11話
「違います。」
速攻で美少年が答え、「ぐあ」と悲鳴を上げて店長さんがその場でカウンターから姿を消した。
ガタンと言う音がカウンター下から聞こえたので恐らくそこに居るのだろうとは思うが、何処かコミカルな印象を覚える。
「HP 9999。痛恨の一撃。この店『喫茶ロイン』の店長、不破晃洋はHP1になった。コマンド。」
カウンターの下の方から何処のRPGだよと言う台詞が聞こえて来る。
少し店長さんが居る所を覗いて見ようかなと思ったけれど、やめておく。
「一発蹴り飛ばせば即死だな。と言うか、HPそんなに無いだろうが。あっても20ぐらいだろ。」
父さん、その突っ込み不穏です。
店長さんのHPうんぬんは僕は知らないから何とも言えないけど。
「なら僕が。」
って、美少年が居る方からドカッと言う音が。
「GAME OVER。…がく。」
ぷ、と言う声がフードを被ったお客さんから漏れ出る。口を抑えて肩が小刻みに震えているっていうことは、爆笑したいのを抑えているのかな。
「はいはい、『フェニックスの尻尾』『世界樹の葉っぱ』えーとあとわからないや。何でもいいから兎に角復活。」
店長さんが居ると思われる方向に美少年が何時の間にか手に持っていたティッシュを一枚ひらひらと下に落とし、妙な演出をしている。思わず「復活のティッシュ。」と呟いたら、フードを被ったお客さんが大爆笑をしてテーブルに突っ伏していた。
ツボに嵌まったようで、何よりです。
「えーそんな簡単に復活するの、俺?」
「速攻復活して仕事しないと、今日の休憩の不破さんの珈琲に雑巾の絞り汁入れてやる。」
「はひ、復活します~~。」
よいしょと言う声が聞こえて、カウンターに現れた店長さんは苦笑いをしつつ、「ちょっと奥に行って仕込みの材料持ってくるよ。」と店の奥に引っ込んでしまった。
「そうそう、誤解を与えたみたいだけど。店長と私は雇い主と雇われ苦学生って設定です。」
設定なのか、そうなのか。
突っ込んで良いのかな、この設定。
「設定って。」
あ、フードを被ったお客さんがまたまた苦笑して突っ込んでいる。
この人結構笑い上戸なのかな?何だか今日だけで結構笑い声聞いている気がする。でもその声が何だかとっても耳障りがいい気がする。しっとりするような、そうでないような…
うーん…何だろう。
席が一つ開けて座っているせいか、良くわからないモヤモヤした感じがする。それに声がする度に少しビリビリするような、お腹の底に微かに響くような変な感覚。
それでいてもっと声を聞きたいような不思議な気分。
何だろう。
本当に何だろう。
この感覚って前に感じたことがあるような、無いような。
「いや、だってまぁ、ねぇ。苦学生は事実だけど番では無いです。」
お金ありませんし、まだ学生ですし。
と、美少年はだから此処で働いているのですよと真顔で話す。
「とは言え事実上の番みたいなものだろ?」
「違います。第一まだ契約は成されていません。」
「さっさとしたらいいのに。」
「未成年なので。それに不破さん口ではああ言うけど、僕みたいなかなり年下な、親と子供程に歳が離れ過ぎた私には真剣にはなりませんよ。彼、モテますし。」
ああやっぱりかなり年齢が離れている。
そしてこの美少年がそこの所を拗らせている、そんな気がする。
等と思いつつ僕が口出しするのは余計なことだよね、と沈黙する。
それより、何だかボーとする…。
もっと、もっと。フードを被った彼の声を聞いていたいと思う。会話、朦朧としているせいか頭に入ってこないし。
「それ以上言うとアイツ泣くよ?」
それまで黙ってオムライスを食べていた父さんがフードを被ったお客さんと美少年に、「悪いけど」と一言断りを入れて口を挟む。
「あの目は真剣だ。…俺は偶然にも不破と同郷の狭い小さな村出身だ。そんなもんだから子供の数等同じ世代だと10人も居なかったからな、嫌でもアイツの性格を熟知している。」
「…。」
ほんと、腐れ縁長いから俺達。と、父さんは呟く。
その腐れ縁には陽平父さんも含まれているのだろうなぁ。元祖母が居た村出身だって、阿須那父さんも陽平父さんも話していたし。ああ、元母もだったなぁ…。
何だかあの村出身者って結構僕の近辺に居る気がする。ここの店長さんだって父さん達と同郷ってことは同じ村出身ということ。
結構狭い村だから、僕と元祖母のこととかも知られているのだろうか。
そう言えば阿須那父さんも同じ村出身なのに、あまりその辺りのことを話したことも聞いたことも無い気がする。僕自信は当時の元祖母の印象が強すぎて話題にしたくないと言うのもあるのだけど、阿須那父さんもそうなのかな。
あの元祖母、強烈だったものなぁ…。
「今日会ったばかりの君に知った風に言うのも可笑しいが、αとΩが惹かれ合うのは年齢は関係ないのではないか?それ以前に人を好きになる気持ちに年齢なんてどうにもならないだろう?それは君が一番わかっているのでは無いのか?」
「それ、は…。」
「余計なこと言って悪かった。と、息子の前で言うことでは無いな。すまん、戯れごとだ、忘れてくれ。」
話は此処で終了。
とでも言うように父さんは今まで弁舌に話していた口を閉ざした。
僕はそこで此方に向かって、店の奥から阿須那父さんに向かってペコリと頭を下げる店長さんを見た。
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