俺が証明するんだ
星暦二〇二五年一月四日。
カルデネ洞窟での一件から二日経った今日。またしても私の元に一通の手紙が届いていた。
その送り主は先日と同じお父様からのものだった。
内容は縁談が本決まりしたとのこと。そして、顔合わせは来週とのこと。
「長いようで短かったな~。私の騎士団生活」
悔いが残るかと言われたらそうでもない。
というか、入ってまだ四日目ってマジ?
アルケ村やカルデネ洞窟のことがあって、もう一生分の仕事をしたのではないのか?
って言っても私が何かをしたかと問われれば、……思いのほか何もしてなかった。
ひたすらツッコんだり文句言ったりばっかりだった気がする。
なんにしてもこことはもうすぐおさらばすることになるだろう。
私が何を言ったとしてもお父様が意見を変えることなんてないのだから。
そう私が何かを諦めようとした時、ふと頭にゼルとヘイヴィアの顔が思い浮かんだ。
あの二人にはちゃんとなりたいものがあるんだよね……。
「ん、何考えてんだろう。忘れよ忘れよ。さてと、とりあず、着替えましょうか」
寝巻から着替える為にクローゼットに手を駆けようとしたその瞬間。
「おう、マナ。起きてるか!」
「きゃああああああ!!! 何勝手に入ってきてるの!?」
何の前触れもなく部屋の扉を開けてゼルが無遠慮に部屋の中に入ってきた。
「なんだ? そんなに騒いで」
「女の子の部屋に無断で入るってどんな神経してるの!? せめてノックくらいして!」
「別にいいだろ。知らない仲じゃないんだし」
え? 何? 私がおかしいの? なんでこのゴブリンこんなにデリカシーがないの?
「もし私が部屋で着替えてたらどうするのよ!」
「どうするって、別にどうもしないけど?」
ああそうか。これあれだ。種族が違うから起きるギャップだ。きっとゴブリンの生活圏じゃノックって文化がないのだろう。
あと、ゴブリンだから人間の女性の裸にも興味がないんだ。
……いや別にそれはいいんだけど、なんかちょっと悔しいって思ってしまった。いや、嘘。やっぱり今のなし。
「とにかく、他の人はともかく、私の部屋に入る時はノックしてよね。絶対だからね」
「ん~、分かったよ」
渋々と言った感じでゼルは了承した。
「それで? こんな朝早くから私の部屋に何の用?」
「ああ、団長が呼んでるから早く下に来いよって伝えに来た」
「団長が? 何の用だろう?」
「さぁ? でも行けば分かるだろ」
「そうね。着替えたら、行くからゼルは先に行ってて」
「ほ~い」
「あ、待ってゼル」
「ん? なんだ?」
「え、あ、いや……」
あれ? なんで私、ゼルを呼び止めたんだろう?
自分でも分からない。でも、何か聞かなきゃいけないことがあった気がする。
「用がないなら先に行くぞ」
ゼルの背中が見えなくなりそうになったその時。
「ゼルは!」
「あ?」
「ゼルはどうして勇者になりたいの?」
そう自然と言葉が漏れた。
「マナは世間でゴブリンがどんな風に思われているか知ってるか?」
「………うん」
もちろん知っている。
最弱の種族にして醜い容姿。
世間の評判はあまりいいとは言えない。
「俺は勇者になって、見返してやるんだ。俺たちゴブリンを見下してた連中を。そして、ゴブリンの、いや、弱いと思われている種族の評価を俺が変えてやるんだ! 生まれながらにどんなハンデを背負っていても強くなれるって俺が証明するんだ」
その瞳は何にも臆することなくただ前だけを向いていた。
ああ、そうか。このゴブリンはきっと誰に何と言われようとも自分の夢に向かって真っすぐ突き進む。
魔法が使えなくて、身体能力もヒューマン以下。
そんな弱小種族でも彼は努力でそれを乗り越えようとしている。
「ありがとう、ゼル」
「おう」
ゼルもヘイヴィアも強い信念を持っていて自分の夢に向かってひた走っている。
なのに、私は親の言いなりで……。
こんなんで本当にいいのだろうか?
今まで疑問にすら思ったことのないことだけど、二人を見ていてふとそう思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます