第99話 地図作り

「探索に行くのは構わんが、2人は少なすぎる。あと何人か連れて行け」

ハロルドさんは言った。


そこでメンバーを募ったところ、意外なメンバーがスッと手を上げた。

メリアンとダグだ。


ウィルさん、ダグ、メリアン、僕。

ダンジョンの専門家もいる。力自慢の前衛もいる。治癒術師もいる。聖属性の魔術師も2人いる。

悪くないんじゃないか?



『三槍の誓い』のメンバーがいっしょに行こうかと言ってくれたが、今回は断った。


キンバリーもナガヤ三兄弟も、水鉄砲戦をすごく楽しんでいる風だったのだ。


ダンジョンの罠の専門家には、ウィルさんがいる。

何より、聖属性を持たないメンバーが来ても大きな戦力アップにはならない。



「定期的に目印を残して行け。

水と非常食を持っていけ。

時計を持っていけ。

昼までには戻れ。

戻らなければ捜索隊を出す」

ハロルドさんは言った。




通路の幅を測ると、ウィルさんは歩数を数えながら歩き出した。

体の軸がぶれない、歩幅も一定な、マッピング用の歩き方だ。


無闇に話しかけてはいけない。

そんなわけで、僕はタグに小さい声で聞いてみた。


「ダグは、なぜ水鉄砲じゃなくて、こっちに来たんだ?」


「俺は水鉄砲は好みじゃないんだよ。ギャビンとかは好きみたいだけど」

ダグは答えた。


「へえ。なんで?」

みんなすごく興奮して楽しそうだったけど。


「手応えがないんだよな。臭くてもゾンビの方がいいぐらいだ」

ダグは言った。


「えェー、ダグってば変なの。私は臭いの嫌いよ」

メリアンが脇から言う。


「メリアン、おめぇこそ、なんで来たんだよ。水鉄砲が当たらないからか?」

ダグは言った。


「うるさいわよ、ダグ。

だいたいキンバリーも皆も、なんであんなに当たるのよ」

メリアンは言った。


どうやら図星のようだ。



ウィルさんは立ち止まると、ノートに何か書き付ける。

そして、壁にチョークで矢印を書くき、さらに少し離れた所に白い石を置いた。


これがハロルドさんの言っていた目印か。


魔物モンスターにいたずらされることもあるし、ダンジョン自体も変化したりするので、目印が消えることがあるんですよ。

2つ残したのは、せめて片方だけでも残らないかと思っているらからです」

ウィルさんは言った。


目印を2つと言うのは、始めて聞いた。

『雷の尾』のノウハウか。



「地図はどんな感じですか?」

僕は言った。

一段落したようだし、今なら見せてもらってもいいだろう。


「こんな感じですね」

ウィルさんが言った。

シャープな線で描かれた地図のあちこちに、僕には判別できないしるしがある。


「このしるしはなんですか?」


「壁の模様を簡略化したものです。第二層は壁に装飾があるので」

ウィルさんは答えた。



確かに、第二層の壁には装飾がある。

特にここ亡霊レイスのダンジョンは、浮き彫りで、なかなか見事である。

なお、第一層の壁には、このような装飾はない。



「『冒険者ギルド』の資料にありました。

第二層でも場所によって、壁の装飾違うんだとか。

この装飾は、本来なら、第二層でも奥の方にしか見られないものです」

ウィルさんは、壁を指差しながら言った。


「ここはやっぱり第二層なんですかね?」

僕は質問する。


地図作りの専門家である、ウィルさんの意見を聞いてみたい。


亡霊レイスのダンジョンの入り口は、第三層の大峡谷を、川のそばにある洞窟に入り、坂をにある。

降った距離と登った距離を考えれば、第二層よりは第四層に近い場所に思える。

だが。


「壁の装飾、出てくる魔物モンスターがアンデッドであること。この2つを考慮すると、第二層と関係が深い場所に思えます」

ウィルさんは慎重な言い方をした。



「例えば、この亡霊レイスのダンジョンが、第二層に繋がっている可能性はあると思いますか?」


魔術師クランにこういう推測を立てている者がいた。


「私のような地図作りからすると納得できない面もありますが、と思います」

ウィルさんは答えた。



「あっ、そっかー。聖水水鉄砲がガンガン使えるとなると、お前の魔術の出番もないんもんな」

ダグがメリアンに何か言っている。


向こうでは、付いてきた2人が嫌みの応酬をしていた。


「うるさいわね。私の魔術はたいした威力はないけど、水鉄砲よりは効くわよ」


「戦闘はタイミングとチームワークだよ。水鉄砲とは言え、タイミングよく飛んでくると気持ちいいもんな」


「うるさい!うるさい!

ダグだって、勝手な行動をするなって、怒られていたじゃない。

たいして変わらないわ!」


こういう理由で付いてきた訳か。バカ2人である。



「2人とも、喧嘩はやめて下さい。せっかく魔物モンスターを気にせずに、地図を作れるんですから」

ウィルさんが言い、僕達は再び歩き始めた。


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