずっーとしゃべってただけよ」

レイラさんは怒っている。


冒険者ギルドの動きが遅いのは、全くもって事実である。


「いやー、てっきり俺達同様、釣りでもしてたのかと思っていたよ」

禿チェイスの親父は空気を読まずに明るく言った。


レイラさんは無視した。



「レイラさん、それでもちょっとだけ待って欲しい」

キンバリーが割り込んだ。

「必ず、コイチロウさんが何とかする」


「弟子のあなたが、あたしに意見するの?」

レイラさんは不機嫌に言い返す。


あー、レイラさん、今の言い方キツイですよ。


「意見は、、します!」

キンバリーは、負けずに宣言した。

両足は緊張して、ダンジョンの床を踏ん張っている。


「ふん。……まあいいわ。

ちょっとだけ待ってあげる」




コイチロウさんとザクリー・クランマスターは、なかなか降りてはこなかった。

レイラさんがだんだん苛ついているのが分かる。



レイラさんより問題なのは、冒険者達である。

血の気と欲っ気の多い冒険者達は、『アンデッド・バスターズ』の武勇伝を聞き、どんどん降りてくる。

彼らは第二層に繰り出す気満々である。


こちらはコジロウさんとソズンさんが足止めしてる。

でも、限界は近い。



僕の考えでは、救援部隊を一気に出し、安全地帯まで強行するのが良い計画ベストプランだ。

中途半端に食屍鬼グールを狩ると、亡霊レイスが早く増えるたろう。




レイラさんが3回目に立ち上がり、メリアンがマデリンさんと美容談義を始めた頃、ようやく上が騒がしくなった。


降りてきたのは、ザクリー・クランマスターや冒険者ギルドのお歴々、その他大勢。

話はまとまったのか?

 


「ロイメの冒険者達よ」

ザクリー・クランマスターは、拡声魔術器を使い呼びかけた。


「わしはSランク冒険者にして竜殺しドラゴンスレイヤー、Z・パウアである」 


冒険者達は、とりあえず、ザクリー・クランマスターの方を見た。


「これから、第二層の安全地帯、第一の泉まで救援部隊を派遣する」


「「おおー」」

冒険者達は応えた。


……うーん、イマイチやる気が足りない感じ?

散々待たされたしねぇ。


「なお、食屍鬼グールから取れた魔石は冒険者ギルドが管理する。

利益は救援活動に参加した冒険者全員で分けるものとする」


……これは、冒険者達からウケが悪そうだな。


「えぇェー」

「自分で取った魔石を取り上げられるのは、納得いかねーよ!」

「引っ込め、Sランクのじじい!」


一部の冒険者は声を上げた。

沈黙している冒険者達も、不満そうである。


「救援活動なんてどうでも良い。勝手に食屍鬼グールたけ狩らせてもらおう」


コソコソしゃべっている奴らがいる。

ゲートを管理しているのが、冒険者ギルドだし無理なんだけど。



その時、ヒョイとレイラさんがザクリー・クランマスターに白銀の杖を投げ渡した。


ザクリー・クランマスターは、杖を受け取り構える。



「フオオォォ」

ザクリー・クランマスターは気合を入れる。

肉体の中でマナが集中する。

これは!


「ハッ!!」


ドゴォ!!


ザクリー・クランマスターの一撃は、

ダンジョンの壁に大きく、

めり込んだ!


いやいやいや。

ダンジョンの壁は、そう簡単に壊れない。

ヤバイ。

なんていうか、レイラさんの格闘術と同じチートの臭いがする。


冒険者達は静まり返った。



「魔石の利益は山分けとなる。

その代わり、救援活動において功績著しい者には、冒険者ギルドから功労賞を出す」

ザクリー・クランマスターは改めて言った。



……こう来たか。

冒険者ギルドの功労賞は、直接金にはならないが、持っているとロイメ市内では何かと便利である。

ロイメの市民権も取得しやすくなる。



「ダンジョンが溢れる今は非常時である。

忘れるな。

目標は救援である。

命は惜しめ。

そして、仲間達を助けようではないか!!」



「こうなったら功労賞取ってやる」

「仲間を助けて、ロイメの歴史に名を刻んでやろうぜ」

「行くぞぉぉォォ!!」


冒険者達の集団から声が上がる。


この声は、トビアスさん、ネイサンさん、コイチロウさん。

冒険者達の群れに紛れていたようだ。

サクラと言うヤツである。


「「「やるぞぉぉー!!」」」

「「「おおォォォ」」」

雄叫びがあがる。


冒険者達はついにやる気になった。




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