22話
「やれば出来るじゃねーか、皇。」
「…先生には叶いませんよ。」
「おこちゃまな年齢で叶うわけねーだろ。無駄に歳とってねーから。」
「はぁ。」
一気に肩の力を抜いたような顔付きで、皇さんは此方を見詰めて来てから陽平父さんの方を向き。更に一戸さんの方に視線を向け、ってちょっと残念な子見ている目に感じるのは気の所為?
「クラスメートだし何かあったら不味いから一応忠告しておくね。写真は撮影するのは良いけど、プライベートだからネットとか彼方此方にバラ撒くと事務所が口を出して来るからお勧めはしないかな。」
クラスメートだったの?
昨日クラスで姿を見なかったよね?
確か何処かの席が空いていた気がするけど、そこの席が皇さんの席だったのかな。と言うか、事務所?先程一戸さんが「有名人だし」って言っていたけど、芸能人か何かなのかな?
「了解であります!っていうか、大丈夫。身内以外では特に見せないし、身内と言ってもそこにいる優樹君と一戸先生と後は家族位だし。あ、そだ。後で皇君と優樹君に印刷してから渡すね~。」
「何で僕も?」
「結構良いショット撮影出来たんよ~。ほら、コレコレ!」
一戸さんがスマホの画面を見せてくれたけど、其処には困惑する僕とじっと僕を見詰めている皇さんのツーショットが表示されている。
「…可愛いな。」
「でしょ、でしょー!もっと優樹君の写真いらない?」
欲しいって言わないで下さい、皇さん。
そして速攻で了解しないで下さい、一戸さん。
「この写真どう?!」って皇さんに見せた写真、それ僕が昨日教室に休み時間を使って来ていたαさん達を見て、驚いていた時の写真だよね。バックに上の学年の人達が大勢写っている。
蒼志さんは威圧が無くなったのでほっとして席に座り、此方の様子を窺ってノンビリしているだけで特に何も言ってこないけど、ちょっと面白そうにしていない?
「何時撮影したの!?」
「んふふ、休み時間とかー。」
「いや、僕学校まともに来たのって昨日と今日…。休み時間撮影された記憶ないよ?」
「杏花音人のこと言えねぇな、お前は立派な優樹のストーカーだ。しかも隠して撮影とか、何処の犯罪者だ。」
「ええええ!?」
ガーン!て言う効果音がしそうな程驚いている一戸さんに、陽平父さんがニヤニヤしながら意地の悪い笑みを浮かべる。
「だってだってだって!うちの身内って皆ドギツイ男αばっかりで、Ωなんて今まで私一人だったのよ!こんな可愛い子なんて初めてで嬉しいのに、どうして今まで会わせてくれなかったのよ~一戸おじさん!」
「お前昔から何かしらね―けど、優樹みたいな子好きだから会わせたく無かったんだよ。それに俺結婚したばかりだし、更には結婚して即俺の義理息子になってくれた優樹は中学3年の受験生。結構デリケートな時期だろ?それに杏花音だって同じく受験生だったし、お前の兄だってそうだ。そんな状態で遠縁のお前達を紹介して優樹に変な負担掛けたくなかったからよ。」
そうだった。
僕、今までそういうこと気が付かなかったな。
何時でも美味しいご飯や家の中の家事を率先してくれていたから、もう一人の『お義父さん』が出来て単純に嬉しかったし、何より初めてヒートを迎えてしまった時のゴタゴタや阿須那父さんと元母の離婚で、当時は頭が一杯になっていたから。
チラッと陽平父さんを見ると、此方を心配そうに見詰められる。
んん?何故心配そうにしている…あ、そか。皇さんのことか。もう大丈夫だよ、圧がもう無いから。安心させるように微笑むと、また頭に手が乗って撫でてくれる。
えへへ、嬉しい。
父さん達に撫でられるの、好き。
高校生にもなって何時までも甘えるなんて、とは思うよ?でも好きなものは好きなんだ。
以前は阿須那父さんしか甘えられなかったから、こうして撫でて貰える人が増えるのが嬉しい。
元母は今こうして考えると、幼少時からちょっと距離があった気がする。何故か『こうじゃない』ってずっと思っていた。今もその感情が何なのか良くわからないけど、でも阿須那父さんと陽平父さんが結婚して家にいてくれる日々は毎日が幸せで。
それが『本来あるべき家族』のようでとても嬉しいし、何より楽しい。
何故だろね。
僕を産んでくれたのは元母だとは思うのだけど、元母と家に居ると、『違う』『こうじゃない』ってずっと思っていた。口には出さないけど、それがとても不思議だった。それなのに陽平父さんと阿須那父さんが結婚し、僕が息子として三人で家に居るととても温かくて居心地が良い。
阿須那父さんも前とは違って、幸せそうに笑っている。
今気が付いた。
僕、元母に『家』で撫でられたこと無い。
記憶がない幼少時はあったとは思うけど、撫でるのも抱っこも大好きだよって言われるのも親愛のキスも、何時も阿須那父さんだけだったし、物心付いた時には既に元母が居た時には一人で与えられていた部屋に居させられていたし、それが普通だと思っていた。
その間元母は何をしていた?
