第178話 春の目覚め
バッテリーを一組ずつ、各学年に作る。
その方針が大前提としてあったため、中山と中田はそろって春の大会のベンチ入りメンバーとなった。
技術やセンスはともかく、圧倒的に体力が足りないのは、北村とても分かっている。
ただ中田は足が遅いことは遅いのだが、体力自体はそれほど劣っているわけでもなさそうだな、というのが少し見た北村の感覚である。
5m程度の本当の短距離の瞬発力は、かなり優れている。
でなければそもそも、バッティングで飛ばせるわけもない。
ただしやはり、変化球への対処が不十分だ。
これから一年をかけて、そのあたりは強化していくしかない。
打線に入れるにしても、打順をどうするかは考えどころだろう。
この二人はともかく、他の一年生はとにかく、変化球への対応力が足りない。
もちろん速球でも、優也レベルだと打てないのだが。
マシンの150km/hと、人間の150km/hは違う。
この微調整が出来るかどうかで、小川や毒島のボールが打てるかどうかを左右する。
さすがに一年生にそこまでは求めないが。
春の大会はいよいよゴールデンウィーク前後に始まるが、大切なのはシードを取ることである。
ベスト16まで残る、つまり二試合に勝てば、夏の大会のシードを得ることが出来る。
今の白富東の戦力なら、ピッチャーの枚数もそろっているし、シードがなくても普通に勝ちにいける。
去年の秋の大会を見た限りでは、トーチバも勇名館も、それほどの新戦力はないはずなのだ。
もちろん冬を越しているので、そこでどれだけの積み重ねがあるのかは重要だが。
あとは、新入生のレベルだ。
白富東の今年の新入生は、特にスポ薦組は、野手ばかりがそろっている。
それも即戦力ではなく、素材型が多い。
(来年は行けないかもしれないな)
そう判断する北村は、今年の夏の優勝を狙う。
県大会に優勝して甲子園に行くことではなく、甲子園での優勝の全国制覇を狙うのだ。
大阪光陰と刷新と対決して、それでも勝利することが出来た。
よほどに夏のトーナメントが悪くない限り、相当上まで勝ちあがれるだろう。
はっきり言って今年のセンバツは、あまりにも対戦相手が強すぎた。
21世紀枠で、楽に勝たせてもらった一回戦を除いて。
シードにしても、とりあえずベスト4にまでは入っておきたい。
準々決勝から勇名館やトーチバとどんどん当たっていくのは、さすがに避けたいのだ。
「でも一年生も使っていくからな」
県大会の序盤であれば、普通にコールドは狙っていけると思う北村であった。
ベンチに入ってみて、中山と中田はとにかく、自分の入ったチームの強さを思い知った。
ゴールデンウィーク前後に集中して行われるこの県大会だが、とりあえず白富東は、あっさりと夏のシード権を手に入れた。
優也は調整程度に投げて、あとは中臣と浅井が先発として投げている。
優也は今度はちゃんと相談して、縦スラをものにしようとしているが、まだ試合で試すほどではない。
それはそれとしても、白富東は圧勝でベスト16にまでは進んだ。
千葉県はここ数年白富東一強といわれるが、去年は優也の故障もあって、久しぶりに夏の甲子園出場を逃している。
やはり高校野球と言えば、夏が本番と言えるのだろう。
北村は一回戦と二回戦は、かなりスタメンもいじった。
センターラインの守備力はいじるのが怖かったが、他は入れ替えて打撃を見たのだ。
今年の白富東の、弱点というほどではないが不足しているところは、下位打線の打撃力だと思っている。
国立が鍛えて去っていったが、それでも私立の強豪と比べても平均程度。
ただその平均程度であれば、県大会の序盤は簡単に突破出来る。
北村としては、二年生ピッチャー陣の成長が見たかった。
正志と川岸にもピッチャーの練習はさせていたが、もうここまでくると打撃に専念させたほうがいい。
中臣と浅井が、センバツを経験して、それなりに投げられたのが良かった。
ここからはもっと新戦力を試していく段階である。
準々決勝進出を賭けた、ベスト16の試合。
先発に中山を持ってきた。
もしも打たれたとしても、すぐに取り返せる自信がある。
それだけ今日はほぼ、レギュラーでスタメンの打順を埋めている。
潮も中山の特殊さを、理解してきていた。
ジャイロボールなどというのは、存在はするが実感はするものではないと思っていたが、実際に投げられたら打ちにくいのだから仕方がない。
一見すれば変化球投手であろうが、その実本当の決め球はストレート。
なんだかどこかで聞いたようなキャラだな、とは思ったものである。
「ドカベンの里中って、一年生のときはどんだけ球速出てたのかな?」
「演出からすると130km/hぐらい出てそうな気もするけど、さすがにそこまで速くはないだろうし」
「そもそもアンダースローって球速で勝負するものなのか?」
「まあアンダースローどころかオーバーすローでも、三振を取り捲っている130km/hストレートのピッチャーもいたしな」
ベンチの中では雑談が繰り返されるが、別に注意はしない北村である。
とりあえず一イニング、中山は投げて帰ってきた。
内野ゴロばかり三つと、おそらく向こうのチームは、監督からしかられているかもしれない。
「さて、10点差つけてさっさと中山を楽にしてやるぞ」
五回までなら投げさせてもいいだろうな、と考えている北村であった。
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