第178話 ハイエルフ
黒髪碧眼のエルフ族は東方エルフ族である。
高度な魔法文明を持っていると言われる東方エルフ族は、ロイメのダンジョンにゲートを設置した。
初代冒険者ギルドのギルドマスターの要請に応えたのだ。
そして、ロイメにはゲートの監視役として、ハイエルフが常時1人は滞在している。
僕はそう習った。そう聞いている。
直に会うのは初めてだ。
彼がそうなのか。このデブが。
……このエルフの男、身長が僕より高いのは良いとして、体重は2倍以上ありそうだ。
美形かどうかも分からない。
もはや人相は肉に埋もれている。
「ハイエルフさんですね?」
僕は確認する。
「はい」
ハイエルフは明るく答えた。
彼はヒョイと手を広げると、手のひらの上に幾重にも虹をかけてみせた。
小規模な無詠唱魔術。
僕には、それがおそろしく繊細な術式で出来ていることが分かった。
「見事な聖属性結界です」
ハイエルフは、僕の張った結界を肉のついた太い指で指差した。
「ありがとうございます」
圧倒的な先達からの褒め言葉だ。
ここは素直に喜ぶべきだろう。
「面白い話をしていたので、つい出張ってきてしまいました」
「面白い話とは何ですが?」
「ほら、人間族の6人組と言うヤツですよぉ」
ハイエルフは答えた。
ハイエルフである彼がそういうと言うことは……。
「6人組の言い伝えは本当なんですね」
「真実を知っているのは、
ですが、統計を見た限り人間族の男6人組パーティーは良くないようですね。
普段は微々たる差です。
でも、今はこういう時期ですし、適切な忠告だと思いますよ」
そう言うと、ハイエルフはソズンさんを見た。
「ある魔術師が調べたデータだ。
俺は聞いた話をそのまま伝えただけだ」
ソズンさんは軽く肩をすくめる。
「ねぇねぇ、ソズンさん、でぶエルフさん」
メリアンが脇から口を挟んだ。
「なんだ?」
ソズンさんは答える。
「でぶエルフはやめて下さい!」
ハイエルフは憤慨した。……だよねえ。
「だって、名前が分からないんだもの」
メリアンは軽く口を尖らせる。
「私はケレグントです。
はあ、名乗らずに済ませようと思ったんですが」
ハイエルフはぼやいた。
ケレグントね。
僕は頭の中に刻み込んだ。
「私は、メリアンよ。
人間族の男6人は駄目だって言ってたけど、エルフ族やドワーフ族の男6人だと大丈夫なの?」
メリアンの質問である。
もっともな疑問だ。
「人間族の男6人に比べると問題は少ないようですねぇ」
「なんか納得いかない。
えこひいきだわ。
「さて、どうでしょうねぇ?」
ケレグントは肩をすくめ、口を濁した。
そう簡単にはごまかされないぞ。
人間族のしつこさを舐めるな。
「……違うと思うな」
僕は言った。
そして続ける。
「仮に
でも、そんなことはない。
神話でも
僕は話しながら、論理を組み立てていく。
そして、ケレグントの反応を見る。
──ケレグントをなんと呼べば良いだろうか?
ハイエルフでは永劫の時を生きる。
ケレグント〘さん〙と呼ぶには異質だ。
かと言って、ケレグント〘さま〙付けも違う気がする。
「そう言えばそうね。
魔石産出ではロイメが1番だって王都で習ったわ」
メリアン。
「1つの仮説だけど……、『人間族の男のみの6人組が良くない』を、
『ダンジョンにおける多数派6人組のパーティーは良くない』に言い換えてみよう。
このダンジョンに一番たくさん潜っているのは、人間族の男だろう?
この仮説だと、現象と矛盾しない。
僕は頭の中で今言った内容を検証する。
うん。良い具合に閃いた。
ラブリュストルは捻くれ者、それがヒントになった。
「良い仮説です。
私の持っている統計とも矛盾しません。
同じような意見を言っていた方は他にもいます」
ハイエルフのケレグントは言った。
「そうなるとエルフ族やドワーフ族は、ダンジョンに潜る時、どうするの?
ハーフ種族を入れる?」
メリアンは言った。
メリアンの疑問はいいところをついてる。
人間族の国には、エルフやドワーフその他の異種族がそれなりにいる。
特にロイメは多い。
でも、他の種族、特にエルフ族の支配する地域はもっと排他的で保守的だ。
そういう土地にも小規模なダンジョンはある。
「女性を連れて潜ることが多いようですね」
ケレグントは言った。
来たよ。男女混合パーティー!
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