月光石

「少々時間がかかったが、着いた。ここが地底都市カルデネ」



 カルデネ洞窟の奥深く、そこには半径十キロに及ぶ巨大な都市が存在していた。

 だが、ここが栄えていたのは過去の話。今ではそこには誰一人として住んでおらず、建物も崩れかけ、苔むしていた。

 そんな地底都市にたどり着いたのはスーツ姿の三人組。



「地底だというのにだいぶ明るい」



 エルフの少年が言う様にここは地底であるが、地上と大差ないくらいに明るく辺りを見渡すことが出来る。



「あれが噂に聞く月光石ですか」



 見上げるとそこには天井を覆い隠すほどの巨大な光輝く石が埋め込まれていた。



「月の光を凝縮させて作られた人工石。売れば無限の富が手に入るとされる宝石よりも価値の高い石。ただ、あのサイズでは持ち帰り用がないな」

「構わないわ。今回の任務に月光石は含まれていないもの。情報通りならここに大罪魔法

のグリモワールがあるはずなのだけど」



 リゼは頭上の月光石から視線を外し、一際目立つ建物に注目する。



「あるとすれば、あの大聖堂かしら?」

「では、すぐに回収しに行きましょう」



 長身の男がそう言い、リゼの前に出ようとした時、彼女はそれを手で制止した。



「いかがしました?」

「……三人。こちらに向かってくる魔力があるわ」

「先ほどの連中以外にもカリストの刺客がいたということでしょうか?」

「さぁ、どうかしら。もしくは……いいえ、例え相手が誰であっても大罪魔法は渡せないわ」

「では、ここには俺が残ろう。リゼ様は先に」



 自ら名乗り出たのはエルフの少年だった。



「そう、ではあなたにお願いするわ。邪魔者は排除して頂戴、セイス」

「御意に」






「うお! でっけい街がある!」

「いやいや、それより天井! めっちゃでけぇ光る石だ!」



 遺跡内を探索してようやく私たちはその最深部であろう地底都市にたどり着いた。

 その光景にゼルとヘイヴィアの二人ははしゃいでいた。



「すごい。あれ、月光石よね? 噂でしか聞いたことなかったけど、本当にあったなんて」



 古代ミケラ文明は魔力じゃなくて月の光を動力にしていたって逸話があるけど、月光石が実在したのならその話もあながち間違いじゃないのかもしれない。

 それに古代ミケラ文明は月から来たって話もあるし、もしかしてそれも本当だったりするのかな? だとしたら、これってすごい発見なんじゃないの!?

 私も幻の石を見て少しだけ気分が高揚していた。

 だから、気づかなかった。



「おや? 三人だと思ったけど、四人か。なるほど、ゴブリンが紛れていたのか」

「「「!!!」」」



 いつの間にか私たちの前にスーツを着たエルフの少年が立っていた。



「あれって……」



 私はその姿に見覚えがあった。



「な! てめぇ! さっき、リゼといた奴だな! リゼはどこだ!?」

「リゼ様の知り合い? って君たちはさっきリゼ様にやられたはずの二人。まだ生きていたのか」

「おい! 俺の質問に答えやがれ!」

「やれやれ、野蛮な人だ。リゼ様なら大罪魔法の回収のため、一足先にあの大聖堂へと向かった」



 エルフの少年はこの地底都市で一番目立つ建物の方を指さした。



「よっしゃ! あそこだな。待ってろよ、リゼ!」



 ヘイヴィアは考えなしに前へ飛び出し、大聖堂へと向かおうとする。



「誰も通すとは言ってないけど?」



 エルフの少年は一瞬でヘイヴィアの前へと移動し、ヘイヴィアを蹴り飛ばした。



「ぐあ、いてぇ……」

「悪いね。リゼ様の命令でここから先へ通すことは出来ないんだ」

「クッソ、あの長耳野郎。邪魔しやがって」



 ヘイヴィアは鼻から流れる血をふき取って立ち上がる。



「あんなやつに時間かけてる場合じゃねぇんだ。さっさとぶっ飛ばす」

「その意見には賛成だけど、君がここで戦うのは違う」



 今にも食って掛かりそうなヘイヴィアを止めたのはベルヴェットさんだった。



「ここは俺が受け持とう。君たちは先へ」

「先へって言われても、あいつが邪魔して……」

「いいから、ここは俺を信じて先に行ってくれ」

「分かった、信じる」



 ヘイヴィアはやけにあっさりとベルヴェットさんの言うことを聞いた。



「じゃ、行くぜ」

「あ、ちょ、ヘイヴィア!」



 また先に走っていくヘイヴィア。私とゼルはその後に続く。



「はぁ~理解できない。この先へは行かせないと言っただろう?」

「っ!」



 エルフの少年はまた一瞬で私たちの傍まで来て、蹴りを放ってきた。

 だけど、今度はその蹴りは当たらなかった。



「なんだ!? 見えない壁……?」



 エルフの少年は足を振り上げたまま固まっていた。

 恐らく振りぬこうとした足の前の空気を硬質化させたのだろう。

 私たちはそのチャンスを逃さず、エルフの少年を振り切って先へ進む。






「っち、三人抜かれたか」



 ゼル達の姿が見えなくなった後、ベルヴェットとエルフの少年は互いに向き合う様に廃墟の上に立っていた。



「だが、あんたを足止め出来たのなら十分か」

「俺を知っているのか?」

「裸の貴公子、ベルヴェット・キリシュライト。カリスト帝国随一の頭脳の持ち主。知らない方がおかしい」

「あまり目立ったことはしていないつもりなんだがな」

「どうだ? うちへ来れば命だけは助けてやろう。うちの研究者連中もあんたの頭脳を欲していた」

「悪いね。その誘いには乗れない。俺は縛られるのが嫌いでね、そういう意味では第七師団は自由にやれて居心地がいいんだ」

「なら、殺そう。その頭脳が敵国にあるのは脅威だからな」

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