第26話「テレビを譲ってもらった話」

 カフェに呼び出された秋男と春斗。そこにいたのは冬子ともうひとり背の高い男。男はやつれた姿で今にも倒れそうであった。

「そこのは私のいとこ。彼からひとつお願いがあるみたいだ」

 いとこは疲れた顔の表情を無理やり動かし笑う。

「ふたりともよくこんなのと一緒にいてくれるな。これからも仲良くしてやってな。コイツ、カッコいいわけでもないのにカッコつけて中学時代ひとりぼっちだったからさ」

「うるさい! 私の事は良いからお前の要件を言え」

 カッコつけていたわけでもなく、ただ愛想が悪く大して仲が良いわけでもない人にはぶっきらぼうだけで相手が近寄って来なくなった。春斗にはそんな過去が見え過ぎて仕方がなかった。

 いとこは語る。

「俺はもう親が体調崩したから実家に帰るんだ。だからさ、アパートにあるテレビを誰か引き取って欲しいんだ、タダでいいから」

 タダ程に怪しく恐ろしい物などそうそう存在しない、春斗は口を噤む。タダ程に嬉しく美味しい物などそうそうありはしない、秋男は言葉を紡ぐ。

「よし、俺が貰った」

 即決であった。



 月が浮かび、星くずの飾りを纏った夜空の下、そこにはひとり、そこはアパート。秋男はテレビを置いて袖で汗を拭う。

 そしてテレビを点ける。

「久々だな、俺はテレビなんか持ってなかったからな」

 カップラーメンにお湯を注いで3分間、テレビがあれば時間が過ぎるのが早く感じられる。

 2分程経ったその時、異変は起きた。突然テレビの映像にノイズが走り始めたのだ。声は雑音で掻き消されて聴き取れず映像にも色とりどりの線が入り、それは最早テレビの視聴の邪魔でしかない。

「もしや壊れてたのか? さっきまでちゃんとついてたし場所の問題か」

 しかし、ノイズはますます酷くなり行く一方。フタを剥がしてラーメンを啜ろうとした時、テレビからノイズ混じりに生々しい呻き声が聞こえてきた。あまりにも苦しそうな声は聞いている秋男の方まで息苦しくなりそうだった。

「あぁん? なんだ」

 麺を啜りながら画面の方を眺めると画面の中から外へと出ようと張り付く男がいた。

 秋男は驚き慌てて逃げ出すのであった。



 冬子は着信を知らせる携帯電話を手に取りさぞ不機嫌そうな声で話し始める。

「もしもし。なんだ……は? テレビに心霊? 麺喰らいながら面食らった? もっと詳しく」

 それは冬子の紹介で手に入れたテレビ、冬子も自身の責任だと己を省みる。そして秋男の話を聞き終えて冬子は一言、

「今から行く」

とだけ残して携帯電話を閉じて家を飛び出した。

 そして秋男の家に入って冬子は思わず口を開いていた。

「なんで春斗まで呼んだ」

「そりゃあいつもの仲間だからな」

 呆れつつも冬子はテレビを見つめるもそこからは何も感じられない。

「何もないが?」

「出たんだ、マジで」

 それから3人はテレビをつけっぱなしにして話しながら食べながら霊が出るのを待つが現れる気配すらない。夜はますます深くなるばかりであった。



 微かな音が聞こえる。目を開いたのは春斗。みんな寝てしまっていたようだった。目の前のテレビは異常な音を立ててそれに混じって呻き声が響いていた。

 春斗はふたりを起こす。

 秋男が目を開いて上半身だけを起こした。そこにあの男の姿があった。

「う、ひっ、いいや」

 秋男は今の姿勢のまま下がって行く。

「あ、おと……こ」

 春斗と冬子にもそれは見えていた。そこにいたのは男の霊。呻き声をあげながら苦しげな表情を見せながら。3人に恨めしそうな目で何かを訴えていた。

「ダメだ……逃げ、ろ」

 その言葉を合図に3人は逃げ出したのであった。



 冬子の車の中で夜を明かし、次の日覚悟を決めて家に入る。

 何もいない部屋、テレビは点いてすらいなかった。

 それからすぐに業者を呼んで処分し、3人でカフェにて時間を潰し、秋男は最初に家に送ってもらって降ろしてもらう。

 重い足取り、流石に疲れ果てていた。

 鍵を開けてドアノブを握り、開く。

 そして中に入って目に入った物に対して秋男は叫び声をあげた。

 そこにあったもの、それは先程処分したはずのテレビだったのだから。

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