第74話 真実を追求するもの
「中級治癒術が使えるのに、なぜ書類仕事ができないのよ?」
ネリーが反論した。
「ゼー、でもそうなんです。ハー、世の中いろいろな人がいるんですよ」
ミシェルさんが答えた。
ミシェルさんの言葉には真実の重みがあった。
僕はこれで話は終わったかな、と思った。
しかし、その時。
「いやー、見事な
『パーティークラッシャー』に興味を持って取材していたのですが、今日ここにいれて、私は幸運でしたね」
人垣の後ろから、小柄な男が足を引きずりながら現れた。
『冒険者通信』のゴドフリー。
名前を覚えるのが苦手な僕でも、彼の顔と名前は一発で覚えた。
「ただね、レイラさんが思っているほど、この件は単純じゃありません。
そして、非常に私的な感情から端を発してます
なぜ『冒険の唄』がメリアンを冒険者の世界から排除しようとしたのか。
よろしければ説明しようとおもいましてね」
相変わらずよく回る舌である。
「と言うわけで、ゴドフリー君教えて!と言ってください」
ゴドフリーは笑顔で言った。
多分、女性から見るとキモい笑顔。僕はまあ、気にしないけど。
「……ゴドフリー君教えて」
レイラさんはおそろしく平坦な口調で言った。
「いやー、レイラさんにそう言われると困っちゃうなー」
「とっとと言いなさいよ」
ゴドフリーはレイラさんに罵られて、なんか嬉しそうである。
陰キャ仲間として言いたい。もうちょっと性癖を隠そうぜ……。
「ま、いいでしょう。
『輝ける闇』には、しばらく前まで、治癒術師が所属していました。
美人でとても頭の良い女性でした。
彼女は、『冒険者通信』特別企画・美しい冒険者ランキングで見事1位になり、その勢いのまま結婚しました。
相手は王国の貴族。子爵です。
玉の輿と言うやつです」
「めでたいじゃない。甲斐性のある女ね」
レイラさんは言った。
「ランキング投票に不正があったとしたら?」
ゴドフリーが言う。
「どうせ、その不正に『冒険者通信』とあなたも噛んでいるでしょ」
「ひらたく言えばそうです。
私だけじゃありません。『冒険の唄』女将さんも票のとりまとめに協力しました。
クランの宣伝効果を狙ってです。
さて、どう思いますか?彼女を」
「『最初に道を見つけた者が最大のチャンスを得る』
ちょっと邪道だけど、その一種よね」
レイラさんが言ったのは、冒険者の
「そもそも、デイジーを殿堂入りさせなければ起きなかったトラブルよ。
彼女は今回、うまいこと宣伝をすれば、1位を取れることに気がついたんでしょ。
それを有り難がる男がいることも分かっていた」
レイラさんは続けた。
「その方の結婚は、ロイメの女性冒険者の地位を上げたって、記事で読みましたよ」
ユーフェミアさんが脇から言った。
「そう言う面はあります。
でも、女性はそこまで単純じゃありません。特に若い独身の女性は。
ついでに言うと、女性冒険者の地位が上がったと言っても、誰にでもチャンスがあるわけじゃない。
美人であること。水準を越える魔力を持つこと。
属性は、治癒属性か聖属性、このどちらかてしょう。
この2属性は、王国貴族の間で人気がありますから」
ゴドフリーは続けた。
「その治癒術師がメリアンに似ていたとか?」
「いいえ、彼女はすらっと背が高く、かっちりした雰囲気の女性でして、大分違います」
「……」
「ともかく、彼女の周りの女性達は、自分達を踏み台に、のしあがられたような気がしてたんですよ!
そこに条件を満たす、金髪美人の治癒術師が現れたわけです」
つまりゴドフリーは、
『冒険の唄』の女性達が、結婚退職した女性治癒術師と、メリアンを重ねた。
そして、その結果として、彼女達はメリアンを冒険者社会から追い出そうとした。
こう言いたいわけか?
「それ、あなたの妄想よね」
レイラさんは淡々と言った。
「でも、私の妄想は現実になります。それが、ブンヤである私の力です。
伝令神ヘスゴル様はかくも偉大なり」
ゴドフリーはニンマリと笑う。
レイラさんはゴドフリーに向かって手を差し出した。
「……ゴドフリー、手帳を貸して」
レイラさんの声は低い。
「いくらレイラさんと言えども手帳は渡せません」
ゴドフリーは答える。
レイラさんは無言で一気に踏み込む。
一方のゴドフリーは出口に逃げようとした。
しかし、案の定と言うか、あっという間にレイラさんに捕まった。
レイラさんはゴドフリーを締め上げる。そして、手帳を奪い取った。
レイラさんは、手帳のページをパラパラとめくっていく。
「『女の戦い・パーティークラッシャーの真実』 これ、次号の見出しなのかしら?」
レイラさんは周囲に手帳を広げて見せる。
そこには確かにその手の内容が書かれていた。
もちろん、他にもいろいろとだ!
「見なさい!ゴドフリーなんか出入りさせてもろくなことにならないわよ」
レイラさんは、女将さん、ネリー、トレイシー、銀弓に、特に念入りに手帳を見せて回る。
女将さんもネリーもトレイシーも顔色が悪い。
まあ、悪い噂を流している方のはずが、悪い噂を流される方になると言うのは、大いに計算違いだろう。
相手がゴドフリーみたいな男なら
「レイラさん、私の手帳を返して貰えませんか? ブンヤにとっては命の次に大切なものです」
「フン!」
レイラさんは鼻で笑った。そして、手帳を魔石炉に投げ込む。
手帳はメラメラと燃え上がり、あっという間に灰になる。
「あ###ー」
情報をくれた上に、手帳を焼かれたゴドフリーは気の毒だった。
しかし、僕は思う。
ゴドフリーの目的はレイラさんに締め上げられることだったのではないかと。
さて僕は、さすがにこれで一件落着だろう、と思った。
しかし、残念ながらまだ終わりではなかったのだ。
1人の背の高い女が立ち上がり、流れるような歩調でこちらに歩いてきた。
「このゴドフリーの妄想も困ったものです。私が言いたいことはただ一つ」
そして、メリアンを指差した。
「女神ヴァーラーの名において、その娘は泥棒猫です」
女は宣言した。
女は浅黒い肌で、長く艶のある黒髪の前髪の一房が銀髪だった。
言うまでもないが銀弓である。
「冗談じゃないわよ!金盾なんてオッサン好みじゃないし!」
メリアンが甲高い声で言い返した。
「私の運命の君の悪口を言うでないわ!この小娘が!」
「自分の男ぐらいちゃんとキープしなさいよ。こっちも迷惑してるんだから!」
「女の戦いが、ようやく本論にはいった感じ?」
トビアスさんがボソリと言った。
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