第104話 ハイ・レイス

白い霊光と共にハイ・レイスは現れた。

すごく寒い。

ガチで気温下がってない?


「欲深な冒険者達よ」

ハイ・レイスは言った。

男とも女とも判別がつかない声だ。

なお、白くぼんやりした顔や体つきからも、男か女かはわからない。


「すごいのお。このお化けは口が利けるのか」

コジロウさんが暢気に言った。



ハイ・レイスはコジロウさんの発言を無視した。

そして、片手を上げ、魔術を放とうとする。


「クリフ・カストナー、聖属性の結界に集中しろ。ここは私が防ぐ」

イリークさんが言った。


バチバチッ!


音と光と共に雷撃の呪文が飛んでくる。


「磁力結界」

イリークさんの一言で雷は霧散する。



ハイ・レイスは再び手をふる。今度は何だ?


広間に浮遊していた亡霊レイス達が、僕の結界に飛び込んでくる。

そうきたか!僕は結界を強化する。

亡霊レイス達は僕の結界で次々と消滅する。

いくつかは魔石となって落っこちた。


言っておくけど、アンテッド魔物モンスターが僕の結界を越えるなら、バンパイアのような強固な実体が必要だと思うよ!



「戦いにくい。上がるぞ」

ハロルドさんが言った。


僕達は、窪地から上がり、円形の陣を作った。

いつも通り僕が中央。結界は僕中心に張るから仕方ない。



亡霊レイス達は、飛び込むのをやめて、攻撃魔術を使い出した。

戦術として正解だ。

初級魔術とはいえ、当たると洒落にならない。


「クリフ、聖属性に集中して。

物理的な怪我なら私が治せるから」

メリアンが言った。


その通りだ。いいこと言うじゃないか、メリアン!



ブンッとコイチロウさんが槍を振り回す。結界に近付いていた数体の亡霊レイスが、結界から飛び出た槍に貫かれた。

一体は消滅したか?



ハイ・レイスがまた魔術を使おうとした。

火属性の魔術のようだ。

イリークさんは別の結界を張っている。

ヤバい!


「任せろ!」

盾を持ったハロルドさんが前に出た。

炎の渦を盾で受ける。いや、あれは風結界も併用しているな。

ハロルドさんは風の魔術が使えると聞いたことがある。



いくつか火傷をしたようだが、ハロルドさんは受けきった。

エリクサーを持ったホリーさんとメリアンが、ハロルドさんの治療を始める。


「大丈夫ですか?」

ウィルさんが聞く。


ハロルドさんは頷く。そして立ち上がった。



「ハイ・レイスの御仁よ!」

ハロルドさんは、いきなり呼びかけた。


「あなたは言葉と意思を持ってるとお見受けする。

これ以上の戦いは無益だ。我々はこれからこの亡霊レイスのダンジョンを出る。手を引いて頂きたい」

ハロルドさんは続けた。



「欲深な人間よ。よくもまあ、図々しい口をきくものよ」

ハイ・レイスは至極もっともなことを言った。

僕の後ろで、イリークさんが、いや全くその通りだ、と言ったのが聞こえたよ。



「我々とあなた方が戦えば、あなた方の被害も馬鹿にならないものになるだろう。

お互い手を引くべきだ」

ハロルドさんは言う。


「我々の同族に対する感情は、汝らとは異なる。

だいたい貴様らを逃がすと、次はさらに大勢の仲間を連れてくるのがオチだ。

いにしえより、人間は3人いれば100人いると言う」


ハイ・レイスの言葉は、いちいち的を得ていて、心が痛むよ。

とはいえ、ハイ・レイスの正論にへこむようでは、冒険者などやってられない!



「我々は脱出する。殺せたとして一人か二人だ!」

ハロルドさんは、宣言した。


「いやいや、皆そろって脱出してみせよう。お化けの親玉の御仁!」

コジロウさんがさらに大見得を切ってみせた。



「汝らの大言壮語、可能かな?」


ハイ・レイスはそう言うと、広間の中央で小さな竜巻をおこす。

さっき6つの像をセットした台座の上だ。

巻き込まれて、ケンタウルスの像が倒れた。


ガゴン。


音と共に、再び岩扉が閉まった。



僕達は、再度窪地に降りた。そして、急いでケンタウルスの像をセットする。


ガガガッ。


岩扉は開いていく。



つまり、この像をセットして、亡霊レイス達にそれを倒されないようにして、この広間から脱出しなくてはいけないのか?


脱出の難易度が上がったぞ。



「糊かセメントでもあればいいんですが」

ウィルさんが言った。


「ロープでくくりつけるか」

ギャビンの意見だ。



「いろいろ意見は出ているようだが、ロープぐらい火の魔術で燃やしてみせよう。

汝らの仲間の数人は、逃れるだろう。

しかし、何人かはここに取り残される。

はたして、誰が残るのやら」

ハイ・レイスは楽しそうに言う。



「聖弾」

攻撃が止んだ隙を狙って、イリークさんが聖属性の攻撃魔術を放った。


ハイ・レイスは辛くも逃れる。


うーん、イリークさんの魔術は、威力はあるけど、モーションが大きいんだよね。

いや、前衛と連動するとか、相手を追いつめて使えばいいんだろうけど。




「誰が残るかなら、結論は出ている。私が残る。

その隙に皆が逃げればいい」

ハロルドさんがいきなり言った。


えっー!!


「ハロルドさん、何考えているんだよ!あっちの不細工な穴から脱出すればいいだろ!」

ダグが言った。



僕もダグと同意見だ。

さっきの4人組では厳しかった。

でも、このフルメンバーならいけるんじゃないか?



ウィルさんが首を振った。


「先程、ハロルドさんとも話しましたが、あの穴の向こうは、おそらく第二層の深層です。

たくさんの聖属性の使い手を組織して、ベースキャンプを組まないと到達できないような場所です。

この亡霊レイスのダンジョンを脱出するより分が悪いです」

ウィルさんの意見だ。



「ちょ、ハロルドさん、ウィルさん。アタマ冷やしてくださいッス」

ギャビンが言った。


「ここに残るのは、聖属性の魔力があって耐久力がある私がベストだ」

ハロルドさんは言う。


まあ、聖属性の使い手でも、メリアンには無理な任務だろう。それは分かる。


僕もこの役目は果たせない。結界を張らなければならない。



「ハロルドよ、リーダーであるお前の意見を尊重する。

しかし、ここで少し暴れるぞ。

あと亡霊レイス数体は消滅させてくれよう」

イリークさんは言った。


「兄さん……」

ホリーさんの言葉は声にならない。



『雷の尾』のメンバー同士の話は僕達『三槍の誓い』を放置したまま、どんどん進む。

いやいやいや。


ちょっと待ってよ!


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