第174話 不作の中にも異質あり
山根優也は白富東において、実質的には一年の夏から既にエースであったと言える。
特に二年のセンバツを優勝したときは、完全にエースであった。
だからこそ夏の前に故障して、白富東が久しぶりに夏の甲子園出場を逃したのは、当たり前だろうなと思われるところもあった。
それでも決勝まで進み、勇名館相手にいい勝負をしたのだ。
まだ二度しかないのでジンクスとも言えないが、白富東は勇名館に負けた次のセンバツは、いい成績を残す。
SS世代が初めて甲子園に登場したセンバツは、大阪光陰に敗北する前に、直史がノーヒットノーランを達成している。
そして今回負けた後、秋には関東大会の決勝まで勝ち進み、そしてセンバツに出て連覇を果たした。
これまでに春連覇を果たしたチームはいないではないが、二度の春連覇を果たしたのは、大阪光陰と白富東だけである。
去年の秋の結果を見て、白富東に入れば夏には甲子園にいける、と思ったものは多かったろう。
そしてその中で体育科を受験した者は多かったろうが、実は今年から体育科の枠は小さくなっている。
スポーツ推薦は例年通り六人を取っている。
だがチームの将来を考える北村が困っているのは、推薦組の中にピッチャーがいないことだ。
もちろん遠投で肩の強さも基準にしているので、ピッチャーの素養を持つ生徒もいるだろう。
今の二年は中臣と浅井でどうにか二枚はいるし、他にも数人のピッチャーはいる。
だから一年ほどをかけて、ピッチャーを作るという手もあるのだ。
改めて確認すれば、スポーツ推薦で入った六人は、内野が四人とセンターが二人。
完全にポジションが被っているが、それは仕方のないことだ。
キャッチャーもいないが、それは体育科の入学の方から引っ張ってくればいいだろう。
ピッチャー経験者も体育科の中にはいるだろうから、そこから上手く育成できるだろうか。
(完全にピッチャーの有望株は、私立に取られていっているのかな)
それでも白富東は、既にブランド化しているので、あえて千葉の中では私立ではなくこちらに来たピッチャーもいるかもしれない。
北村が内心で憂いている間に、潮はしっかりと挨拶を終えていた。
まだ他の部は体験入部の期間であり、それは野球部も変わらない。
ここから増えることはあっても、減ることはないだろうが。
そして目の前に迫った春の大会を前に、基本的にベンチメンバーを中心とした練習になっていく。
ここにいる新入部員は当たり前だが、直前のセンバツを見ている。
毒島や小川相手に投げ勝った優也は、味方の打線が相手を優越したということもあるが、高校ナンバーワンピッチャーである。
調整程度にしか今日は投げないが、それでもやはり一番の憧れの的と言えようか。
ストレートの球速はMAXが153km/hだが、魅力的なのはその最大値ではなく平均値だ。
ほぼ150km/hをずっと投げていて、スライダーにカーブ、チェンジアップで三振も大量に奪ってきた。
ストレートの速度では小川や毒島が上だが、小川は球種が限られていて、毒島は制球に難があるときがある。
おそらくこの春と、そして夏にも、全国制覇の有力チームとして見られるだろう。
とりあえず一年生が目指すのは、夏のベンチ入りだ。
白富東は毎年、数人は一年生を夏のベンチに入れているのだ。
キャッチボールなどの基礎的な練習をし、時間もまだ多くをかけない。
全体練習の時間は短く、あとはそれぞれがやるということになっているのだ。
「練習時間が限られてきているんだけど、うちは元々そんなに長く練習しないからなあ」
北村はそう言うが、練習の合間に他のトレーニングもしているので、実際はかなり休憩出来る時間が少ない。
北村としては出来れば夏までに、ベンチに入るようなピッチャーが一人ほしかった。
今の三年生が引退すれば、ピッチャーの数がどっと減るからだ。
もっとも優也を除けば正志や川岸がマウンドに立つことはあまりなく、実質的に中臣が二番手にはなっている。
そして三番手が甲子園でも投げた浅井であるが、浅井はまだ現時点で肉体的に未完成過ぎる。
おそらく三年の春までには、かなり完成したピッチャーとしての姿が見られるのだろう。
だが今はまだ一試合を任せるにはスタミナに課題がある。
今年の秋、三年が抜けたあと、中臣を中心にしてどこまで勝ち進めるか。
それを考えた場合、北村には県大会を勝ち抜けるビジョンがない。
どこかで中臣に頼りすぎになり、途中で限界を迎えると思うのだ。
(体力をつけないといけないからなあ)
他にも今の三年に比べると、二年生は線が細い。
そして新入生は、さらにそれより線が細い。
フィジカルを絶対視するわけではないが、技術もない人間には、まずフィジカル程度はあってほしいものだ。
スポーツ推薦で入ってきた六人のうち、二人は180cm以上の身長を持っている。
また他の四人も、それなりに体格は良かったりする。
だが優也や正志が一年生だった時のような、驚異的なバネやパワーは感じられない。
かといって基礎的な練習をさせている中から、可能性がありそうな選手もいないのだ。
ただ、自己申告したピッチャーの中から、一人面白そうな者は見つけた。
アンダースローが一人いる。
中学の内からアンダースローで投げている投手というのは、単純な上からのピッチングに、見切りを自分でつけた人間になるのだろう。
そんな判断を自分でした上で、自分でアンダースローなどを身につけるのは、なかなか面白い存在だ。
(まあ、とりあえずは春の県大会だ)
関東大会まで勝ち進めたら、ベンチメンバーは変更されるかもしれない。
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