第19話 全知の力! パワーメーター

 西野にダイエット用のお気に入りルートを教えてもらった翌週、待望のパワーメーターを取り付けてもらいにシゲさんの店に来ていた。

 シゲさんは的確に取り付け作業をしながら、パワーメーターについて教えてくれた。自分で選ばないでお任せ購入したから、どういう基準で選んでくれたのか気になっていたので有難い。

 シゲさんの話によると、お店で取り扱っているパワーメーターは大まかに分類して3種類ある。


①ペダルタイプ

 取り外しが簡単で、複数のロードバイクで使いまわせるのがメリットだ。

 ペダルはぶつけやすいので、破損が怖いというデメリットがある。

 ーー1台しか持っていない私には交換しやすい事のメリットが無いから不採用。

②ハブタイプ (後輪の軸)

 後輪と一緒に交換出来るから使いまわしが簡単。

 ホイールに組み付けるから、使用するホイールが限定されるのが問題だ。

 ーー購入済みの完成されたホイールをバラシて組み付けるメリットがないので不採用。

③クランクアームタイプ

 無難なタイプ。

 取り外しが大変なので、複数のロードバイクで使いまわすのが難しい。

 ーー他のタイプが合わないからコレを採用。


 私の場合はクランクアームタイプが使用状況に合っていたが、人によって楽しみ方が違うから相談するのが早いそうだ。左右の足のパワーが測定出来る両足計測タイプとか、サイコンと接続する通信の規格の種類とか、細かい種類や価格も豊富なのだから。

 パワーメーターの取り付けが終わり、使用しているサイコンとの接続設定もしてもらう。正常にパワーが測定出来ている事を確認した後、手続きを終えてお店を後にした。


『これで私も自身の能力の全てを知る事が出来るのだ』


 走り出し早速パワーの数値を確認したのだがーー

 165W、324W、123W、258W、152W……

 数値が目まぐるしく変わり今の自分がどれだけのパワーで走っているか分からない……故障か? 1秒毎に100~200Wも数値が変わったら何が正しい数値か把握出来ないよな。

 でもお店では正常に測定出来ていたから故障ではないと思いたいのだが……そうだ師匠に相談してみよう。早速スマホを取り出しSNSで師匠に相談したら、直ぐに返答が返ってきた。


『師匠、パワーメーター買ったけど、数値の変化が早くて把握出来ない。故障しているか分かりますか?』

『正常だよ。パワーって結構激しく変動するんだ。だから通常は10秒平均とかで表示するんだよ』

『10秒平均? パワーメーターを設定するのですか?』

『いや、サイコンに接続出来ていれば、サイコンの表示設定で変更出来るよ』


 表示の仕方に問題があったのか。師匠の説明通り10秒平均の数値を表示する様に設定してみた。

 もう一度走行してパワーの数値を確認する。

 183W……195W……186W……172W……

 大分数値が安定したな。この程度の数値の変動なら自身のパワーが把握出来る。

 今まではパワーメーターが無かったから、ロードバイク仲間がパワーの数値を言っていてもスルーしていたが、今後はパワーの話に参加出来るのが楽しみだ。

 自分の走行時のパワーが把握出来るのは楽しい事だ。能力の数値化はアニメや小説だけでなく、スポーツでも魅力的に感じるものなのだから。

 先ずは手軽な巡行時の速度とパワーの関係から確認してみるか。

 最初に停止時から時速30km前後の巡行時のパワーを確認する。

 0km/h (0W)、30km/h (530W)、34km/h (163W)、32km/h (158W)……

 停車時から時速30kmに上げる時に非常に高いパワーを出している。私は体重が重いから停止時からの加速で一番パワーが必要という事か。その証拠に時速30kmより速い時速34kmで必要なパワーが落ちている。

 時速30kmから更に加速して時速40kmの巡行に切り替える。

 32km/ h (158W)、40km/h (320W)、42km/h (228W)、41km/h (212W)……

 時速40kmの巡行でも似たような傾向だな。時速40kmに上げる時に一番パワーを出していて、速度が安定するとパワーが落ちつく。違うのは停車時からの加速より速度が乗っている分、加速時のパワーが低い事くらいだろうか。

 測定の結果から言えるのは、私の20分の平均パワーは210Wだから、時速40kmがギリギリ20分維持出来る程度の実力という事だ。

 巡行に続いてヒルクライムでのパワー測定も試してみる。

 測定を始めて驚いたのは巡行よりパワーデータがバラツク事だ。ヒルクライムは一定の速度で上っていたから、パワーの数値が安定すると思っていたのにパワーの傾向がつかめない。時速8kmで251Wなのに時速15kmが162Wだったりする。

 坂が急であればより大きなパワーが必要なのだから、速度に関係なく斜度によってパワーが変化する事は理解出来る。それでも体感している辛さと、実際に出ているパワーが合わない。パワーを測定して初めて知る事が出来た自身の走りのムラ。

 試しにパワーの数値が一定になる様にペダルを踏みしめる力の強さを調整すると安定して早く走れる。これは凄い発見だ。

 パワーメーターを付けてもロードバイク自体が早くなる事はない。だけど、これは凄い武器になる。自身の走りの欠点を解析出来るのだから。

 普通に走るだけでもこんなに情報が得られて楽しいのに、これがレースだったらどの様なパワーデータが得られるのだろう。来月、参加予定のエンデューロレースが楽しみだな。

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