僕は元母の姿を見た記憶がない。
パートに出ていたの?仕事をしていたの?それとも家事をしていたの?
と言うか僕、阿須那父さんが仕事を終わって帰宅してからじゃないと、元母を家の中で見たことが無い気がする…。
もしかして、数年前の元母の実家で。
僕がヒートを起こしたことにより豹変し、暴言を吐きまくっていた元祖母の横で無表情で突っ立ったまま、無言で此方を見下ろして居る異常な状態の元母は、何時も阿須那父さんが居ない時の元母の状態だったって言うこと、なのかな…。
ぽんやりした気分になっていると、妙な視線が陽平父さんと皇さんの方から感じた。
「うぐ、確かにそうですけどー!でもー!でもー!可愛い優樹ちゃんとお買い物とかお出掛けとか、遊びに行くとか色々したい~!!勿論他のお友達も一緒でもオッケー!」
「お前の場合、他のお友達って所に【可愛い子に限る】が付きそうだな。てかそれ、今からでも出来るじゃねーか。」
「そーでした!うわーうわーマジか。ラッキー!」
「それ、優樹にとってみたら地獄でね?」
なぁ、と陽平父さんに言われてハッと我に返って苦笑する。
と同時に、ポスポスと背を軽く触れて来る。
こういう親子っぽい触れ合いとか、小さい時は阿須那父さん以外無かったな…。
だから僕は陽平父さんを義理とは言え、『親』として認めた。何より、どうにかしようとして狼狽えて、オロオロしている阿須那父さんのフォローをしてくれるのが嬉しかった。
陽平父さん家族として、『お父さん』として大好き。
へへへと笑ってから少し間を開け、此方をじっと見詰めている皇さんから視線を外して一戸さんに向き直る。
彼方此方のお店とかハシゴしそう。
しかも女の子が入るような、ファンシー系のとか。
僕はそういうの、似合わないし入店とか無理ですからね。
「ち、違うもん!ね、ね?そりゃぁ、ちょっと可愛い雑貨屋とかお洋服とか色々入ってみたいな―とは思うけども!ついでに某ファンシーランドとかに行って、一緒にネズ吉やネズ美な耳とか付けて一緒に写真撮影したりとかしてみたいけども!」
「え、無理。僕可愛い格好似合わないから。」
「優樹ちゃあああ~ん!?」
そんなコト無い!絶対に可愛いから!と断言&喚いている一戸さん。
「いや、似合うだろ。」
「止めて蒼志さん。僕男ですからね?オメガとは言え無理ですよ。」
「いやいや、優樹お前似合い過ぎるからな。」
「陽平父さん!?」
「確かにそうだな。」
「ええ、皇さんまで!?」
ショック!
