第180話 対グール戦術

「チェイス、トム、そしてデイジー、よく来たな。

お前らは、第二層は苦手だし、来ないかと思っていたぞ」

ソズンさんは言った。


「トビアスとダレンが、俺達のところまで手紙を届けてくれた。

クランマスターに、『青き階段の冒険者達のためにどうしても来て欲しい』と言われれば、来ないわけにはいかないだろう」

チェイスさんは偉そうに胸を張って答える。


「おいチェイス、誤魔化すな。

クランマスターが呼んだのは、ネイサンとデイジーだ。

俺達は、家族もいるし無理して来ることないって書いてあっただろう」

トムさんが隣でボソッと言う。


「おいトム!

その話、女房殿には言うなよな。

女房殿には、クランマスターに呼ばれてやむを得ず行くって言ったんだよ」

禿チェイスのオッサン。


「言わんよ。……実は俺も女房にそう言って出てきた。

お前こそ、うちの女房にバラすなよ。

絶対だぞ」

トムさん。


「分かった。絶対にばらさん」


「絶対に絶対だからな。

うっかりなしだぞ」


……。



デイジーが僕に鼻を擦り寄せてきた。

オッサン達の話は無視しよう。

僕はデイジーを思いっきりモフった。

デイジーは僕の顔をペロペロなめてくれた。


ここ数日の疲労がすぅっと消えていく。

マナも少し分けてもらった。



「あの時の子狼がこんなに大きくなったんですか」

ケレグントはデイジーの背中を軽く撫でながら言う。


デイジーは気持ち良さそうにケレグントに撫でられていた。




「おおっ、デイジーにトム殿、チェイス殿」


結界の向こうから、コジロウさんとコサブロウさんと、『アンデッドバスターズ』が戻って来た。


皆さん、かなりゾンビの返り汁を食らっている。

臭い。



「おかげで大漁だった。

食屍鬼グールを12匹狩れた。

魔石も2つ出たぞ」


『アンデッド・バスターズ』のリーダーは、大漁にほくほくな様子である。


「2人には世話になった。

分配分は『青き階段』に持っていく。

機会があれば、また一緒に潜ろう」

リーダーは、コジロウさんとコサブロウさんと親しげに話している。



「皆の衆、食屍鬼グールを狩るコツが分かったぞ。 

ゾンビそのものは無視して良いのだ。

しかし、ゾンビに隠れて近寄ってくる食屍鬼グールには気をつけねばならん。

ともかく、索敵に人員を割いて、余裕を持って狩る」

コジロウさんは上機嫌に言っている。



コジロウさんの言う通りなら、食屍鬼グールも攻略できるかな?


僕は第二層に潜っていた冒険者達が全滅したとは思っていない。

いくつかある安全地帯に避難した連中がいると思う。



ただ、今の第二層攻略は、僕の聖属性結界だけでは足りない。

食屍鬼グールとして、聖属性の武器と、有能でタフな前衛戦士が絶対必要だ。


まず、第一の安全地帯まで行くと仮定する。

どんなパーティーを組めば良いだろうか?


だいたい一日目に、第三層を目指さずに一気に第二層奥へ進んだ方が良かったんじゃないだろうか?



もつれる考えの中、ふと、僕は思った。


昔ソズン師範は、「ダンジョンは学習・適応する存在」だと言った。


実際、僕が亡霊レイスを消滅させた後、亡霊レイスは減った。

代わりに食屍鬼グールが増えた。


ダンジョンは僕に対して学習し適応したとも言える。



「今度は『アンデッド・バスターズ』によって、食屍鬼グールが狩られた。

ダンジョンは新たな適応をするんだろうか?

また亡霊レイスが増えたりとか」


「その可能性は高いですね」

でぶハイエルフのケレグントは、のんきに言った。


やっぱり。



「分かる範囲で良いです。

これから第二層の魔物モンスターは、どう変化すると思いますか?」


「そうですね。

食屍鬼グールは今がピークだと思います。

そして、再び亡霊レイスが増えてくるでしょう。

最終的に、ゾンビの中に食屍鬼グール亡霊レイスが同じぐらいの割合で混じって平衡状態になると予想しますね。

ただし、すべての手札はダンジョンの神ラブリュストルがお持ちです。

あくまで予想ですよ」



ゾンビ・亡霊レイス食屍鬼グールの3種類の魔物モンスターに対するのは、現在の2種類の魔物モンスターに対するより難しいだろう。


救援パーティーの派遣は急いだ方が良さそうだ。



「そちらの豊かな御仁は、どなたかな?」

コサブロウさんが質問してきた。


コサブロウさんの言う「豊かな」とは、「でぶ」と言う意味であろう。


「東方ハイエルフのケレグント〘さん〙です」


──いろいろ教えてもらったし、ここはやはり〘さん〙付けしておくか。



「ハイエルフ殿か。お初にお目にかかる」

コジロウさんとコサブロウさんはかしこまった。


「私は、ナガヤ・コジロウ。

ナガヤ・ゲンイチロウの三男だ」

コジロウさんは名乗った。


「私は、ナガヤ・コサブロウ。

ナガヤ・ゲンイチロウの四男で、コジロウ兄の三つ子の弟だ」

コサブロウさんも名乗った。


二人は軽く一礼した。


「私はケレグントです。

すみません。ちょっとだけ、生活魔術をかけさせて下さい」

ケレグントは鼻をつまみながら言った。



ケレグントの生活魔術の腕は見事なものだった。

サッとかけると、臭いが薄くなる。

僕より生活魔術が上手い魔術師を初めて見た。



「ちょっと、クリフ!

このでぶエルフ、本当にハイエルフなの?

ネタとか冗談とか合言葉とかじゃなくて?」

メリアンが言った。


「魔術の腕を見れば分かるだろ。本物だよ」

僕は答えた。


「そりゃあ魔術は凄いみたいだけど。

このでぶがハイエルフ?

本当の本当に?

私の小さい頃の夢を返してよ!」


メリアンはハイエルフにも気後れしないなぁと思ったら、こういうオチか。


「昔は痩せてたんですよ。

ロイメの食べ物は美味しくて、気がついたらこうなってしまいまして」

ケレグントはちょっと切なそうなそうな顔をした。



「そう言えば、腕利き結界魔術師さん、あなたの名前を聞いていませんね」


腕利きか。

そう言ってもらえるのは嬉しい。


だができることなら。

死ぬまでに、ハイエルフのケレグントが嫉妬でケチを付けたくなるぐらいまで、防御魔術の腕を磨きたいものだ。


「僕の名はクリフ・カストナーです。

『三槍の誓い』のリーダーで、『魔術師クラン』にも所属しています。

よろしくお願いします」


──僕はケレグント、いやに、名乗った。




「クリフ・リーダー!、メリアン、みんな」 

キンバリーが階段を降りて来た。


キンバリーの後ろには、レイラさんとマデリンさんがいる。


役者が揃ってきたぞ!

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