第25話 サイクリストのステータス

 私と西野はレースチームを立ち上げる為に知り合いに声をかけた。

 メンバーはーー

 平地の巡行が得意なタイムトライアルスペシャリストの南原さん。

 苦手なコースが無い理論派のオールラウンダーの北見さん。

 クリテリウム会場で知り合ったクライマーの木野さん。

 以上、3名が参加してくれる事になった。

 肝心の東尾師匠は、既に他のレースチームに所属しているからゲスト扱いで所属する事になった。

 早速、今後の活動について話し合う為に、いつものヤビツ峠に集まった。話し合いの結果、チーム交流を兼ねてサーキットエンデューロに参加する事にした。木野さんは既にソロでエントリーしていたから、私と西野と北見さんと南原さんの4名で団体エントリーする事となった。

 参加するにあたって北見さんから提案があった。提案の内容はメンバーのパワープロフィールを確認する事だった。参加する以上、団体クラスで優勝を狙いたい。その為にはお互いの実力を把握して、戦略を練る事が大事だからだ。

 団体エントリーする4人でアプリを開き、パワープロフィールの記録を見せ合った。


 中杉猛士

 身長:175cm  体重:78kg

 5秒:1,243W  1分:411W

 5分:283W   20分:210W

 FTP:200W   PWR:2.56倍


 西野綾乃

 身長:162cm  体重:48kg

 5秒:653W   1分:312W

 5分:255W   20分:225W

 FTP:214W   PWR:4.5倍


 南原堅司

 身長:173cm  体重:83kg

 5秒:924W   1分:541W

 5分:473W   20分:366W

 FTP:348W   PWR:4.2倍


 北見勇登

 身長:172cm  体重:57kg

 5秒:876W  1分:431W

 5分:357W   20分:285W

 FTP:271W   PWR:4.75倍


 パワープロフィール確認した北見さんが解説してくれた。

・5秒:スプリント能力の高さを示している。

  ホビーレーサーで1,000Wを超える人は少ない。

 私の1,243Wは圧倒的に高い数値だそうだ。

 他のメンバーはスプリントが苦手だ。

・1分:短時間のアタックや短い上りの能力を示している。

 私達の間では得意なメンバーはいない。この領域は東尾師匠が得意だ!

・5分:この数値が高いとアタック合戦になった時に耐えられる。

 北見さんと南原さんは大丈夫そうだが、私と西野は集団に置いて行かれる可能性がある。

・20分・FTP:長時間出せるパワーで、ヒルクライムや基本的な速さを示している。

 南原さんが圧倒的に高いパワーが出せる。平地だったら私達の中で最速だ!

・PWR:FTPを体重で割った数値で、上りでの速さを示している。

 北見さんと西野が高い数値で、ヒルクライムで速く走れる。

 南原さんも体重の割に高い数値だ。

 肝心の私は圧倒的に低く、ヒルクライム等の上りコースは完走するのも困難だ。


 全員のデータを確認した北見さんが作戦を提案した。

 作戦の内容は私以外の3人で頑張る……仲間外れという意味ではない。

 私が長時間周回しても他のチームから遅れるだけだ。それならスプリント以外に苦手が無い北見さん。平地で速く、上りで多少遅くても挽回出来る南原さん。平地が遅くても、上りで挽回出来る西野の3人で頑張った方が人数減って負担が増えても勝率が高くなる。

 だからと言って私の出番が全くない訳ではない。途中で適度に走行する予定だし、重要な役目もある。

 最終周回は私が走るのだ。それはゴールスプリントを任されたという意味だ!

 そして、それはもう一つの意味を持つ。

 別のチームでエントリーしている東尾師匠とスプリント対決するという事だ!!

 普段のレースであれば実力がかけ離れていて、同じクラスで走る事が無い師匠と直接対決するチャンスは無い。

 それが、今回のレースで実現するのだ。

 これが燃えない訳が無い。師弟対決なのだから!!


「戦略はこれで良いかな?」


 北見さんが私と西野と南原さんに、提案した戦略への同意を求めた。


「良いです」

「いいわよ」

「任せて下さい」


 パワープロフィールで明確に実力が把握出来ているのだ。私達3人は北見さんのレース戦略に異論を唱えなかった。だがーー


「中杉さんは良かったのですか? あまり出番なさそうですけど」


 ソロで参加する木野さんに、私の出番が少ない事を心配された。


「大事なのは出番の多さではないですよ。仲間にゴールスプリントを任されるのは、とても光栄な事です」

「折角だから沢山走った方が楽しいと思っていたけど、余計なお世話だったかな。中杉さんは仲間を信じているのですね」

「必ず最終周回を先頭で迎えられると信じてます。待機してる間は木野さんを応援しますよ」

「ありがとね」


 木野さんが優しい笑顔を浮かべる。


「何で猛士と木野さんは仲が良いのかな? 猛士は闘志マシマシのスプリンターで、木野さんは優しそうなクライマーだから不思議なのよね」


 西野が不思議そうにしている。それは木野さんを理解していないだけだよ。

 スプリントが苦手なクライマーなのに、スプリントレースのクリテリウムに参加してまで勝利を求める人だよ。木野さんは私とタイプは違うけど、熱い闘志を持ったホビーレーサーなのだよ。


「さぁて、解散しようか。明日は仕事があるのでね」


 北見さんの合図でそれぞれ帰宅を始めたのであったーー

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