第12話 完成! 私の愛車
翌日の日曜日、師匠のお勧めのディープリムホイールを購入する為、ロードバイクを購入した自転車店『エンシェントバレー』に来た。
初めて来た時と同様に、店主のシゲさんが鋭い眼光で迎えてくれた。
こんなに不愛想なのに、よくお客さんが来るものだ。
整備の腕が良いみたいだから、口コミでお客が来ているのだろうか?
「どうした? 変速でも狂ったか?」
「いぇ、ディープリムホイールを購入しようと思って」
「それならそのメーカーがお勧めだよ」
シゲさんが指さした先の壁に、3種類のホイールが飾られている。
同じ種類みたいだがリムの太さが違う。
35mmと50mmと65mmの3種類か。
師匠の話だと65mmが一番空力性能が高いホイールになるのかな。
でも表示されている重量は、3種類の中では重量が一番重いな。
重量と見ただけでは分からない空力性能の比較なんて出来ないしな。
表示されている200gの重量差だって、実際に走った時にどれだけ影響するか分からない。
悩んでいるとシゲさんが説明を始めてくれた。
「30mmのホイールは殆どヒルクライム専用だね。空力性能も今のホイールより高いけどな。50mmのホイールは重量と空力のバランスが良い。アップダウンがあるロードレースとか、立ち上がりが多いコースのクリテリウムで使いやすい。65mmは完全に平地専用だな。平坦部が長いコースのクリテリウムとか、ゴール前が平地でスプリントで決着がつくレースでお勧めだね。上りが多いトライアスロンにもお勧めだよ」
「悩みますね。ヒルクライムは得意ではないので50mmか65mmだと思うのですが……」
「折角高いお金をかけて購入するなら、最速で特別な65mmがお勧めだけどね。空力性能が凄いし、下り坂なんて勝手に凄いスピードが出るからね。使いこなせないけどロマンがある。レースメインで無難な選択をするなら50mmかな。ホビーレーサーでも使いやすくて一番人気だよ」
良く分からないし、レースメインで使う予定だから無難な50mmが良いかな。
でも、空力性能が凄くてロマンがあるのは惹かれる。
趣味で購入するなら、ロマンがあった方が良いな。
少しだけ悩んだが、結局65mmのディープリムホイールを購入する事を決めた。
「65mmのホイールにします」
「今までのホイールは下取りで良いか?」
「お願いします」
今までのホイールを引き取ってくれたのは有り難いな。
持っていても使わないし、持ち帰るのも大変だからな。
支払いを済ませて早速ホイールを取り付けてもらった。
取り付けついでにチェーンの清掃、注油、変速調整とかメンテナンス全般も同時にやってもらった。
こうして取り付けて見てみると迫力が凄いな。
カッコよさが格段に上がり、これだけでも購入した価値があったと思ってしまう。
早速、帰り道でディープリムホイールの性能を確かめてみる。
今までのホイールより漕ぎだしが軽く、足を止めてもスピードが落ちづらい。
更に、上手く表現出来ないが、ゴロゴロ転がる転がり感が心地よい。
師匠に教えてもらったトレーニングとこのディープリムホイールで、次回のレースは完走出来ると良いなーー
*
ホイールを購入した3日後、注文していたスマートトレーナーが届いたので、スプリントのフォーム練習をする事にした。
東尾師匠はバイクに張り付く様に、ほぼ水平になる様に上体を下げていたな。
鏡の前で真似てみるが……師匠と全然見た目が違う。
師匠は頭がハンドルにぶつかりそうな位に低い姿勢なのに、同じ姿勢を取った私の頭部はハンドルとかけ離れている。
師匠は身長165cm位だけど、私は175cmあるからか……身長が10cm違ったら同じ姿勢にはならないのか。
そうだ、プロの動画を参考にすれば良いのだったな。
早速ロードバイクに跨ったまま、スマホでプロレーサーのスプリント動画を見る。
初めて見た時は気づかなかったが、色々な体格の選手がいるのだな。
この背が低い選手は師匠にみたいなフォームでスプリントしているな……いや、師匠がこの人を真似たのか。
師匠が同じ体格のプロを参考にしてフォームを真似たのであれば、自分も同じ体格のプロ選手を参考にすれば良いのだな。
暫く動画を漁っていると、自分と同じような体格の選手を見つけた。
大きな背中を丸く縮めて、潜る様に頭をハンドル近くまで下げるフォーム。
鏡の前で同じフォームを真似てみた。
もっと体を丸めて、飛び込みで潜り込む様に頭を下げて……
10分程真似てフォームに慣れてきたので、そのままペダルを漕いでみる。
師匠に教わった事を思い出しながら、綺麗に、バックを踏まずクランクを回してみる。
試しに動画を取って確認してみたが、実に完璧なフォームだな。
後は……必殺技の名前を……考えるのか?
師匠をがっかりさせたくないので、1時間じっくり考えたがカッコイイ名前など思いつかない。
でも、ディープリムホイールで強化された
空気抵抗の大海原を潜って突き進む『深海の潜水者』。
『ディープシー・ダイバー』だ!
ーー後日、東尾師匠と同類だと西野に突っ込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます