第26話 初めてのサーキット
サーキットエンデューロ開催当日、私は西野と木野さんの二人を迎えに行った。ロードバイクを3台車載出来るミニバンを持っているので、今日の私は送迎係だ。
会場のサーキットに着くと北見さんと南原さんが先に着いており、ミニバンからロードバイクを下ろしていた。チーム名すら決まっていない新参チームなのに、ロードバイクを積載出来るチームカー候補が2台もあるのは贅沢だ。
軽く挨拶し、さっそく会場に入場した。駐車場と受付があるピット区間は走行禁止だから、5人で受付に向かって歩いた。写真や動画で見る以上に広大な敷地だな。細かく区切られたピットエリアが無数と思えるくらいに続いている。
参加者も今まで参加したレースと比べて非常に多い、これだけ広大な敷地なのにそこら中にレース参加者がいるのが見える。
受付を終え、私達が割り当てられたピットに向かった。ピットでは既に別のチームがレース準備を終えて談笑していた。チームに所属している参加者達は、お揃いのサイクルジャージを着ているから一目で分かる。
私達もサイクルボトルにドリンクを詰めたり準備を進めた。今日は約4時間、約160km走行するのだ。途中食事をとらないとエネルギー不足でダウンしてしまう。完走するには補給食の準備も大事だ。
「皆さんの為に補給食を持ってきたのでお渡しします。こっちがエネルギー補給用、こっちがリカバリー用のジェルです」
木野さんがサイクリスト用の高そうなジェルをメンバーに配る。ただで頂いてしまって良いのか?
「貰っていいのかい? しかもワールドツアーチームが使ってる高級品じゃないか。結構高いだろ?」
北見さんが木野さんに言った。北見さんの話によると頂いた補給食のジェルは、本当に高級品だったみたいだ。
「送迎のお礼ですよ。車で迎えに来てくれたお陰で、体力温存出来ましたからねぇ。去年一人で参加した時は輪行が面倒でしたからね。普段使っている物だから、そんなに気にしないで下さいよ」
木野さんは去年は一人で参加していたのだな。しかも輪行か。ロードバイクを分解して袋に詰めて運ぶのだったな。ロードバイクは普通の自転車より軽いけど、それでも8kg前後あるのだから持ち歩くのは重労働だ。
「木野さんありがとう」
「そうかい、それなら遠慮なく頂くよ」
「ご馳走様!」
「ありがとう御座います」
私達はそれぞれ木野さんにお礼を言った。
「それじゃ、予定通り中杉君が第一走者で良いかな?」
北見さんの提案に皆が一斉にうなずく。一番走力が劣る私が最初に走り、コースの特色を把握する作戦だ。1周目なら多少遅れても挽回しやすいし、先頭集団の把握もしやすい。
まず一周走行してみて無理そうだったら、即ピットインして南原さんと交代すれば良いのだ。流石にたったの1周で大幅に遅れる事はないだろうから、とても気が楽だ。
「それじゃ、一緒に並びましょうか?」
「お願いします」
整列時間を迎えて、木野さんに並ぶ様に誘われた。昨年参加している木野さんが一緒なら安心出来るな。私は木野さんとコースインして先頭付近に並んだ。
今日参加するの前回参加したレースと同じ
一周約4.7kmを34周で約160km走行するのだ。昨年の優勝者が平均時速40km位だから、4時間くらい走行する事になるだろう。
4時間も一人で高速走行するのは今の私には不可能だが、今回は団体参加なのだ。頼りになる仲間が3人いるから不安はない。
木野さんはソロ参加で一人で走り切るというのだから凄いと思う。完走目的だからと謙遜していたが、目標が平均時速35km、走行時間5時間目標は凄いと思う。
木野さんと談笑していると続々と参加者が並び始めた。レーススタート開始が近づくに従って、無数のロードバイクと参加者でコースが埋め尽くされた。参加者の人垣でコースの端が見えないが、1列に何十人並んでいるのだろう。確か参加者が2,000人を超えているのだったな。これだけロードバイクが並ぶ光景は初めて見る圧巻の光景だった。
レース開始10分前となり、主催者からレースの注意事項について放送で説明された。レースの規模が違っても守るべき基本的な事は変わらないな。ヘルメットのあご紐に緩みがないか確認しながら注意点を心の中で復唱した。
レース開始直前になり、カウントダウンが始まる。シグナルが青に変わると同時に一斉に走り出す。
いつものスタートとは気分が違う。いつものピストルの火薬音だけだと陸上競技のイメージに近いけど、シグナルスタートはモータースポーツの様な気分になれるからだ。これもサーキットエンデューロの醍醐味の一つだろうか。
私は木野さんと一緒に徐々に加速を始めたのであったーー
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