新人カメラマンと先輩カメラマン
「ちぃ、相変わらず皇恭介は堅いな。」
ガサゴソと先程この場所に来る途中であったコンビニに入り、あんぱんと牛乳パックを購入。それだけでは足りないから、コンビニで売っていたおにぎりも追加。
何だか炭水化物ばかりでカロリーが高い気がしたから、明日は野菜生活を強いるか…。
言っとくが野菜ジュースでは無いからな。ちゃんとした葉物野菜やら緑黄色野菜やらだからな。出来たら牛蒡とか人参も食いたいな。近所のスーパーの惣菜かコンビニのになるだろうが、無いよりはマシだよな。ああ、母ちゃんのきんぴらゴボウが食いたいぜ。
肉じゃがもいいなぁ。
筑前煮も大好物だし、前に母ちゃんが作ってくれたイワシの香草パン焼きでも良い。
母ちゃん冷凍便で送ってくれないかな。
一度電話して頼んでみようか。
材料費とか送料とか此方持ちで良いし。
昨年も今年も帰省出来なかったからなぁ、夏か年末ぐらいは実家に顔を出したいものだ。
くぅ…男やもめは寂しいな!
「そーっすね先輩。ぜんっぜん隙がないっすよ。」
あ、こら俺の5個入りアンパンに手を出すな。
何、一個ぐらい良いだろうって?馬鹿野郎腹が減るんだよ、こちとら朝から張り込んでいて昼は抜いていて禄に飯食ってねぇんだから。
可愛そう?そう言うなら俺のアンパン二個返せ。てめぇ一個だけならまだ勘弁してやるが、二個は無いだろう。ああ、俺の本日の晩飯が!
ケチぃって可愛く言うな、あああ、腹が減るっつーの。
仕方無いアンパンを…おい。いつの間に一個しか残っていないんだよ。買ったの俺だよな!?お前4つも食ったのか。腹減ってついって、お前俺のメシ…。
うう、もう良いよ。コンチクショウ。
泣く泣くアンパン一個とおにぎりで『腹が減った』と鳴く腹に収めるが、かなり足りない。
仕方無い、帰宅時にどっか店入るか。
ラーメン屋開いているかなぁ。
「昼間など、撮影時に紛れ込んだ一般人の女のヒートに当てられそうになって速攻で消えたな。」
「あの女狐っすね。」
「所詮安い薬で無理矢理引き起こしたヒートだったから、勘付いたのかも知れんな。」
「つーか、ハニトラ怖えっす。イッちゃった女怖いっす。」
「安心しろ、お前はβだ。滅多なことではΩのハニトラになど引っ掛からん。」
「えーでもー俺もあのハニトラはちょっと無いと思うっす。卑怯っす。キモいっす。女として最低だと思うっす。つか、自分の彼女になど選ばないっす。無理ゲー過ぎっす。むしろ罰ゲームっす。」
「まぁなぁ。しっかし、比較的大した騒ぎにもならずに収まったってことは余程の幸運か、場慣れしているか、だな。」
確かあの時は撮影現場が騒然となって、他の新人のα…女性モデルがヒートに煽られて、酷く体調を崩したような感じになっていた。大慌てで付き人だかマネージャーだかが、乱入してきた女とαモデル達に投与して沈静化させて居たけど。
ついでに他のモデル達も事故的な何かが起これば不味いと、自ら抑制剤を投与していて現場は混沌としていた。
その際にヒートを起こしたΩ女が最近、皇の周囲でストーカー行為をしていると疑惑を持たれていたって言うので速攻で警察にお持ち帰りされて居た。恐らく裁判やら何から皇の事務所とかから制裁を受けるだろうなぁ。
もしかしたら皇グループ関連からも制裁を受けるかも知れない。
馬鹿な女だ。
「慣れているのではないっすかー?仮にも御曹司ですしー。」
後輩がノホホンと持参してきたタンブラーを取り出し中身を飲んでいると、道路の向こうから高級車…恐らく皇家の黒い車が現れた。
「やはり車呼んだか。しゃーない、今日はもう無理だな。」
「そうっすねー先輩。お疲れっした。」
皇が乗り込んだと思わしき音が微かに聞こえ、これはもう今日の仕事は終わりだなと溜息をつく。と同時に後輩はイソイソとついさっきまで飲んでいたタンブラーを荷物に終い、さっさと仕事道具まで片付け、「おっしゃ、今日は時間早かったから深夜までやっているスーパーに行って買溜めするぞ~。煮物作るのだ~。煮魚も作るのだ~。」等と、俺の空腹を誘発する発言をする。
…もしかしてワザトか。
俺のメシのアンパン食ったのもワザトか。
4つも食いやがって、食い物の恨みはナントやら、なのだ。
寄越せ、その旨そうなおかず達を!
「ばーか、お前はこれから俺と一緒に調べ物だ。」
「ええええええ!ちょ、俺これから用事が!」
「スーパーだな。深夜までやっているスーパーに行くんだな。」
「ちょ、何でそれを!」
「お前ついさっき口に出していただろうが。聞こえないと思ったのか、ん?」
「いやあの、そのあの、俺給料安くて、ですね。先輩みたいに外食など出来ない位に貧乏でしてねっ」
「へーほーへー。だから?」
「先輩ぃぃぃ~~後輩に遠慮って考慮は無いのですかぁあああ~!」
「無い。あったら寧ろ消す。つか、アンパンの恨みだ。」
「どんな恨みですかああああー!」
ぎゃぁぎゃぁ喚く後輩の襟首を掴み、俺は後輩が向かう予定だったスーパーへと歩を進める。今日の夕飯はやっとまともな飯が食える(勿論後輩お手製)とご満悦になるのだった。
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