第40話 2年目の初レース
今日は今年度初のレースの日だ。今回のレースは去年とは違う上り坂があるクリテリウムだ。今回レース会場である公園に集ったは私、木野さん、南原さんの3人。だが、実際にレースに参加するのは私と木野さんの二人だ。南原さんは応援と写真撮影で参加してくれたのだ。
一周800mの短い周回レースだが、コース途中で2回現れる上り坂が難関だ。木野さんの話によると、大体30秒程度で上り切れる短い坂で、以前走った時は体重の6倍のパワーが必要だったそうだ。
木野さんの体重は65kgだから、390Wのパワーを30秒間出していた事になる。
私の場合は体重70kgだから、420Wのパワーを30秒間出す必要がある。
1分間持続出来るパワーが411Wだから、1分より短い30秒で420Wはギリギリ許容範囲だ。これが去年の体重だったら78kgの6倍で468Wのパワーが必要だった。つまり、去年と比較すると10%以上少ないパワーで上り坂が攻略出来るのだ。
ダイエットコースを教えてくれた西野に感謝しないとな。それに、南原さんとのトレーニングで上りのインターバル耐性も上がっているのだ。これだけ仲間のお陰で成長出来たのだ。苦手な上り坂があるレースだからといって挫けたら恥ずかしい……とは言っても目標は優勝ではなく完走だけど。
「今日は一緒に参加してくれてありがとね」
木野さんに感謝される。私が苦手な上り坂があるコースだから気にしているのだろう。
「気にしないでくれ。チームリーダーとしてメンバーのサポートをしただけだよ」
「嬉しいから、どうしてもお礼を言っちゃうんですよね」
「それは良かった。本当はレースでアシスト出来れば良いのだけど、完走出来るかどうかも怪しい」
「絶対完走出来ますよ。一緒に頑張りましょう!」
木野さんに激励される。
そうだな、今日は自分が完走する事に専念しよう。距離は短いが上り坂があるクリテリウムなら、クライマーの木野さんにとっては少しだけ有利になるから気にかけなくても大丈夫だろう。
「猛士さんと木野さんが受付している間、自分が荷物を預かりますよ」
「ありがとう」
「ありがとね」
南原さんが荷物を預かると申し出てくれたので、安心して受付に向かった。
そして、受付でエントリー表を見て思わず笑みがこぼれる。
ビギナークラス……
12番 中杉猛士 『いつも一緒』
13番 木野正 『いつも一緒』
…………
名前の横に私達のチーム名『いつも一緒』が表示されているからだ。今回は初めてチーム名を登録してエントリーしたからな。片仮名や英字のカッコ良いチーム名の中に、ゆるい名前のチーム名が載っているから目立つ。
しかも、私と木野さんの名前が並んでいる。同じチーム名でエントリーしているから、レースの運営が一緒に纏めてくれているのだ。
「一緒に載ってますな」
「そうだな。こうして目にすると本当に仲間なんだって実感出来るな」
「ほんとですよ、ほんと。まったりしたチーム名も大好きだから最高ですよ」
木野さんも喜んでくれているな。まったりしたチーム名が大好きか……私のチームメンバーで木野さんが一番まったりした名前が似合う男だからな。喜んでもらえるのは私も嬉しい。
感慨深いが、長居したら他の参加者の邪魔になる。
「さて、試走に行こうか」
受付を済ませた私は、木野さんと一緒に試走を開始した。木野さんの方が私より速いので、ゆっくりと自分のペースで試走する。
コースの確認は大事だが、試走で体力を使い切ってしまえば、本番のレースで力が出せない。無理して木野さんを追う必要はない。
スタート直後は右コーナーの下り坂か。足を止めていても速度がグングンあがる。続いてストレート部分。下り坂から続いている為、立ち上がりの負荷は減らせるな。
続いて右コーナーの上り。ここが最初の難関だ。1分くらいかけてゆっくり上ったが、レースでは30秒で駆け上る必要があるのか。結構ハードになりそうだ。
そして少し平地を走ったら直ぐに下りの右コーナー突入した。下りはディープリムホイールの効果で圧倒的な速度が出る。そして再びストレート部に突入した。ここは道幅が狭く、追い抜きが難しいレイアウトだな。
そして最後の右コーナーの上り。ここを上り切った所がスタートラインだ。
一周回ってみてコースの特性は理解出来た。昨年参加したクリテリウムはヘアピンコーナーの立ち上がりの10秒パワーが重要だったが、今回のレースはコーナーの立ち上がりでパワーを必要としない。代わりに木野さんの事前情報通り、コーナー侵入時の上り坂で30秒パワーが重視される。
後はコースレイアウト上、追い抜きが難しいという事だ。コース幅が狭く、コースの一部には砂利が落ちているからだ。レースの運営が清掃してくれているが、元々普通の公園だから除去しきれないのは仕方がないな。砂利に乗り上げたら落車するから気を付ける必要がある。
コースレイアウト確認と路面コンディションを確認出来たので直ぐにコースから出て試走を止めた。体力の消耗を避けるためだ。後は静かにレース開始を待つだけだ。
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