第26話 友へ



船長!


そう呼ばれる前に私は目覚めていた


この嵐の中で

揺れる部屋の中で

なん度も壁に頭をぶつけ

既に目覚めていた


艦橋に行くと

操舵を任せた船員が私に振り返り


計器盤に反応が見られません!


私は潮と風を操舵士に聞く


風は左右前後と一定していません!


なるほどと頷くと


潮は一定の流れですが海図にありません!


他の船員を心配していると


全ての乗組員は救命ボートで避難しました!


お前は此の船を見捨てないのか?


操舵士の先程までの緊張感のある顔が変わり


捨てる?

意味もなく乗った船に?

意味もなく去っていく?


私は上着のポケットからバーボンの小瓶を取り出し

操舵士に手渡す


さて此の船は何処へ行くつもりなのか?


船長!

この船の嵐は

あなたが作ったのでしょう?

嵐の向こうを私は信じてもいるし信じてもいない

船に乗った以上はあなたについて行くが

上陸できれば別れを告げるかもしれない

航海は出会いと別れではなく

何処まで助け合えるかだけで寄港する


そう言うと彼は

私からバーボンを取り上げ一口飲んで

笑顔を向けた

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