マーモンの弱点
マーモンが魔法発動を口にしてしまった。
お終いだ。これで私たちは……。
「……………………………ってあれ? 何も起きない?」
一向に何も起きず、周りを見渡してもみんな無事だ。
「はっ! なんだ、不発か?」
「いいや、既に俺の魔法は発動している」
「何言って……うあ……なんだ、これ」
威勢良く吠えたヘイヴィアだったが、ふらふらと揺れながら膝を折った。
「っく……」
レミリアさんも同様だ。
私もなんか倦怠感が襲ってきて、体に力が入らない。
「なんだなんだ? どうした?」
どうやらゼルだけは無事なようだ。
ということは、これは多分……。
「魔力を奪われた……?」
「ほう、聡いな小娘。そうだ、代償として貴様らの魔力を貰ったぞ」
やっぱりそうなんだ。
魔力を持つ者にとってそれは生命力に等しい。
魔力を失えば、今の私たちみたいに立つことすらままならない。
「よく分かんねぇけど、俺しか動けねぇなら、俺が倒す!」
「ふん、たかがゴブリン一匹、相手にならん」
ゼルは真っ向からマーモンに向かっていく。
けど、ゼルの攻撃はことごとく躱されてしまう。
どうにかしなきゃ。
今の私は戦力にならない。なら、今出来ることは頭を回すことだけ。
でも、相手の弱点なんかわかんないし……。大罪魔法の代償で私たちみんなの魔力は奪われて、マーモンはさらに力を、つけて……あれ? 代償? 私たちの魔力を奪うのが代償ってことは他に何かその代償に見合う願いが叶えられたってこと? それって何?
というか、そもそもなんで代償が魔力なの? 生命力を奪えば、私たちだけじゃなくてゼルも動けなくなったはずなのに……。
私はこれまでの戦いを細かく思い出す。
あれ? もしかして……。
「何か分かったのか? マナ」
いつの間にか私の傍にレミリアさんの姿があった。恐らく体を無理やり引きずってきたのだろう。
「はい、多分ですけど。強欲の天秤の弱点が分かったかもしれません」
「何? どういうことだ、話せ」
「強欲の天秤は恐らくですけど、マーモン自身の願いは叶えられないんじゃないでしょうか」
「なぜそう思う」
「もし、彼自身の願いを叶えられるなら、さっき魔法を発動した時に私たちの死を願えばよかったはずです。でも、そうしなかった。いいえ、出来なかったと考えるのが妥当じゃないでしょうか?」
「確かにそうだが。じゃあ、さっき誰の願いを叶えたんだ?」
「それは私たちじゃないでしょうか?」
「あ? 何故そうなる。こっちは向こうの魔法が分かっていたから、願いと捉えられるようなことは口にしてないはずだ」
「はい、口にはしていません。でも、もし心の中で思ったことを叶えることが可能だとしたらどうでしょうか?」
「だとしてもだ、あいつが魔法を使った後、魔力を奪われた以外何も起きてないぞ」
「逆ではないでしょうか?」
「逆?」
「魔力を奪った後に願いを叶えたのではなく。願いを叶えた後に、魔力を奪ったのではないでしょうか?」
「仮にそうだったとして、あいつは何の願いを叶えたって言うんだ」
「最初にマーモンが大罪魔法を使った時、ヘイヴィアの問いに答えた。たったそれだけのことすら願いとカウントしてました。だとしたら、思い出してください。マーモンは戦いの最中、私たちの攻撃に対して言葉で答えてませんでしたか?」
「…………あ」
心当たりがあったのか、レミリアさんは小さく声を漏らした。
『狙いが甘すぎる』『いいや、わざとだ』『ぬるい』そういったことを、わざわざ言っていたのだ。
「だが、それが分かっても意味ない。心の中で思ったことすらも願いとして叶えてしまうのなら、避けようがない」
「いいえ、弱点と言ったのは、そのことではないです。彼自身が強欲の天秤の対象外ってことです」
