第23話:騎士の努力は実る……?
女学院に紛れ込んだ悪魔は英雄「アシュレイ=イグニシア」の手によって倒された。(ただし、そのとき英雄殿は婚約者と激しく愛し合っている最中であった)
そんな噂がイングリード全域に広がり始めた頃、ようやく女学院は元の落ち着きを取り戻した。
悪魔の残党がいるかもしれないと考えた討伐隊が女学院に居座り、結果レインの事がバレそうになったりもしたが、なんとか隠し通すことも出来た。
その後一ヶ月ほどたち、ようやく討伐隊が去ったことで俺はついに念願の瞬間を迎える―――――。
はずだった。
「アシュレイ」「あーん」
「俺が求めていたのは、そのあーんじゃない!!!!」
美しい双子にケーキを差し出され、俺はテーブルにガンッと突っ伏す。
ちなみにいつものカフェの、いつもの席でのことである。
「なんで?! ねえ、なんで?!」
「ケーキいらない?」「ケーキ食べない?」
寂しそうな顔をする双子に、俺はうっと声を詰まらせる。
どういうわけか、俺はイオスとジャミルにものすごい勢いで懐かれている。
討伐隊は念のためにとこの二人を女学院に残したのだが、以来こいつらは俺にべったりなのだ。
おかげでカインとレインは超絶不機嫌になり、「カイン様がかまってくれない!」とセシリアからも日々殺意を向けられている。
そしてギーザと言えば、そんな状況にやっぱり胸を高鳴らせていた。
『ほら、あーん。あーんしちゃいなさい!』という声が聞こえてきそうな顔で、通りの向こうからギーザがこちらを見ている。
仕方なく二人の手からケーキを食べれば、彼女は幸せそうに身もだえていた。
「おいしい?」「おいしい?」
「美味しいけど、胸が痛い」
両思いになったのだから、ギーザとここにこれると思っていたのだ。
討伐隊も去ったし、ようやく時間だって取れたのだ。
なのに誘っても、彼女は頷いてくれなかった。なぜか真っ赤になって逃げ出された。
そしてそれを嘆いていた俺は双子に薬を盛られ、目覚めるとこの席に座らされていた。
「っていうか、お前らやることが危なすぎるだろ」
「危ない?」「何が?」
「ケーキ食べたいなら、普通に誘いなさい」
「普通だよ」「これ普通」
「普通は薬は盛らねぇだろ! 一緒に行きたいなら言葉で誘え! 言葉で!」
途端に双子は「なるほど」という顔をする。
ゲームでも突飛なことをしでかすキャラだったが、あれ以上かもしれない。
これは常識を教えないとと、俺は頭がいたくなってくる。
するとそのとき、俺はどこからか視線を感じた。
それもすぐ近くだと気づいて顔を上げると、すぐ側の窓にカインと人間モードのレインが張り付いている。
なぜ自分を誘わなかったのかと訴える顔に負け、俺は店員に新しいケーキを注文し席を二つ増やして貰う。
そして始まった男だらけのティータイムは若干殺伐としていたが、遠くで見ているギーザは喜んでいたようだ。
「うん、よしとしよう……。両思いだし、離れていても心は繋がっているし……!」
半ばやけくそになり、俺もケーキを追加注文する。
こうなったらギーザが喜びそうな状況を作ろう。
イケメン勢揃いなんてそうそうないし、スチルになりそうなティータイムを楽しもうと俺は決める。
「でも俺だって、これで終わるつもりはないからな……」
やけくそにはなっているが、もうかつての俺とは違うのだ。
そんな事を考えながら、俺はポケットに入れた小箱をぎゅっと握りしめる。
その中に入っているのは、この前ギーザのために買った指輪だ。渡すのはまだまだ先になりそうだけれど、それでも絶対に諦めたりはしない。
だって俺は彼女の元夫であり、推しであり、今やこのゲームラスボスでもあるのだ。
だからどんな手を使っても、ギーザとの二度目の恋を成就させる。
恋人になって、デートして、二度目のプロポーズを絶対に成功させるのだ。
そして今度こそ、もう二度と彼女を放さない。
そんな覚悟と共に、俺は四方から差し出されたケーキを次々食べる。
理想の「あーん」ではなかったが、彼女の好感度が上がるならなんだってやってやると、俺は覚悟を決めたのだ。
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