第128話 僕とネリーは昔から馬が合わない

僕達が銀弓と面会した次の日、『青き階段』にシオドアと赤毛のネリーが訪ねて来た。



「ユーフェミア叔母上、お久しぶり……でもないですが。

あなたと『三槍の誓い』の皆さんにお話があります」

シオドアは言った。


口調はいつも通りだったが、目の下に隈があった。




情報交換は『青き階段』の二階にある会議室で行われた。

エルフの魔術師セリアさんも参加する。



「魅了スキル!?

金盾は、そんなうらやましいスキルを持っているのか?」


そう言ったコジロウさんは、コイチロウさんに後頭部をはたかれた。

迂闊な発言であった。



僕にとっては、魅了スキルにはうらやましいと言うより、存在事態が驚異的だ。

魔物モンスターである、バンパイアは魅了スキルを持っていると言われている。だが、ヒト族の持つスキルとしては、半ば伝説の存在だ。


一応、魔術には精神操作系統と呼ばれる属性がある。

だがこれらは、ギアスなど、対象の「意思」に影響を与える術である。

対象の「情緒」に影響を与える術は、……少なくとも僕は知らない。



「魅了スキルとは、激レアスキルですね。

現実にこの目で見れる可能性があるわけですか」

僕も、まあ……、ちょっと興奮して調子に乗っていたかもしれない。


メリアンとネリーからジロリと睨まれる。

あと……、ユーフェミアさんからも。

スミマセン、真面目に考えます。



「現実に見た立場としては、あまり気色の良いものではないよ。

魅了スキルなんてものは、妄想してる時が一番楽しいんだ」

シオドアが言う。


シオドアはネリーからすごい気合いで睨まれている。やーい。



「皆さん、あまり冗談にはできません。

本当なら、恐ろしく物騒なスキルです。

金盾が魅了スキルを使ったのは間違いないのですか?」

ユーフェミアさんが聞いた。


「間違いありません。

魔術とも違うマナの流れを感じました」

ネリーが答えた。


「ネリーは精神操作属性を持つ魔術師ですから、この件に関しては間違いないですよ」

僕は言い添えた。



ネリーは、いきなりキッと僕を睨み付けた。なんだよ!


「ちょっとクリフ!

私が精神操作属性とか、何勝手なこと言ってるのよ!」

ネリーが身を乗り出して言った。


「僕に手の内さらしたのはネリーだろ?

魔術師クランの模擬戦で僕と対戦した時、精神操作魔術を僕にしかけたじゃないか。

それも一度じゃなかったぞ」



僕の記憶が間違いでなければ、2回使ってきた。

仕掛けてきたのは『混乱』と言う、一瞬集中を乱させる攻撃魔術だった。

魔術師相手には、有効な術である。

もちろん、同じ属性の防御魔術でガードしたけどな!



かなかったと思ってたけど、気づいてたなんて。

何でばらすのよ。

精神操作属性の魔術師は嫌われやすいんだから」

ネリーは言う。


「それなら使っいぱなしにせずに、ちゃんと口止めしろよ。

だいたい精神操作属性なら、僕も持ってるよ。

好かれるも嫌われるも特にないよ」


確かに、精神操作属性は、魔術師クランが術の使用にいろいろ注文や制限をつけてくる。

でもそれは、僕の治癒術も同じである。

魔術と言うのはそういうものなのだ。



「クリフはどうせ防御魔術しか使えないんでしょ?

私は、あなたより才能がある分

もう、何で今ばらしたのよ!

理由を言いなさい!」

ネリーは聞いてきた。


「そりゃ今、話したい相手が回りにいるからだよ」

僕は答えた。

聞かれた以上、原則答えるのが僕の流儀だ。


「つまり、魔術師クランには話したい相手がいなかった。

そうよね、あなた友達いないもんね!」

ネリーは言った。


「魔術師クランで僕は友達少ないけど……、いないわけじゃないよ!」


あー!ネリー、僕に友達がいないって言ったな!

いないわけじゃないぞ。

少ないだけだ。



「二人とも、互いを傷つけ合うのはやめよ」

コイチロウさんが言った。


「ネリー殿、死霊魔術ネクロマンシー属性に、精神操作属性とは、大変な星の元に生まれたものだな。

あなたがいろいろ用心するのは分かる」

コイチロウさんは、ネリーに言った。


「クリフ、これが大人の気づかいってやつよ。

?」

ネリーは言い立てる。


うるさい。



「ネリーさん、あなたの報告に信憑性があるのは分かりました。

ここにいる皆さん、ネリーさんの精神操作魔術については沈黙の誓いを立ててください。

クリフさんも」

ユーフェミアさんは言い、僕にやや厳しめの視線を向けた。


はい。



「魅了スキルは、具体的にはどの程度効果があるのだ?」

コイチロウさんが聞いた。


「トレイシーが完全にかかって、僕の説得を受け入れなくなった。

トロール族のヘンニはかからなかった。

ハーフトロールのスザナは、かかりかけて、ヘンニに殴られて正気に戻った」

シオドアが言った。



「トレイシー殿は今は大丈夫なのか?」


「正気には戻ったわよ。

解呪も使ったし、トレイシーから、変なマナの流れも感じない。

でも、トレイシーは2度と金盾とは会わせたくない」

ネリーが答えた。



「スザナはどうしたんデスか?」

エルフの魔術師セリアさんが聞いた。


エルフのセリアさんとハーフトロールのスザナさんは同じ『緑の仲間』だ。

当然気になるだろう。


「スザナは自力で正気に戻ったから問題ないと思うわ。

念のため解呪もかけておいた。

二人ともヘンニと女将さんがついている」

ネリーは言った。


「女でも異種族だとかかりにくいわけだね」

僕は言った。

バンパイアの魅了スキル程はヤバくないのかな?



「ヘンニを異種族の基準にするのは、止めた方がいいよ」

シオドアが言った。


「スザナは、ちょっと恋愛脳な所はありマスが、そこまでチョロくない……はずなんデスよ……」

エルフのセリアさんが言った。



「金盾は、これからためらわずにスキルを使ってくるだろう。

金盾と会うなら、基本女性は連れて行くな。

そして、耐性があるものを除けば、男であっても魅了にかかる可能性はあると思った方がいい」

シオドアは言った。


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