「それが、何だって言うんだ?」
「強欲の天秤は本来術者の願いを叶えるものです。でも、マーモン自身の願いは叶えられない。それはつまりマーモンは術者ではないということ。そして、彼は最初に言いました大罪魔法の悪魔だと」
「ん、まさか」
どうやら、レミリアさんは気が付いたようだ。
「だったら……」
「はい、ゼルならあのマーモンを倒せるかもしれないです」
「だが、作戦はあるのか?」
「あるにはあります。ただ、問題は私の魔力がほとんどないことです」
「なら、アタシの魔力を託す。後は、任せた」
「はい」
レミリアさんが差し出した手をギュッと握りしめる。
すると、僅かばかりの魔力が私に流れてくる。それと同時にレミリアさんは全ての力を使い果たしたのか。気を失ってしまった。
チャンスは一回だけ。
今までの私だったら諦めてただろう。けど、今は違う。
「ゼル!」
私は大声でゼルを呼ぶ。
「なんだ!」
ゼルは私の声に反応しながら、マーモンと戦っている。
それを見ながら、私は自分の仮説を確信へと変える。
「マーモンを倒す方法が分かったわ!」
「それはなんだ!?」
ゼルとの距離は遠い。だから、私はマーモンに聞かれるのもお構いなしに大声で叫ぶ。
「ディスガイナ! それで魔力を吸収して!」
マーモンは自分を大罪魔法の悪魔と呼んだ。それはつまり彼は強欲の天秤という魔法そのもの。
だから、魔法を吸収するディスガイナが触れれば、強欲の天秤を吸収して大罪魔法を使うことは出来なくなるはず。
その証拠に今までの戦いでレミリアさんとヘイヴィアの攻撃は受けても、ディスガイナの攻撃だけは絶対に避けていた。
「理由はいる!?」
「いや、いい! マナがそういうなら信じる!」
だよね。ゼルに細かいこと言っても分からないだろうし。
「でも、攻撃が当たんねぇんだよ!」
「大丈夫! 私が何とかするから! 真正面から攻撃して!」
「了解!」
私の言葉を信じたゼルは深く踏み込み、言葉通り真正面からマーモンに斬りかかる。
「今更、そんな直線的な攻撃が当たるか」
マーモンはディスガイナを警戒して回避行動を取ろうとする。
今っ!
「!」
その瞬間、正面から斬りかかってきたゼルの姿が消える。
「消えた……いや、後ろか」
マーモンは振り返るとそこにはディスガイナを振り上げるゼルの姿があった。
「ふん、ガラス魔法で残像を作ったか。いい腕だが、俺に聞こえるように作戦を話したのが運のつきだ。あの言葉を馬鹿正直に信じると思うか? 正面から来ないと言っているようなものだ」
マーモンは右手を突き出し、魔力の弾をゼルに向かって放つ。
「これで終わりだ」
魔力の弾は寸分違わずゼルを捉え、その体を貫通した。
「残念だったな。後は小娘、お前だけだ」
マーモンはゼルから視線を外し、私の方を見る。
だから、私は彼の目を見て。
「かかった!」
笑った。
「なに!?」
マーモンは何かを悟ったのか、さっき魔力の弾を放った方を見る。
「ガ、ラス……だと?」
そう、マーモンが攻撃を撃ったのは私のガラス魔法で照らし出したゼルの虚像。
「ファントム・ミラージュ」
私の作戦に引っかかったマーモンは完全に隙だらけだった。
それを見逃すゼルじゃない。
「天導流唯式一ノ型……」
マーモンは知らない。ゼルが高度な読み合いなど出来ないバカであることを。
だから、ゼルは私の言う通り、最初から真っすぐにしか進んでない。
「“神薙”!」
背後を捉えたゼルの一撃がマーモンを襲う。
「ぐはっ!」
そして、マーモンはそのまま吹き飛ばされた。
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