唖然としていると、「うっかりしていた。」と皇さんが言い、陽平父さんの方を向き、
「此方へ来たのは学園の門で部外者が連絡してくれと散々訴えて泣き付いて来たらしくて。偶々側を通りかかったら頼まれたので此方に来たのです。」
「う、わー…まじか。」
そこで思いっきり思い当たるのか、蒼志さんが額に手を当てて「頭痛い…。」と呟いている。
「あのワンコがこの学園のセキュリティーの前にはどうやっても強行突破出来ず、ついに最終手段『泣き落とし』に出たのか。」
昨日といい今日といい、警備員達に多大なる迷惑を掛けているなぁこれは。と、陽平父さんがガックリと項垂れ、それを見た蒼志さんまでが項垂れている。
「ですね、はぁ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。後程警備員の方々と先生方に菓子折り持って謝りに伺います…。」
「大方昨日のニュースでも見て、当人の無事を確認しないと安心出来ないって言う奴だろ?」
「そうなのでしょうが、うっかり姿を見せると五月蝿くなるし、周囲にまたご迷惑をお掛けする羽目になりますから、メールだけで報告をしていたのですが。」
「そうか。んー…蒼志、前に徹に会ったのは何時だ。」
「春休み前です。煩いのでその後は一切会っていません。」
「…ある意味徹底しているな。だが、それが今回不味かったのかもな。まぁ面倒になったら俺が引き離してやるから、これ以上警備員達に迷惑掛けられないうちに引き取りに行くぞ。」
「とは言っても学園には入れられませんからね。それと僕は夕飯時には予定がありますので。」
「大丈夫だいじょーぶ。保護者に連絡入れるから、このまま『喫茶ロイン』まで引き摺って行くぞ。付き合え蒼志。」
「ええー…って、優樹君と一戸さんの勉強を見ないといけないのですが。」
両親とそういう約束で来ていると蒼志さんが物凄く嫌そうに抵抗しながら喋る。
そんなに徹君と会うのが嫌なのだろうか?と聞いてみようかと思ったけど、慎んだ。僕が初めて会った時から蒼志さん、徹君の事を避けていたから。
蒼志さんの本心では無いように見えるけど、この件に関しては僕は間に入るべきでは無いと思うから。アルファとオメガのことだし、何より徹君の執着は『番』ならではかも知れないから。
もう少し徹君が大人になって来たら、頑なに拒否続けている蒼志さんの心が柔らかくなるのでは無いかと思うんだよなぁ。今は中学生だから、後5年後かな。高校生位になって来たら落ち着いて来るだろうし、αだからもっと大人びて来るだろう。
等とつらつらと考えていたら、冷気を纏ったような視線が皇さんから来ているのだけど、何故!?咄嗟に陽平父さんの背後に回ろうとしたけど我慢をする。何だか今此処から動いたらもっと駄目な気がするから。って、何で僕こんなに寒気がする視線に晒されるの!?
「皇、止めろ。」
ポコンと軽く陽平父さんが手刀を皇さんの額に当てるふりをし(実際には当てていない)、その仕草で我に返ったのか、皇さんの表情が抜けた顔になる。
「…すいません。」
また、やってしまいました。
吐息を吐き、項垂れる様を見ておや?と思う。αってもっと尊大な態度で居るって聞いたことがあるのだけど、皇さんはどうやらそうでは無いらしい。
いや、何だかこの学園のαもどっちかって言うと、やけにΩに優しいと言うか、触れたら壊れると言わんばかりに遠目から見られている気がする。それに一戸さんのお兄さんである京夏さんは割と何処にでもいる男性という気がするし、落合先輩等お茶目な人だ。おまけに京夏さんを気に入ったのか、戯れて遊んでいる。
この学園だから特殊な環境なのかも知れない。
「うーん…この状態の皇にあとを頼むのはちょっと気が引けるが仕方がない。杏花音、優樹、先生は蒼志を連れ、表で待惚けをしているワンコを保護者に引き渡して来るから抜けるな。ってわけで皇、2人に勉強を教えてやってくれ。そうそう、後でもう2人程αが来るけど威嚇するなよ?って、出来るよな?」
「先生、私あまり授業出ておりませんが。」
「は、入学試験トップの奴が出来ないワケ無いだろ。おっと、忘れないうちに忠告しとくがうちの息子に無理強いはするなよ。」
では後は任せた。
そう言って、陽平父さんと蒼志さんの2人は連れ立って出て行ってしまった。
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