ヘイヴィアの過去Ⅱ
リゼを救う、そう決めて以降、ヘイヴィアはどんなにつらい実験にも耐えることが出来た。
いつか必ず彼女をここから連れ出す。ただそれだけを考えて……。
そんなある日のこと。それは突然に訪れた。
「リゼ、今日も帰ってこなかった……」
ある日を境にリゼが部屋に戻ってこなかった。
二日……五日……一週間……どれだけ待っても彼女が帰ってくることはなかった。
その代わり、リゼが帰ってこなくなってからヘイヴィアたちが実験によって部屋の外に連れ出されることもなくなった。
「リゼ……」
不安だけが大きくなっていき、リゼが帰ってこなくなってから二週間がたった頃、我慢できなくなったヘイヴィアは研究員に見つからないように部屋から抜け出し、彼女を探しに行く。
「ここ、じゃないか……」
ヘイヴィアがまず先に向かったのはよく連れてこられていた実験室。
実験に使う器具や機械がたくさん集まっている場所だ。
「誰もいない?」
この研究所の脳とも言うべきその場所に誰もいないことに少し訝しげに思うヘイヴィアだったが、今の優先順位はリゼを探すことであるため、すぐに考えるのをやめた。
「なら、後はあそこか?」
ヘイヴィアはもう一つの心当たりへと向かった。
そこは魔法などの実技実験を行う屋内の広い試験場。
「開いてる……?」
その試験場への入り口が開けっ放しになっていた。
研究員に見つからないように、ヘイヴィアはこっそり中を覗く。
「いた!」
すると試験場の真ん中にリゼの姿を見つけた。
彼女が無事だったことが嬉しくて、ヘイヴィアは研究員の目など気にせずに試験場に入り、彼女のもとへと駆け寄った。
「よかった、無事みたいだな。ここしばらく戻ってこなかったけど何があったんだ?」
「…………」
「リゼ?」
リゼに声をかけるも反応がなかった。
よく見ると彼女の瞳には光が宿っていなかった。
「おい、リゼ!」
ヘイヴィアはリゼの肩を揺らし、彼女を正気に戻そうとする。
しかし、それでも彼女はまるで物言わぬ人形のように無反応だった。
「おい、なんだよ。それ……」
肩を揺らした際、前髪で隠れて見えなかった額が露になった。
そこには前まではなかった赤い石のようなものが埋め込まれていた。
「それはコーディネラルの魔石だよ」
ヘイヴィアの疑問に答えたのは研究員の一人だった。
「コーディネラルの魔石?」
「そう。埋め込まれた人間の精神を乗っ取り、完全なる道具として扱うことが出来る」
「っ! なんでそんなものをリゼに付けた!」
「彼女は合格したんだよ。適合率五十%オーバー。つまり、半吸血鬼となったわけだ」
「それがどうして精神を乗っ取ることになるんだ!」
「我々の目的は人為的に不老不死を生み出すことだ。残念ながら適合率五十%オーバーの彼女でもまだその域には至っていない。だから、我々にとっては失敗作のうちの一つだ。だが、兵器としてみれば、彼女は一級品だ。タイタンはそれに目を付け、我々に彼女を兵器として完成させろと依頼を受けた。言っている意味が分かるか? 兵器に人格は必要ない」
「何してんだよ!」
研究員の言葉に我慢が出来なかったヘイヴィアは彼に飛び掛かる。
「…………」
「なっ!」
しかし、そのヘイヴィアの拳をリゼが受け止めた。
「なにすんだ! リゼ! 俺はあいつを……!」
「無駄だよ。君の言葉は彼女には届かない」
「ふざけんな!」
リゼを退け、研究員に殴りかかろうとするヘイヴィアだったが、ことごとくリゼに止められる。
「確か、彼の適合率は……三%か。うむ、実験体としては不要だな。彼女の試運転の相手としてはいいところだろう」
研究員はタブレットでヘイヴィアの実験データを確認する。
「よし、えっと……名前はリゼだったかな? 彼を殺せ」
「…………」
リゼは研究員の命令にこくりと頷き、手を前に出す。
すると、次の瞬間、ヘイヴィアの足元から水で出来た無数の槍が出現し、彼の体を貫いた。
「が、はっ……!」
体を貫かれたヘイヴィアは全身から血を流し、意識も朦朧としていた。
「リ、ゼ……」
薄れゆく意識の中、ヘイヴィアは彼女に手を伸ばす。
だが、その手が彼女に届くことはなかった。
そして、そこでヘイヴィアの意識は途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます