ゴブリンVS.AI
「よっ! ほっ! とっ!」
私たちはカルデネ遺跡にある建物の上をぴょんぴょん跳ねながら、真っすぐ大聖堂へと向かう。
「ゼル、ヘイヴィア。敵はリゼさん以外にももう一人いるから気を付けてね」
「はいよ」
「わ~てるって」
二人とも軽い調子で返事を返す。
本当に分かっているのかな。
「っ! マナ!」
何かに気が付いたゼルは急いで私の方へと飛び込んできて、そのまま私を抱え屋根の上から飛び降りる。
ドーン!
すると、ちょうどさっきまで私が立っていた場所が爆発した。
「え!? なに!? 何が起きたの!?」
状況が飲み込めない私は戸惑うしかできなかった。
「大丈夫か!?」
「問題ない! お前はさっさと先に行ってろ」
「礼は言わないぞ」
「いらねぇよ。そんなもん言われたら逆に気色悪いわ」
そんなやり取りをした後、ヘイヴィアは私たちを置いて大聖堂の方へと向かっていった。
「さてと……」
ゼルは抱えていた私をおろし、遺跡の建物に向かって指をさす。
「さっさと出てこい! いきなり攻撃なんて卑怯だぞ!」
ゼルがそう叫ぶと、指さした方から長身の男がゆっくりと現れた。
「卑怯? あいにくと私にそのような感情はインストールされていない」
「い、いんすと? なんだかよく分かんない言葉使って誤魔化すな!」
「やれやれ、これだから知能の低いゴブリンは嫌いだ」
「あ? 誰の知能が低いって!?」
ゼルはディスガイナを抜き、男に向かって走り出す。
「これだからゴブリンは……」
馬鹿正直に真っすぐ向かってくるゼルに男は呆れた様子で肩をすくめる。
そして、左手をゼルに向かって突き出した。
「TNTショット」
男の手のひらがカパッと開き、そこから黒い球体が発射される。
「んだ? なんだか知らねぇが、ディスガイナが喰らってやる!」
飛んでくる球体にタイミングを合わせ、ゼルはディスガイナを振るった。
ディスガイナが球体に触れた瞬間、黄色い閃光と共に球体がゼルを巻き込み爆発した。
「がはっ!」
直撃を食らったゼルは爆風で後方に吹き飛ばされた。
「ぁ……あっつー……。んだ、今の」
ゼルはディスガイナを杖代わりにして立ち上がる。
「なんでディスガイナで喰えねぇんだ?」
男はゼルの質問にすぐには答えず、ゼルの持つディスガイナをじっと見つめていた。
「検索……該当件数一件、神器ディスガイナ。…………なるほど、魔法を喰らう武具か。で、あれば簡単な話。今の私の攻撃は魔法ではない」
「は? 魔法じゃない? じゃあ、何だってんだ」
「科学だ」
男は右肘を軽く握った。
すると、右腕が変形し砲門へと姿を変えた。
「私は自律起動型兵器アイリス。つまり、AIだ」
「えーあい? なんだそりゃ」
ゼルは聞きなじみのない言葉に首を傾げた。
でも、私は彼、いやあれの名前に聞き覚えがあった。
アイリス。それはタイタンで開発された戦闘タイプのAI。相手の動きを分析して先読み出来るプログラミングがされている。
普通に戦ったら攻撃を当てることが出来ない。
それにあの体を見るに恐らくロボット。使ってくるのは魔法じゃなくて科学兵器。魔力を持たない攻撃だから、ディスガイナじゃ吸収することも出来ない。
「気を付けて、ゼル! あいつは生物じゃない」
「生物じゃない? 何言ってんだ? 喋って動いてるじゃねぇか」
「えっとえっと、ゼルに説明しても分かんないだろうけど。とにかく、あいつの攻撃はディスガイナじゃ吸収できないの! だから、真正面から攻撃を受けちゃダメ」
「なんだかよく分かんねぇけど、マナが言うならそうなんだろうな。なら、戦い方を変えるだけだ」
「戦い方を変える? その神器の力に頼って騎士団に入れたんだろうが、それを捨てて私に勝てるとでも?」
私たちの会話を聞いていたアイリスはゼルを挑発する。
「なら、試してみるか?」
ゼルは不敵に笑い、また正面からアイリスに向かっていく。
「では、試してみよう。レールガン、発射」
アイリスは右手の砲門から超電磁砲を放つ。
「この距離、よけられまい」
超高速で打ち出された電磁砲は確実にゼルを捉え、打ち抜いた。
……ように見えた。
「なに?」
ゼルは一瞬にして姿を消し、レールガンを躱す。
「どこへ行った?」
ゼルの姿を見失ったアイリスは周囲を索敵する。
「こっちだ」
アイリスは声がした方へ視線を向ける。
「上か!」
だが、気づいた時にはもう遅い。
「天導流唯式七ノ型……」
ゼルは落下しながらディスガイナを構え、タイミングを合わせアイリスに振るう。
「“
ゼルの攻撃を咄嗟に右腕で受けたアイリスだったが、受けきれず右腕を切り落とされてしまう。
「っく!」
まともに攻撃を食らったアイリスは後ろに飛び距離を取る。
「どういうことだ? 何故、ゴブリンが天導流を使える? 身体能力の高い獣人でも会得するのに長い年月が必要。それ故に使える者が少ない武術。ゴブリンごときに扱える技ではないぞ!」
「知るかよ、そんなこと。俺はただ勇者になるために死に物狂いで修業しただけだ」
「なるほど、これは手ごわい」
アイリスはゼルの危険度を上げ、本気で殺しにかかる。
「標準セット、アイビスバレット!」
アイリスは左手の五本の指から銃弾をガトリング砲のように連続で撃ち続ける。
「天導流唯式二ノ型“白袖の舞”」
それに対し、ゼルは脱力しひらひらと揺れながら銃弾を躱していく。そして、躱しきれない銃弾に関してはディスガイナで銃弾を擦り弾道をずらしていく。
「っ!」
銃弾が効かないと判断したアイリスは銃弾を撃つのを止め、息を大きく吸い込む。
「灰となれ。煉獄爆風!」
息を吐きだすと共に口から炎を吹き出した。
「はあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
しかし、ゼルは臆することなくその炎の中に飛び込んだ。
「なん、だと!」
予想だにしないゼルの行動にアイリスの判断は一瞬遅れた。
その隙を見逃すゼルではない。
「天導流唯式三ノ型……」
炎をかいくぐり、アイリスへと距離を詰めたゼルはディスガイナを大きく振り上げる。
「“
ゼルは静かにディスガイナを振り下ろす。切っ先はアイリスの方を向いていたが、ほんのわずか届いていなかった。
「見事……」
しかし、次の瞬間、アイリスは、いやそれだけではない、その後ろにあった建物全ても真っ二つに引き裂かれた。
「科学だろうが魔法だろうが関係ねぇ。俺はその全てを超えて勇者になる男だ」
「…………ない」
大聖堂の中にある祭壇。そこには本一冊分のくぼみがあった。
だけど、そこにはあるはずの本がそこにはなかった。
「やはり持ち去られた後。ということは、情報はガセで私たちをここにおびき寄せたのはカリストの兵と戦わせるため……でもなぜ……?」
不可解な状況にリゼは首を傾げる。
そこへ一人の少年がやってくる。
「見つけたぜ、リゼ!」
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