第56話 雨の日の隙間



雲行きが怪しくなってきた時

県境の峠を越えるには

突然の大雨に全身を打たれることも珍しくはない


雨に晒された身体の疲労は

2輪のハンドルを握る指先にも現れる


気付にウイスキーを飲むことも許されず

ポケットの中の煙草は濡れて火を付ける事もできない


やっと見つけた木陰でテントを張り

滴る水を絞りながら服を脱ぎ

冷えた身体を寝袋で温め


ストーブ代わりのガス灯の明かりを

最大出力にして暖を取るが

朝までは保たないだろう


少なくは無い苦しみや悲しみを道連れにして

新しい光を求めて出た旅なのに


この雨の中の小さなテントの中で

このまま死ねたなら

どんなに幸せだろうかと


今夜には越える事の出来ない峠の道で

大雨の中を遠慮も知らずに

暖かい笑顔で悪魔が誘いにやって来る

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