第13章 地の底から

第168話 北のサブダンジョン

北のサブダンジョンのクエストは上出来だった。



今回の『三槍の誓い』の目的は、戦闘のコンビネーションの確認だ。


そして、運良くか悪くか、いきなり若い巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーの群れと遭遇したのである。

なんで蜘蛛なんだよ!

僕は蜘蛛が苦手なのだ。



メリアンも巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーの集団に、悲鳴をあげた。

これに関して文句は言わない。

僕も悲鳴をあげそうだった。

ただ、、ぼくは、怖いものを見た時に、声が出なくなるたちなのだ。



それでも、待ちに待った雑魚魔物モンスターとの遭遇だ。

蜘蛛だけどな!


僕は衝撃吸収の結界を張った。

近寄ってきた巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーが、軽い抵抗を感じ、怪訝そうな顔?をする。


衝撃吸収の結界は、巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーのような、足元を固めた敵にはあまり効かない。

しかし、予測してないと嫌なものである。

下手すると結界に足を取られて転ぶ。


ブンと音を立てて、コイチロウさんの長槍が襲いかかる。

巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーは、真っ二つになった。合掌。



何十匹もの群れである。敵はまだまだいる。

ナガヤ三兄弟は、大いに槍を振るった。

最初に3人での戦い方を確認していた。

途中から結界を出て、狭い場所でいかに槍を振るうかとか、縛りプレイをしていた。

いや、いいけどね……。


メリアンの攻撃魔術も飛んた。

氷撃は、攻撃力はそれほどでもないが、体温を奪うので巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーの動きを鈍くするようだ。


「メリアン殿の攻撃魔術は、使うタイミングが重要だな」

コイチロウさんは言った。


僕も同じ意見である。



そして、だいたい片付けた後。

「クリフ殿も一匹、仕留めてみたらどうだ?」 

コジロウさんは、小さな巨大蜘蛛ジャイアントスパイダを指さして、言った。


「……。」


僕は、直接武器で魔物モンスターを仕留めたことはない。


僕の膝の少し上までしかない、小さな巨大蜘蛛ジャイスパイダーだ。

僕も短剣は持っている。

どうってことない。


……イヤ、怖いよ。

蜘蛛は嫌いだし。



「いいんじゃないの?

クリフもたまには運動したら?

耐電・帯電コンボはナシで」

メリアンは言った。


おいメリアン、笑顔がビミョーに黒くないか?



「兄者、いくら何でも、もう少し大きい蜘蛛の方が良いのでは?」

コサブロウさんが言う。


こちらは、特に悪意はない。タブン。



「いいと思う。

第五層には、小さな魔物モンスターも出るって、レイラさんが言ってた」

キンバリー!



やるしかないようだ。どう見ても格下なんだから。



僕はあっけなく、くだんの蜘蛛を壁際に追い詰めた。まずは上出来である。

巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーは、ワキワキと脚を動かしている。


どうしよう?

巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーに毒はないが、体液がかかるのはイヤである。


頭胸部と腹部の間をバッサリやればきれいに殺せるだろうか?

しかし、僕が狙おうとすると、ヤツはワキワキと避けるのである。


メリアンに耐電・帯電コンボは禁じられてしまった。

何か動きを止める良い方法はないか?


そうだ!



僕は巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーに近づきなんとか足先を掴む。そして。


「上級治癒」

僕は魔術を発動させた。


巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーの動きが鈍り、脚をギュッと曲げる。

突然の体調不良に戸惑っているのだろう。

フハハ、僕のポンコツ上級治癒術をめるな!


グサッ。

僕の短剣は、巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーを仕留めた。

やったぜ。武器を使っての初白星だ。

僕は勝利の余韻に浸った……。



「却下よ、クリフ・カストナー」

メリアンが言った。


「ちゃんと巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーを仕留めただろ!」

僕は反論する。


「流石に、いろいろもったいなくないか?」

コサブロウさんもメリアンに同調する。


僕的には、これが合理的な最適解である。

もしかしたら、僕のポンコツ上級治癒は、耐電・帯電コンボより効くかもしれない。

ちょっと疲れるけど。


「クリフ殿の上級治癒術は、なかなか使い出がありそうだな」

コジロウさんは何か考えてる風である。


ほら、コジロウさんも言ってるし。


「駄目。これじゃ、魔力を使い過ぎ」

キンバリーが断言した。


やっぱり駄目か……。



その後、僕はキンバリーのサポートを受けて、巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーを普通に仕留めた。

さっきのより少し大きめで、僕のももの辺りまである蜘蛛である。


「まず脚を傷つけて、自由に動けなくする。

一本ずつでいい。

とどめは最後」


キンバリーの言う通りやったら、難なく仕留められた。

キンバリーは良い教師だった。


達成感はある。くたびれたけど。



「クリフ殿、もう少し長い武器を持った方が良いのではないか?」

最後に発言したのは、コイチロウさんだった。


「武器が長ければ、魔物モンスターとも、距離を取って戦える。

返り血もかかりにくくなる」



うーん、そうかもしれない。

例えば、杖。

杖ががあれば、巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーを遠くから叩き潰したり、追い払ったり、いろいろできそうだ。


僕は何年か前、杖なしでの魔術発動を練習しまくった。

なんと言うか、格好良く思えたので。

杖無しでの魔術発動様式スタイルは僕の自慢である。


だが、今の目標は第五層である。

様式スタイルと命、どちらが大切か。


「今度、第五層用の杖を見繕いますよ」

僕は言った。


何かを叩いても簡単には折れない、頑丈な杖にしよう。



その後も、北のサブダンジョンでの小さな幸運があった。


今度は、たくさんの大蛾ビッグモスの繭を見つけたのだ。

大蛾ビッグモスの繭は売れる。 


繭から取れる糸を織り上げると、暖かくて涼しく丈夫な、冒険者の高級下着アンダーウェアになる。


僕達は、繭を詰めれるだけ袋に詰めた。


魔石はどうだったって?

巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーからは、小さめの石が1個と、クズ石が何個か出たよ。


荷物がいっぱいになった僕達は、北のサブダンジョンを後にした。




かくして僕達は、日が高いうちに『青き階段』に戻って来た。


『青き階段』は騒がしかった。

ロビーには、たくさんの冒険者がいる。

今まで経験したことのない、緊張した空気である。


「どうしたんですか?」

僕はユーフェミアさんに聞く。


「メインダンジョンの第二層で異変が起きているようなのです」

ユーフェミアさんは答えた。



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