第30話 あと1人

 4月7日 16:30

 「俺、あいつ嫌い。」俺の部屋の窓を覗いているセージがぼそっと呟いた。きっとさっき来た使者のことを言っているのだろう。

 俺もセージにならって窓を覗くと、まだ門の前でグズグズしているあの男が見えた。「まだいたのか。」

 「きっとまた出てくるのを待ってるんだ。それか、隠し事を暴こうとしてるかも。」

 「記憶は消せるけど、あの人の前では魔法は使わないようにしよう。来る時も見ていないと思うから。」

 「あ、デイジーだ。」

 仕事の話でもしに来たのだろうか、男の前をデイジーが通り過ぎようとした。

 しかし、男はデイジーに話し掛けた。また城に入るつもりなのだろう。

 俺はデイジーに「何があってもその男を城の門に入れるな。スルーしろ。」とテレパシーを送った。

 デイジーは指示通りスルーして門に入ろうとしたが、男に手を掴まれた。

 これはまずいと思い、「セージ、行こう。」と俺たち二人は部屋を出た。


 「やめて下さい、離して!」デイジーは男の手を振り払おうとしていたが、男は「じゃあ中に入れろ!」と叫んでいる。

 「何してるんだ!手を離せ!」俺はセージと一緒に門を出て男に言う。

 デイジーは「レオ、何なの、この人!?」とまだ離れない男の手をブンブン振った。

 男はそれに苛立ったのか、デイジーの首を左腕で締めると「知り合いなんだな?人質にとってやる。返して欲しければ開国しろ。」と黒い物体をデイジーの頭に突きつけた。

 「その黒いの、何なんだ?」嫌いな人とは話さないようにしているセージがそっと問いかけた。

 相手は「これか?あぁ、そうか、やっぱりこの国は技術が遅れているんだな。これはピストルだ。うちの国では随分前に発明されたもので、この引き金を引くと弾が発射される。この距離と位置だと即死だぞ。」と高笑いをした。

 そんなものうちの国では必要ないので誰も全く知らなかった。

 どうするべきか分からなくなってセージに視線を投げかけると彼も困って考え込んでいた。

 すごく長い時間が経ったように感じた後、突然デイジーが「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」と苦しそうに叫び出した。

 男も少し驚いているが、手は離さない。

 俺やセージも何が起きるのだろうかとデイジーを見ていると、視界が眩しくなり、何かに吹き飛ばされたような感覚に陥った。

 

 気付くと、隣にはセージが俺と同じように倒れていて、さっきよりずっと遠くの方にデイジーがしゃがみ込んでいた。その足元には白目を向いて倒れている男がいる。

 男はボロボロであざだらけだ。幸い、ピストルとかいう物体は男の手から離れていた。

 俺が起き上がってセージの肩を叩くと彼も体を起こした。「…何が起きた?」

 「俺にも分からない。とりあえず男が起きる前にピストルを回収しよう。」

 

 俺は駆け寄って「デイジー、大丈夫か?」とセージがピストルを手に取ったのを確認してデイジーに手を貸した。

 彼女は息切れているようだ。「私は大丈夫…それより、二人とも、ちょっと、遠くに、離れて、もらえる…?」

 「え…?」その次の言葉を発する間もなく、また視界が眩しくなって遠くに飛ばされた。

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