世界の果てへようこそ

euReka

世界の果てへようこそ

『何か変なものを作って世界を変えてみよう 世界大会』というものに出場したら、なぜか優勝して、一兆円の賞金を貰ってしまった。

 優勝カップを抱えながら会場を去ろうとすると、メディアの記者たちがわらわら集まってくる。

「数々の強豪を抑えて、今、優勝を手にしたご気分は?」

 変な気分です。

「あなたの作った変なもので、世界は本当に変わると思いますか?」

 そんなの、私に分かるはずがありません。

「優勝賞金である一兆円の使い道は?」


 自宅のアパートに帰って一息つき、缶ビールを飲みながらネットニュースを見ていたら、私の顔写真つきの記事がいくつも出ていた。

 次の日には、自宅のアパートがネットで特定されて、昼夜かまわずメディアの記者や野次馬が集まるようになった。

 他の住人にも迷惑をかけることになるので、私はリュックサックに最低限のものだけを詰めてアパートを飛び出した。


 それから私は、記者たちの尾行を巻きながら、目についた百円ショップで変身グッズを買って変身し、一番近くにある国際空港から飛行機に乗った。

 機内で十時間ほど過ごすと、私はある小さな島に到着したのだが、現地の空港でまず目についたのが、「世界の果てへようこそ」と書いてあるカラフルな看板だった。

 とりあえず外へ出て、地面にただぼんやりと座っていると、島の少女が私に話しかけてきた。

「あなたは人間の形をした石なの?」

 私は何と答えていいのか分からず、ただ苦笑いをした。

「ぜんぜん動かないから石かと思ったけど、人間なら、うちに来てごはんでも食べない?」


 その後、私は少女の家で食事や寝床を世話してもらうことになり、魚獲りの仕事などを手伝いながら、彼女の家族になんとなく溶け込んでいった。

「兄さんはあまり笑わないから、ときどき退屈になることがあるの」

 私は少女から兄さんと呼ばれている。

「だけど、兄さんがずっとここにいてくれるなら、それでもいいと思うの」

 私には、この家族にお礼するものが何もないので、賞金の一兆円が入っているであろう銀行通帳を、少女の祖父らしき老人に渡した。

 老人は首を傾げながら、長方形の通帳を三十秒ほど眺めたあと、それを神棚に供えてお祈りをした。


 あれから三十年経った今でも、銀行通帳は家の神棚に置かれたままだし、世界が変ったのかどうかも私には分からない。

 でも、何とか生きていけているので、大会に優勝したことはたぶん良かったのだと思う。

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