とある神の話

神は言った。

「男は目で言い、女は口で言う。」

「男は口で殴り、女は目で疑う。」

「男は鼻で覚え、女は鼻で物を探す。」

「男は耳で噂を聞き、女は耳で真実を聞く」

「男と女の第六感は、感じることにある。」


この話を聞いた子供が問う。

「なぜ、神はこのような言葉を残したのか」


その子供の父が答える。

「その神様は、人の世を知り、人と関わり、人を信じて、悪を嫌った。長年の経験を元に言葉にした。その言葉を。」


子供は傾げる。

「分からない。」


父は言う。

「いつか分かる日が来る。その時には私はいないだろうが。」


そう答えた数年後、父は亡くなった。

子供は育ち、知らぬ外へと旅立った。


母は見送り、涙を流す。

その涙は音もせず、静かに消えていった。


子供は人を見て、知って、聞いて、経験した。


忘れられぬ神の話と未だ分からぬ父の言葉を知るために。


子は思う。

「いつの日か、知ることは有ろうとも、

私はもう、後先が短いだろう。」


子は何年も旅し、母のいる所へ帰る途中、

道で倒れる。


「なぜ帰ろうとしたのか、この歳になれば母は死に知り合いはいない場所に、なぜ。」


今までの思い出を振り返り、

自分が密かに神について知りたがることを知った。


走馬灯が走る。

神の言葉、父の言葉、旅をし関わってきた人達の影。


そして目の前には神々しい人の形をしたなにかが現れた。


子は

「あなたは誰」

と問う。


「私は、君を見ていた老いぼれだよ。」


子は昔のように首を傾げる。


「私を覚えているのは君だけだ。

私と同じような事をしてきた。

君には、私の座を与えよう。人神の座を。」


子は言う

「あの時の神様なのか。」


「私はもうダメだ、若いのにやらせよう。

君にやらせよう。君の代わりに私は死に、

君は無限の時を生きるといい。いつか自分を覚えてくれている人に神の座を継承するといい。」


子は神の座を与えられ、

元の神はこの体へと向かった。


子は神に(ありがとう、頑張れ)と

言われた気がした。


新しい神は人の見えざる頂きへと上り、

この体にある元の神の意思は追憶へと消えていった。

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